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第1話 小悪魔な女神様は実在する

「あああああああああああああ!」


 誰だって本当にピンチの時はこうやって嘘くさくない心の底からの悲鳴を上げるだろう。

 俺、桜木流星さくらぎりゅうせいも同じだった。


「終わらねぇえええええええええ!」


 月曜日の午前1時という真夜中のなか。俺は一人家で奇声を上げていた。

 パソコンのキーボードを強く叩き、その場に伏せる。wordには変な羅列が並ぶ。

 顔は完全に青ざめていて、まるで死んだ魚のような目をしていた。

 

「嘘だろ……」


 終わるわけがない。

 いくらなんでも……こんなのって酷すぎる!


「あんまりだあああああああああああああああ!」


 焦って、髪をぐちゃぐちゃにかき乱す。


 俺はいま、小説を書いていた。

 小説といっても一般文芸のような小説じゃない。ライトノベルと呼ばれる若者に読まれやすい本のことだ。 


 題名は『忍者カゲロウ伝』

 忍者である主人公カゲロウが仲間を集め、最強の忍者へとなっていく。まあ、よくあるファンタジー小説だ。


 そこそこは売れていて、作家のなかだったら中の下くらい。

 高校2年生にしてはよくできている方だと思う。


 今回のは最も重要な最終巻。

 それの締め切りなのだ。

 

