4コメ『ところで何か忘れてないか?』
――夏休みも終わりが近付いてきた頃。
煉二は夏の暑さを忘れるべく、〈ファンタジオ〉にログインする。
「よっ、今日は最終日だ。いっちょやってやろうぜ」
「……えぇ、でもその前に、あなたにお礼を言わなくちゃ」
柄にもなく肩を狭めて手をいじり、耳も火のように赤くなっていた。
「こんな私に付き合ってくれてありがとう。あの時、怒ってくれてありがとう。そしてごめんなさい、今日までこれが言えなくて。言い訳になっちゃうけど、なんだか気恥ずかしくなっちゃって……でも、どうしてあんなに怒ってくれたの?」
すると、カガリは小さく頬を掻く。
「ちょっと照れくさいな……ただ俺は、真っ直ぐなやつが好きなんだよ。だから、それを捻じ曲げるような奴は嫌いってだけ。俺自身も含めてな」
「そっか」
「そ。君のおかげで、俺は少なくとも前よりずっと真っ直ぐ歩けるようになった。だから、君の推しのためにやろう。好きをやり切ろう」
「えぇ、そうね……やったりましょうか!」
「おう! やったろうぜ!」
二人は互いの手を取り、最終決戦へ向かう。
〈荒廃した巨城〉――大蛇の亡骸を被った城フィールドだ。
そこに棲う悪魔は魔力で形成した金属質の装甲を纏っており、並大抵の攻撃では歯が立たない。
しかし、それは急激な温度変化で軟化する。
「行くわよカガリ!」
「舌噛むなよ!」
氷を纏い、火を纏い。駆け走って真剣を抜く。
入れ替わりながら洗練された剣技を繰り出し、避けきれない攻撃は二人で受け止めて徐々に息を合わせていった。
双剣舞に翻弄される悪魔は、やがて力を集束。
まともに喰らえば即死は免れない終の光を放つが、攻撃に力を使っている今がダメージを稼ぐチャンスだ。
「〖精煉〗――ドラゴンインストールッ!」
「ダメ押しよ! 【アタックブースト・エクスプロード】!」
光を合図に紅い少女はその姿を変え、銀の少女は薪を焚べる。
終の光と相対するは、同様に終の光。
「決めるぞ、ユキ!」
「外さないでよね!」
外すわけがない。
ここは真っ直ぐに、一直線に――
カガリがこれまで見てきた相棒のように。
――――ああ、どうやら俺も推しに弱いらしい。
「燃ゆる星は我が火炎! 焼き焦がせ竜の息吹! 穿て【抱く青星、迸れ】ッ!」
「煌めけ、銀世界ッ!」
――同時だ。
光を押し返し、コンマ一秒の狂いもなくカガリとユキフライの赫冰双華が炸裂した。
〖精煉〗による超絶火力。〖銀世界〗による蓄積解放。
そして、それらのヒット数が倍加しダメージが計算される。
その総ダメージ数は――
「「か、カンスト……!」」
二人はドロップアイテムのウィンドウよりも、ログに表示されている『9』の羅列に目が釘付けだった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――水落えぐるのライブが始まれば、ファン達の黄色い声が湧く。
今までで一番楽しそうなユキフライの笑顔を目に焼き付け、カガリは完全勝利を確信した。
ランキングは上位入賞。見事に限定グッズを獲得したのだ。
「えぐるちゃん、スゲェ子だな。俺もファンになっちゃったよ」
水落えぐるはステージに立ち、体にズンと響くような歌で人々を魅了していく。
どこかで見た男達もペンライトを夢中で振っていた。
全てが輝いている。
「そうでしょ? えぐるちゃんは凄いのよ。あの子が頑張ってるから、私も頑張れる。憧れを追えるの」
「なるほどなぁ……なんかわかるぜ。自分が強くなった気がするんだ」
「そう、推しへの愛が私を強くする。あの子はみんなの愛を背負って、こうしてステージに立っているのよ」
「スゲーなぁ……!」
声援は鳴り止まない。
ここが仮想であっても、心は現実と繋がっている。
想う気持ちに偽りはないのだ。
正真正銘、プレイヤーの心を動かしたアイドルに敬意を評してペンライトを突き上げよう。
「なぁユキ。実は俺さ、もうひとり推しが出来たんだ」
「へぇ、どんな子?」
「心は誰よりもアツくて、真っ直ぐで……それがどうしようもないくらい応援したくなるんだよ」
「ふ〜ん、そんなに言うならチャンネル教えなさいよ。私も見てみるから」
「なははっ、お前のことだっての」
「え? あ〜……ぷっ、あっはは! それじゃあ、あなたが私のファン一号ね」
「まぁ俺の嫁だしな〜」
「確かに。言えてるわ」
「てなわけで……これからもよろしく頼むよ、相棒」
「あら、人生の相棒ってことかしら?」
「おう。最強の夫婦になってやろうぜ」
「えぇ、私から誘ったもの。どこまでも付き合ってあげるわ」
――――俺達は推しに弱い。
きっとこれからも、この好きを大切にしていく。
好きのためなら強くなれるから。
そんな生き方がかっこいいと思ったから。
俺は、俺の好きを真っ直ぐ貫いていこうと思う――――
「……あっ、課題やってねぇ!?」
水落えぐるのスペシャルライブ。
その日は、夏休み最終日である。
いろんな意味で――[完]
――最終話、ありがとうございました!
短いながらもいろいろ詰め込めたので個人的には満足のいく物語となりました。
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それでは!Bye創膏(:̲̅:̲̅:̲̅[̲̅:♡:]̲̅:̲̅:̲̅:̲̅)|•`ω•)ノシ
◇おまけ◇
【抱く青星、迸れ(セイリオス・ファーヴニル)】に詠唱は存在しない。
カガリが意気揚々と言っている「燃ゆる星は我が火炎! 焼き焦がせ竜の息吹!」は完全にオリジナルの詠唱であり、言う必要は全くない。これっぽっちも。




