第10話 いつもとは違く見える世界
憂鬱な学校が始まる月曜日がやって来た。
いまから、学校に行かないといけないと考えるだけで疲れる。
このベッドからでさえ、外に出たくない。
でも、でなければ、学校にいけない。
だが、俺は昨日のことでテンションが上がっていた。
福岡さんと一緒に秋葉原に遊びにいったのだ。
そして、初めてあんなことを言われた。
一夜経ったけれど、あの言葉は忘れていない。
まるで、映画のクライマックスのシーンのようにジーンと胸に来ている。
嬉しかった。
「はぁ……めんどくさ」
そんな事を言いつつ、ベッドから体をあげて、寝室を出る。
面倒くさいのはわかっているが、学校にいかなかったらいかなかったで後悔する。
ノートとかを送ってくれる友達は一人もいないし、数学なんかはちょっとでも飛ばしたりすると、途端にわからなくなるからだ。
顔を洗い、適当に朝食を済ませて、制服に着替える。
そして、家を出た。
10分ほど歩くと、学校に着いた。
「早く着きすぎたな。まだ30分もある」
時計の針は7時50分を指す。
ほとんどの奴はまだ登校していない時間だ。
登校しているのはこいつくらいだろう。
「よっ!」
「……おはよう」
崎原が挨拶してくる。
俺も適当に返しておいた。
「おお、なんだ、なんだ。いつもよりも元気だなあ、おい。どうしたんだよ!」
バンバンと肩を叩かれる。
陽キャはこれだから困る。
「痛い、離れろ」
「この反応……まさかとは思うけど、お前、もしかして恋に目覚めたのか!?」
「なにいってんだよ。なんで、俺が恋愛なんか面倒くさいことしなくちゃいけないんだよ」
「流星の目がキラキラしてんだよ。いつもはこれ死んでねぇか!? って感じなのは今日はなんていうか生きてるって感じがする!」
「普段の俺ってそんな感じだったのかよ」
少しショックだ。
まあ、たしかに学校に来ている意味とか全くないと思っていたけど、そこまで酷いとは思わなかった。
「でも、どうしちまったんだよ流星」
「俺もほんとに知らねぇよ。てか、いつまで肩くっつけてんだ。暑苦しい」
「まあ、朝練してたからな!」
「ちょっと臭いのはそれが理由かよ」
「あはは、汗は努力の証拠だぜ流星!」
また肩をバンバンと叩かれる。
俺は無理やり離した。
「わりぃわりぃ」
「全く……」
そして、少し考える。
たしかに、今日は一段と景色が違うように見えた。
学校に来る途中の交差点も、学校の下駄箱もここにいる人たちも。
いつもよりも色づいて見えるのだ。
でも間違いなくわかるのはこれは恋なのではない。
俺は恋なんてしないと心に決めている。
なんなのだろう。わからない。
そんな時だった。
彼女が来た。
「おお、福岡さんが来た。やっぱ、可愛いなあ」
崎原がそんな事を言う。
たしかに可愛い。
昨日も見たが、それでも可愛い。制服姿も似合っている。それは同意だ。
「……でも悪魔だぞ、あれ。めちゃくちゃにしてくるし、精神に来るようなこと平気に言ってくる奴だぞ」
俺は昨日の色々といじられたことを思い返す。
あれは酷い仕打ちだった。
まあ、楽しかったけど。
「可愛いから問題ナッシングだ」
「お、おう……」
やっぱり俺はこのノリについて行けない。
「てか、流星。なんで、まるで知っているかのように福岡さんのこと話してんだ? 知り合いなのか?」
「……いや、別に。特になにもないよ」
痛いところをつかれて、びくっとなる。
適当に誤魔化す。
「なんだよ、その感じ。もしかしてお前……福岡さんのことが好きになったのか!?」
「なんで、お前って奴はいつも恋に持ってくんだよ! 違うって言ってんだろ!」
「その反抗的な感じは……福岡さんとなにかあるな。間違いないね。俺の目が言ってる!」
「お前の目の信頼性どんだけ高いんだよ……」
いつも変なところで勘が鋭いんだよな。
「……てか、流星。なんか福岡さんこっちの方みてね? もしかして俺のこと好きなのか!?」
「は? なに言ってんだよ。そんなわけないだろ」
俺はそう思って福岡さんの方をちらりと見る。
たしかに焦点はこっちに向いていた。
一瞬、目があった気がしてすぐに目を逸らす。
「向いてるだろ?」
「……たしかに向いてたな」
「……これ、俺モテてるよな!? いけるんじゃね!」
「いや、絶対違うからやめとけ。きっと適当に向いているだけだから、後悔するだけだぞ」
正確にはめちゃくちゃに罵倒されて、お前の学校生活が詰むぞ。
まあ、その時は俺と同じ道を歩ませるか。
いきなり、陽キャが陰キャになるってのは意外と面白そうだし。
ちゃんとした友達ができそうだ。
そんな事を考えていると、崎原が言ってくる。
「!? 待って、こっち来た!」
「は!?」
振り向いてみてみると、すぐそこには福岡さんの姿が。
「えっと……福岡さんって俺になにか用?」
おお、崎原が勝手に行った。
自分から地獄に行きやがった。
「……崎原君でしたっけ。少し汗臭いですね。今すぐにでも洗ってきたらどうですか? そんな匂いだとモテませんよ」
「………………はい」
肩をがっくりと落として、死んでくるぜ!と言い残して、教室を出て行った。
強く生きろよ、崎原。
周りの男子たちはまたかと言いつつ、福岡さんの方を凝視している。
やはり、可愛いから大丈夫なのだろう。
「あの、桜木君」
すると、福岡さんはなにを思ったのか、俺に話しかけて来る。
「え、な、なに」
「今日のお昼ご飯、一緒に食べません?」
「……は?」
まさか福岡さんから誘われるとは思わず、つい言葉が出た。
しかも、話そうとしていた相手は俺だったようだ。
マジかよ。
昨日はたしかに色々と話してたけど……
学校でそれはまずいんじゃないのか……
世間の目とか気にしてないんですかね、この人。
「嫌、でしたか?」
「……そういうわけじゃないけど」
「ならいいんですね。良かったです。じゃあ私はこれで。行きますね」
それだけを言って、福岡さんも教室を出ていく。
さっきまで福岡さんに向いていた視線は一瞬にして、俺の方へ向きなおした。
俺はすぐさま教室を離れて、トイレに逃げ込む。
授業が始まる直前まで、個室にずっと隠れていた。
こうして俺は昼休みにご飯を一緒に食べるという約束を福岡さんとしてしまった。
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