「終わるわけがない……これからあと2万文字だって……ふざけやがって……」


 絶望だった。

 今日中までに残りの2万文字をかかなければいけないのだ。

 残りリミットは朝7時までのたった6時間だけ。


 無理ゲーのようなものだった。ていうかぶっちゃけ無理だろ。

 でも、こうなるのも必然だ。


 だって仕方がないじゃないか。最終回だぞ、最終回。

 締めぐらい、一作家としてちゃんと終わらせないといけない。いくら俺だってそれくらいはしたい。しなくちゃいけないと思う。

 そんな事をしていたせいで、いつの間にかこんな時間になっていたのは問題だけど。


「くそ、マジかよ……今日中までなんかどうやったらできるんだよ。気合いとかかな……」


 あは、あははと不気味に笑う。

 これからの地獄を想像したら不思議と笑えてきたのだ。


「……今日は学校もあるし……色々と……大変だあ!」


 俺はまだ高校生。

 もちろん授業をサボることはほとんど許されず、普通に受けなければならない。


「……いや、まだ諦めるのは早い! 今すぐに死ぬ気でやれば……行けるかもしれない……よし! つべこべ言ってないでやらないと……」


 俺はそう言って、パソコンに向かいあい、文字を入れていく。

 大変だと分かっていても、書くしかないのだ。書いて書いて書きまくる。

 それが作家に出来る唯一の仕事であり、できることなのだから。


「あ……終わ……った」


 数時間後。

 太陽がすっかり昇り、学校へ行く30分前にようやく終わった。

 なんというか、あっという間だった。

 いつのまにか時間も経ってたし。


「でも……これで、終わりか……」


 あっけない。

 中学3年の頃から書いているから約2年での完結。

 意外と早く終わった。


 達成感はある。疲労感もある。

 だけど、一番あったのは喪失感だ。

 この作品のキャラたちは完璧なハッピーエンドを迎えた。

 だからこそ、悲しくて、虚しい。


「早く……学校に行く支度しないと…‥」


 小説を編集へ送り、速攻で風呂に入る。そして、ご飯を作る。

 作るといっても冷凍されたご飯で、あまりおいしくはなかった。


「行ってくる。……って、誰もいないはずなのに、やっちゃうのは癖なんだよなあ」


 制服に着替え、家を出る。

 俺の家は少しボロ臭いマンションで一人暮らし。

 両親がアメリカへ急遽行くことになり、俺だけ高校に入るのと同時に個々の地域に引っ越したのだ。


「まあ、いいか。早く行こう」


 マンションを出て、10分ほど歩く。

 そこに見えるのが俺が通う学校だ。


 結構田舎の学校で、目の前には山が見える。

 1ヵ月に一回くらい、山の方から動物が見えたりもする。


 靴箱で履き替え、教室に入ると、一瞬こちらに視線が集まるが、すぐに何事もなかったかのように戻る。

 そして俺は一番左の一番後ろの席に座った。


 ほんと……誰も挨拶してくれないとか……悲しい奴だな、俺って奴は。やってくれたら返すのに……


 虚しさが襲ってくる。

 みたらわかると思うが、俺は陰キャ。青春の一文字も経験したことのない悲しき人間なのだ。


「よっ」


「……」


 そんなことを考えながらぼーとしていると、いきなり目の前の男、崎原光輝さきはらこうきから話しかけられる。


「おい、なんで無視すんだよ」


「……いや、寝不足過ぎて反応できなかった」


「寝不足ってお前な……ちゃんと寝ないとダメだぞ~。寝る子は育つっていうし」


「崎原は寝過ぎなんだよ」


「おう、わかってるじゃないか! やっぱ、流星と話してると和むわぁ。楽でいいわぁ」


「あはは……」


 バンバンと肩を叩かれる。

 苦笑いするしかない。

 そう、こいつは俺とは真逆の陽キャというやつでこんな俺に話してくれる友達といっても過言ではない奴なのだ!


 まあ、俺の事を友達だと思っていないかもしれないけど。席が近いから話しているってだけだし。


「あ、来た」


 崎原がそう言うと周りが騒がしくなる。


「……? 来たってなにが?」


「ほら、いつもの奴だよ。あれだよ、あれ!」


 崎原が前を教室のドア付近を指さす。

 最初はなにかわからなかったが、すぐに理解した。

 彼女が来たのだ。


「おはようございます。今日は快晴でしたね」


 彼女の名前は福岡咲ふくおかさき

 この学校において、知らない者など存在しない。

 何故ならば……


「かわいいなあ……」


「癒されるぅう……」


「かわいすぎる!」


 周りにいた男たちが一気に胸躍らせる。

 簡単にいおう。

 彼女は可愛い。異常なまでに可愛いのだ。


 透き通った白い肌に綺麗な茶髪。

 薄い赤い目と見事に顔がマッチしている。

 まさに……それは……


「やっぱ、女神みたいだよなあ〜。なあ、流星もそう思うだろ?」


「……ああ、そうだな」


「ああ、ほんとかわい〜。朝みると、ほんと癒されるなあ」


 崎原は完全に昇天しているらしい。

 陽キャというやつはいつもこうだ。


「お前も狙ってみたらどうだよ、あいつらみたいにさあ」


 彼女の方を見ると、大勢の男子から言い寄られているようだった。

 にこにことした顔で接している。

 

「俺はいい」


「なんでだよ。可愛いじゃねぇか」


「それはそうだけど……」


 俺も可愛いとは思うが、それ止まり。

 俺のようなやつと次元が違い過ぎる。

 近寄るのですらおこがましいと思ってしまう。


「まあ、ちょっと小悪魔的な感じはあるもんな。俺もそこは若干苦手だし」


「そういうことじゃないんだけど……」


「ほら、あんな感じだし」


 言われた方をみると、彼女とクラスの誰かが会話していた。


「おはよう。今日もかわいいね〜」


「あ、はい。ありがとうございます。……あれ、今日は一段と寝癖が酷いですね。ちょっとダサいのでいますぐに直したほうがいいですよ」


「え……そ、そ、そんなにダサいかな…‥俺」


「はい、側から見ると凄く。それに匂いも若干しますので香水とか使ってみたらどうです?」


「匂いも!?」


「汗臭いです」


「あは、あははは……ごめんなさああああああい!」


 言っていた子は教室から速攻で出て行った。

 苦笑いしながら毒舌をはく。これはたしかに悪魔だ。

 

「ってこれ……ちょっとなのか? 俺的には結構キツそうなんだけど……」


「いや、だってかわいいから別に良くね?」


「そういうものなのか……」


「そういうもんだ」

 

 よくわからん。

 全くわからん。


「ていうか、お前も恋人とか作ってた方がいいぞ〜。人生が一風変わって見えるし! やってみろって!」


「俺はいいよ。どうせ……出来ないし」


「そんな事言わずにさ~」


 そんな事を言っていると、崎原は近くにいた陽キャ男子に話しかけられる。

 俺との会話を中断して、そっちの会話に入って行った。


 つまり結局、一人になってしまった。

 机の上に手を広げて寝る。

 本当に虚しい奴だと思う。


 俺はきっと崎原や福岡さんのような物語のような主人公にはなれない。

 俺にはそんなトーク力も友達も才能もない。

 彼らからすれば俺はただのモブキャラでしかなくて、つまらない人間性しかない。 

 そんなことは自分が一番わかっている。だからこそ、この現実が辛いのだ。

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