第13話 幼馴染はいつのまにか現れる
「はぁ……」
俺はベッドのなかで、ため息を吐く。
体が疲れたといっているようで全く動く気配がない。
このまま目を閉じたら寝てしまいそうだ。
最近は色々あったからだろう。
執筆活動が終了して、サイン会をして、福岡さんと遊びにいって……
最後のは別に疲れることじゃないけど、それでも最近は色々あった。
今日も久しぶりに幼馴染と話したし。
「それにしても……いつから寧々とあんな感じになったんだっけ」
俺は必死に過去の思い出を振り返ろうとする。
たしか、幼稚園と小学生の頃は相手の家に行くくらいには仲がよかった。
一緒に遊んで、一緒に帰って、一緒に宿題をやって。
毎日を寧々と一緒に過ごしていた。
変わったのは、中学生のころだ。
何故だか知らないが、寧々の方が俺と関わらなくなったのだ。
俺も最初のころは忙しいのかと思って、なにもしないでいた。
しかし、いつの間にか半年くらい過ぎていて、もうあの頃のように仲がよいころには戻れそうにないと実感したのを覚えている。
「まあ、いいか。あの時は多少悲しかったのは覚えてるけど、もうボッチには慣れてるし。いまさら考えたって遅い。過去なんて振り返ってもろくなことないからな」
見つめるのは未来であるべきだ。
過去から学ぶことがあっても、それのせいで思いつめるなんてもってのほかだ。
もう一度深くため息をつく。
「ご飯も食べずに寝ようかな……もう疲れたし」
そう思って、目を一瞬閉じる。
すると、体が嘘のように軽く、飛んでいるかのように感じた。
そして再び目を開けた時には朝だった。
「おい、マジか。あれで寝れたのかよ……」
これもしかして、俺の特技の一つに加えてもいいかもしれない。
わずか1,2秒で寝ることができる高校生。なんてのはほとんどいないし。
睡眠界のスペシャリストだな。
大会なんてあったら金賞間違いなしだろう。
ベッドから起きて、時計をみると、まだ午前7時だった。
いまから風呂、朝ご飯を食べても7時40分をちょっとすぎるくらいだろう。
いつもよりも圧倒的に早過ぎる。
疲れも意外と取れていて、帰ってすぐに寝たのは正解だったようだ。
「……ちょっと早いけど、たまには早めに学校行くのも悪くないかもな」
そうして準備をしてから家を出る。
朝の日差しがなんか知らないけど、気持ちがいい。
これが朝か!
「悪くないな……」
そんな時、すぐ後ろでガサガサと物音がする。
振り返ると、そこには……
「あれ、なにもない……」
気のせいだろうか。
でもたしかに音、したんだけどなあ。それに……なんかねばねばっとした視線を感じるような……
まあ、気のせいか。小動物とかがなんかしたのかもしれない。
もしかして……まだ疲れてんのかな、俺。
そんな事を思いつつ、学校へと足を向ける。
ついてしまったら、いつも通りだった。
授業中はあれだけ寝たはずなのに、気づいたら寝ていた。
流石は睡眠界のスペシャリストといったところだ。
今度からはこう名乗ろうかな。
「あ、流星起きたか。もう、昼だぞ」
「わかってるよ。ふわぁ……」
「眠そうだな」
「……睡眠界のスペシャリストだからな」
「なにいってんだよ。寝すぎてボケたんじゃねぇのか」
肩をバンバンと叩かれる。
痛い。
「俺はもう食べたから、昼食食ってこい」
「おう」
屋上へ足を運ぶ。
ドアを開ける直前、少し違和感を感じ、後ろを向く。
「……やっぱ、なにもないか」
勘違いだろう。
やはり、ちょっと俺はおかしいのかもしれない。
ドアを開けて、入る。
「来るのが遅いですよ、桜木君」
「寝てたんだから仕方ないだろ」
「私も見ましたよ、それ。気持ちよさそうな顔してましたね」
「見てたなら起こしてくれてもいいじゃん……」
「いいんですか。あんな人混みが多いなかで桜木君をわざわざ起こしても……」
「う……それはやめてくれ」
「私はやってもいいんですけどね。面白そうですし。今度やってみます」
「いや、やるな。絶対マズいことになる」
「ふふ、冗談ですよ」
全然面白くない。
クラスの雰囲気が最悪になるだけだ。
わかっていってるだろ。この悪魔。
「そうそう、これどうぞ」
紫色の布に包まれたものをもらう。
「昨日話していたお弁当です。少し早めに起きて作ったんですから、残さずに食べてくださいね」
「……ありがと」
お弁当を受け取る。
正直ありがたい。
福岡さんのお弁当はめちゃくちゃうまいし、いつも健康そうだし。
開けるとまず、唐揚げが目に飛び込んでくる。
その次に卵焼き。ほかにも一般的なご飯ばかりあった。
そこで少し疑問がでてくる。
「福岡さんって前から思ってたんだけど、金持ちだよな?」
「まあ……そうですね。普通の人よりは」
「じゃあ、なんで昼食は庶民的なものばっかりなんだよ」
「そんなの簡単ですよ。私があんまり高級な食材を好まないからです。あとは学校でお金持ち自慢はしたくないんですよ。小学生のころそれで面倒なことになったことがあってですね。その話聞きます?」
「いやいい。なんかめちゃくちゃ面倒くさそうな話っぽいし」
「ふふ、桜木君らしいです」
その瞬間だった。
「ずいぶん仲が良さそうね」
ドアが開いて、入ってくる人物がいる。
まるで、聞いていたかのようにふるまうその人柄に俺は覚えがあった。
昨日、久しぶりに話した幼馴染。
「寧々? 知り合いなんですか?」
「幼馴染」
「へぇ……桜木君に幼馴染なんていたんですか……」
少し驚いた様子をみせる。
「どうしてここにいるんだよ」
「どうしてもこうもないわ。偶然よ」
「偶然屋上の近くにいるってのはちょっとおかしい気がするんだけど」
「うっさいわね! 偶然だっていってるでしょ!」
「さようですか」
「……そんなことよりも、二人が仲がいいってのは本当だったのね」
「まあ、一緒に遊びにいくほどですから」
「「は?」」
俺と寧々の声が重なる。
「流星、いまの話……ほんと!?」
「いや……噓と言いますか、ほんとと言いますか……」
「どっちなの?」
物凄い圧をかけられる。
「……ほんとだよ」
その圧に押されて、認めてしまう。
「ていうか、なんで福岡さんも言うんだよ」
「ふふ、ちょっとしたいたずらです」
「いたずらってレベルじゃないから」
はぁ……どうしてこうなったんだか。
寧々もなんでかしれないけど、怒ってるし。
「もう、ほんと信じらんない! 流星の馬鹿アアアアアアアアアア!」
見事なまでの逆ギレに悲鳴をあげながら屋上から逃げていく。
「ふふふ、寧々さんって面白いですね」
「……この悪魔が」
俺がそうつぶやいた瞬間、チャイムが鳴った。
「あ、弁当食べ損ねた。最悪だ……寧々のせいで……」
絶望して、その場に伏せる。
そして、もう一度顔を上げると福岡さんの姿は見えなくなっていた。
「戻るの早!? それにこの弁当箱、どうしよう……明日洗って返せばいいか」
俺は屋上の上で弁当を一人で食べてから授業に戻り、先生からこっぴどく叱られた。弁当は美味しかった。
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