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3-1

「お嬢様!すっごい情報を入手してまいりました!」


部屋に飛び込んで来たリリーの声に、ミーリアは手にしていた父からの手紙を机の上に置いた。それから、リリーへジロリと鋭い視線を向ける。


「リリー、あなた最近少し、私の侍女としての自覚が足りないんじゃないかしら?」


「え?」


「誰にも怒られないのを良いことに伸び伸びやっているようだけれど、先ず、廊下は走るものではないわ。それから、部屋の扉を開ける前に入室の許可を取りなさい。そんな基本的なことも忘れているようでは」


「いやだなー、お嬢様。リリーのこれは演技ですよ、演技。最近、なんだかすっかり大人しくなってしまったお嬢様をお慰めしようというリリーの気遣いでございます!」


そう悪びれもせず口にしたリリーは、「アルマ様の前ではもっと上手くやります」と、公爵邸の侍女頭の名前を出した。


「あ!そんなことより、お嬢様!本当に、本当に、すごい情報なんですよ!なんと、来る二十二日は辺境伯閣下のお誕生日なのだそうでございます!」


そう高らかに告げたリリーの言葉に、ミーリアはグッと詰まる。


「……確かに、それはすごい情報だわ」


結局、オーディスという甘い餌の前にミーリアが折れたところで、リリーは「そうでしょうそうでしょう」としたり顔で頷いて、ニヤリと笑って見せた。


「お誕生日と言えば誕生日プレゼント!ここでミーリア様の本気を見せつけて、辺境伯閣下の心臓を鷲掴みにしようじゃありませんか!」


「心臓を鷲掴み……、それはいいのかしら?ハートを射止めるとか、心を掴むなら分かるんだけど、鷲掴み?」


「それくらいの衝撃を与えませんと、あの唐変木閣下にはミーリア様の想いは伝わりません!こんなに可愛いお嬢様に慕われて指一本触れてこないとか、マジであり得ませんよ」


リリーはブツブツとオーディスへの不満を零す。


「もういっそのこと、お嬢様にリボンでもかけて閣下に送り付けますか?」


「……馬鹿なことを言ってないで、考えるなら真面目に考えて」


言いながら、ミーリアも考え込む。確かに、リリーの言うように、何かオーディスの心に残るようなものを贈りたいとは思う。けれど、これだという妙案は全く浮かんでこなかった。


「……モノをお贈りしても、あまり喜ばれない気がするのよね」


「でも、マントはとても喜んでくださったみたいですよ?部屋に飾ってあるそうです」


「部屋に飾る?」


それは、マントの使い道としてどうなのかと思うが、確かに、式典用と言っても過言ではない煌びやかさになってしまったので、実用には向いていない気がする。失敗だっただろうかとミーリアが思い始めたところで、それまで黙っていたナタリエが口を開いた。


「……初心に帰るというのはどうでしょうか?」


「初心?」


「はい。確か、辺境伯閣下はお母さまの手作り料理を好まれたと」


「あ!」


「その手が残っていましたね!」


ナタリエの言葉に、ミーリアとリリーが同時に声を上げる。


「そうでした、そうでした!目指せ、家庭的な女性!ここは一つ、辺境伯閣下のお好きなお料理の一つでもお出しして、閣下の度肝を抜いてやりましょう!」


そう言って瞳をキラキラとさせたリリーが右手をピシリと上げる。


「それでは、私、早速、敵情視察へ行ってまいります!」


宣言するや否や、飛び込んで来たのと同じ勢いで部屋を飛び出していくリリー。その背中を見送って、ミーリアは苦笑した。


「あの子、すごく生き生きしてるわね」


「よほど、この地の生活が合うのでしょうね」


ミーリアの言葉に頷いたナタリエに、ミーリアはチラリと視線を向ける。


「ナタリエ、あなたはどうなの?領軍の訓練に参加させてもらっているのでしょう?」


「はい。……王都と違い、女だからと排斥されることがないぶん、そうですね、こちらの生活は私も気に入っております」


「そう……」


ナタリエの答えに、ミーリアは机の上に視線を向ける。そこにあるのは、つい昨日、父から届いたばかりの手紙。その内容を思い出して、ミーリアは零れそうになるため息を飲み込んだ。


(……本当に、当たりたくない予想だけは当たるんだから)


それが父に関することなら、ミーリアの予想はそう大きく外れることはない。それだけ、父の影響を受けている、思考が似通ってしまっているということなのだろうが。


(返事、なんて書こうかしら……)


答えは決まっている。だけど、最後の悪あがき、もう少しだけ、自分の感情を優先してみたい。返事のための筆を執る気になれず、ぼんやりと物思いにふけるミーリアの耳に、再び、リリーの元気な足音が聞こえて来た。パタパタという音に続き、バタンと勢いよく開かれた扉、満面の笑みを浮かべたリリーが飛び込んで来る。


「お嬢様!分かりましたよ、閣下のお好きな料理!」


「……なんだったの?」


諸々のことを諦めてミーリアが尋ねた問いに、リリーは嬉しそうに笑う。


「お母様の得意料理だったそうなのですが……」


その後に続いたリリーの答えに、ミーリアの顔は引きつった。






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