第7話 女神様は俺と一緒に遊びたいらしい③
「行くっていっても……どこに行く気なんだ?」
「ふふ、ついてからのお楽しみです」
信号を待ちながら、俺はつぶやく。
どうやら、福岡さんは今日の行く場所すべて、俺に教える気はないらしい。
「あ、青になりましたね。行きましょう」
そういって進んでいく。
相変わらず、秋葉の町中は普通の場所とは一風変わっているなあと思う。
変な人が多いのだ。
例えば、前にいるおじさんだ。
Tシャツを着ているが、それがヤバい。
なにかの美少女ものの幼女の絵がかいてある。
多分、幼稚園生とか小学生がみる魔法少女の奴だろう。
普通町中を歩くときはこんなものを着ないはずだが、ここ秋葉原であれば、あまり目立っていないように思えてしまうのが怖い。
逆に俺たちの方がアウェイに見えてしまうほどだ。
まあ、福岡さんは別の意味で目立っているけど。
他にもメガネ、太っ腹、ぼさぼさの髪の三種の神器がそろった見るからにヲタクて感じのやつとか、それがしを主語にしている奴とかがいる。
住む世界が違うとはこういう事らしい。
「やっぱり、面白い人が多いですね、秋葉原は」
「これ、面白いで片付けちゃうのかよ」
「だって、色んな人がいた方が面白いじゃないですか」
「たしかにそれはあるな」
話してみたら意外と面白いってやつは、たいてい変な奴ばかりだしな。
それにこいつらはアニメとかラノベとかの知識は半端じゃない。そのうえ、考察力も何故だか知らないが高い。
そういうもののためなら金だって何円でもつかう!って意気込みの奴も多いし。
「それはそうと、そろそろ目的地に着きますよ。ここです」
福岡さんがその場で立ち止まる。
前を向いて、それを見てみると。
「ここは……」
「そうです。メイドが大勢いる通称、メイドロードです!」
「いやなにその名前。勝手に変な名前つけるなよ。メイドロードなんて聞いたことがないぞ」
しかもネーミングセンスが皆無だぞ。
そのままじゃねぇか。
「別に変な名前じゃないです。文句をいうなら、私じゃなくて名付け親の山川に行ってくださいね」
「え、これ、山川さんが付けたのかよ」
「当たり前じゃないですか。私は現代ギャルじゃないですし、変に訳したり名前をつけるみたいなことしませんから」
いきなりの山川ディス!
ちゃんと悪魔だな。
「まあ、それはいいとして。ここに来て、なにをするんだよ。見るだけならなのか?」
「そんなわけないじゃないですか。桜木君は全然なにも何一つわかっていないんですね!」
「……なにそのテンション。おかしくないか」
「私、メイド服を着ている女の子って好きなんですよ」
「まさかのメイドフェチかよ!」
「桜木君もメイドさん好きですよね?」
「……いや、俺はそこまででも……」
「わかりますよ。だって原作小説第4巻から出て来た女忍者のヒカリはメイド服着ていましたし」
「あれはただの設定だから! そっちの方が王道って感じがしたから」
「いいえ、設定だからこそです。愛がなければ、物語もキャラもセリフもつくれないですよ。愛がなかったら、そこにはなにもないんです」
ニコッと微笑んでくる。
「まさかファンの人からそんな事を言われるとは思わなかった。……よくわかったな」
「私、これでもちゃんとファンなんですよ。全部、見てますから」
なんでそこまで俺の作品を知っているんだろう。
気になるなあ。
「……隠していたってことは桜木君はむっつりさんなんですね」
「余計なお世話だわ!」
いきなりなにを言いだすかと思えば、それかよ。
女子が使っていい言葉じゃない。意味わかっていて使ってんのかな。
深いため息をつく。
それに仕方ないじゃないか。
メイドが好きなのは男の習性なんだよ。
あのひらひらの黒と白の服にあのカチューシャ。男にメイドが嫌いな奴はいない。
それくらい許してくれ!
……っておっと。感情が暴走するところだった。
話を戻そう。
「……で、結局なにするんだよ」
そういうと、福岡さんは目をピッカピカに輝かせていう。
「……もちろん写真を撮るんですよ! 前は撮れませんでしたし、今日こそ撮るつもりだったんです!」
「……なんだ、そんなことか。よかった」
あんまり大したことなかったので、ほっと息をつく。
「どういう意味ですか?」
不思議そうに俺を見つめて来る。
「……メイド服を着ます!とか言いだすのかと思って冷や冷やしてたんだよ。福岡さんならやりかねないし」
「私、桜木君からどういうふうに見られているのか怖くなってきますよ。そんなことしませんよ。どっちかというとそんなこと考えている桜木君の方が危ない人じゃないですか? むっつりな桜木君ならやりかねませんし」
うわぁ、これは一本取られたなあ。
胸の奥がズキズキと刺さっている感じがするよ。
「……俺はここで待ってるから。撮ってきな」
「なに言っているんです。桜木君もメイドさんと二人で撮るんですよ」
「え、は!?」
町中で大きな声を出したせいで、周りの視線が俺の方へ向く。
少し恥ずかしくなる。
「……なんで、俺も撮るんだよ」
小声で言う。
「桜木君も好きなんでしょ。なら、撮るべきですよ」
「……いや、でも、そういうのは俺には似合わないから。俺は男だし。やっぱ、福岡さんだけで撮りなよ。カメラマンくらいならやるから」
「そうじゃないです。似合うとか似合わないとか言い訳を作るんじゃなくて、好きなんだったら、自分から行くべきです。そうするのが一番です」
「………………」
福岡さんは少しおかしい。
普通だったら、そんな事は言わない。
俺の方を肯定して、それがいいというはずだ。
それが一般的であって、空気を読むということだ。
だが、彼女はそうは言わない。
きっと彼女には俺にはないものを持っているのだ。
常識だとかそういう普通の人が持っているものじゃなくて、別の……なにかを。
「……わかったよ。俺も撮る」
「その意気です。私は奥の子と写真撮ってきますね!」
そう言って、福岡さんは話しかけに行く。
「……やるか」
俺も近づいていき、話しかける。
すると、そのメイドさんはふてぶてしくする様子でもなく、面倒くさそうにするわけでもなく、一緒に撮ってくれた。
写真の俺はいつもよりも酷かったけれど、撮れたこと自体が嬉しかった。
俺は今日、なにか大事なことを学んだのかもしれない。
「おお、桜木君も撮り終えましたか。メイドさん可愛かったですね。私ほどではないですけど」
「自分でいうな」
そうツッコむと少しにやけ面になる。
「……それでは、後はお昼ご飯を食べて、今日のメインイベントに行きますか」
「メインイベント?」
「はい、いままでは私がやりたかったことに付き合ってもらっていましたが、今度は桜木君の番です。今日はそのために来たようなものですし」
「それってどういう……」
「……あなたに見せたいものがあるんです」
福岡さんは真剣なまなざしでそう告げた。
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