1コメ『結婚RTAで優勝しそう』
アニメイトバディコンテスト、一次選考通過しました。
ありがとうございました……!
――生炬万煉二は変わりたかった。
呆れ返るほどまったりとしていて、いつも通り暇な日々。
まだまだ遊び盛りな男子高校生にとって、これをなんとかすることは夏休みの課題よりも大切なことだった。
……そう、これは充実した夏休みを過ごすためにも必要なこと。
鬼のような母を説得し、来月のお小遣いを前借り。
さらに期末テストで高得点を獲って、ダメ押しの土下座で上乗せしてもらった。
そうまでして勝ち取った万札数枚を一瞬で使い切ってしまったものこそ、いま大ブームのフルダイブゲーム。
「〈ファンタジオ〉……遂に買っちまった」
煉二は美しい地平線が描かれたパッケージを掲げる。
これこそ、爆発的人気を誇る完全没入VRゲーム……その最新作だ。
そんなものを手にしてしまえば、煉二による夏休みを利用したゲーム三昧の日々が始まる。
「こんなちっこいので遊べるんだなぁ」
箱を開けると、首輪と腕輪のハードウェアが入っていた。
それぞれ装着し、さっそく起動させる。
「ゲーム内では各プレイヤーに〖ユニークスキル〗が与えられ、それを駆使した戦闘が楽しめる。詳細は封入特典を確認……と。へぇ、自分だけのスキルか! 俺のはいったいなんじゃらほい」
ゲームのダウンロード中、読み飛ばしがちな説明書に軽く目を通す。
封入特典のカードはゲーム内で使用出来るユニークスキルらしく、煉二のものにはドラゴンが大きく描かれていた。
「なかなかカッコイイな。中二病心が刺激されるいい絵だ」
そのカードを腕輪のくぼみに差し込んで読み込ませると、青く点滅していたラインが赫くなる。
「っしゃ。これで準備完了だな。うはぁっ、緊張感ヤベー!」
ベッドに寝っ転がった煉二は膨らむ期待に胸を躍らせ、静かに目を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ようこそ、〈ファンタジオ〉へ』
「ん……もうログイン出来たのか。ウィンドウ近いな」
白い半透明のパネルをシッシと追い払う。
〈ファンタジオ〉ではアバターの作成方法が二通り存在する。
ひとつはゼロから新しく体を作るオリジナルモード。
もうひとつは元の体を完全再現するリアルモードだ。
「今の俺と違う姿になれればいいか。オリジナルモード、ランダム作成開始! 名前は……うーん、本名そのまま使うのはなぁ。生炬万……カガリでいいか」
ウィンドウから選択し終えると体がリアルより大分小さくなって、手足も華奢になっていく。
「ん? なんかやけに髪が長いような……」
『アバターが作成されました。プレイヤー《kAgAri》さん、行ってらっしゃいませ!』
――煉二改めカガリが次に瞬きをした時には、そこはもう異世界と言っても差し支えない仮想空間だった。
ヘンテコなトナカイの衣装を身に付けているプレイヤーや戦士風のNPCを横目に、カガリはアバター生成中に抱いた違和感の正体を確かめるべく意を決してステータスを開く。
「……いやぁそれにしても、未来都市にしてはあちこちデケー魔法陣に囲まれてるし、子供が見る夢みたいだな。あぁこれは夢かもしれない。うん」
思わず目を逸らしてしまうほど、信じ難い光景がそこにあった。
確かに、違う姿になれればいいと言った。
だが限度というものがあるだろう。
180cmはあった身長が、今や145cm……
そこそこ鍛えていた男らしい体付きは見る影もない。
カガリは目を擦ってから、もう一度ステータスを睨む。
――性別・女性。
見間違いでもなんでもなく、そこには元の体とは似ても似つかない紅い髪の美少女が立っていた。
「かけ離れすぎだろぉぉ!!!」
自分の喉から出ているとは思えないほど可愛らしい絶叫が、都会風の街に響き渡る。
「どうして女に! これだけ髪が長いとさすがに邪魔だし!」
などと言うと、一瞬で髪型がポニーテールに変更された。
随分と長い尻尾だが、さっきよりはマシだ。
「おぉ……いやそれより男に戻してくれよ」
『アバター本体のリメイクは不可能です』
「なるほどこれは不具合だな? 不具合だと言え」
『よいバーチャルライフを!』
「おい逃げるなよ! おーい! このゲームのAIバグってんじゃねーのか?!」
変われると思った。そして確かに叶った仮想生活。
ああ、なんと悲運なことか……まぁランダム生成を選択したせいなので自業自得なのだが。
思いもよらぬ刺激的な体験に、カガリは街中にも関わらず嘆き声を上げるのだった。
「……あれでいいか」
カフェテリアの屋上から、そんなカガリを眺める怪しげな人影がそう呟いた。
人影は飛び降り、カガリの背後にふわりと着地する。
不自然に現れた影を気にしないほどカガリも鈍感ではない。
恐る恐る振り返ると、そこには雪景色のような銀色の髪をした少女が立っていた。
「ひっ……あ、あの、俺になにか……?」
威圧的な少女は真顔のままカガリから目を離さない。
ただならぬ雰囲気に気圧され、カガリはハムスターのように縮こまる。
小さなカガリを依然として睨み付ける少女は、不意に銀のリングを手渡しながら口を開き――
「ちょっと結婚してほしいんだけど。薬指、空いてる?」
突拍子もなく、平然とそんなことを言うのだった。
当然、二人は初対面なわけで、まずは友達から……と言うのが定番だろう。
しかし、これまで一切恋愛をしてこなかったカガリは、いろんな過程をスッ飛ばして出てきた結婚にまともな思考が出来なくなっていた。
「え、あ? ケッコン?」
「突然で悪いけど、早くしてくれないと私が困るの。ねぇいいでしょ? あなたにとっても悪い話じゃない。だから、ね? ここにサインしてくれるだけでいいから……人助けだと思って、お願い……」
「わ、わかった! する! 結婚するから泣くなって!」
そう。カガリは押しに弱かったのだ。
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