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さあ、宴のはじまりだ

 お城のパーティーが始まるのは日が沈んでからだ。出発まで時間があるので、ロザーナの提案でモニカ父子を中庭に案内することになった。



「うわぁ〜、立派なお庭! ロザーナがお手入れをしてるの?」


「オホホ……そうですわ。お母様やメイドのメアリーにも手伝ってもらっていますけどね」



 娘はモニカたちに、犬やウサギの形に剪定した庭木や、見事に咲き誇る花々を順番に見せて回った。説明をする度にモニカ親子が大いに褒め称えてくれるので、ロザーナは上機嫌だ。



 モニカの父親であるルッツ卿は、第一印象では真面目でお堅そうに見えたのだが、緊張がほぐれてきたようで次第に笑顔が増えてきた。子ども2人の後ろについて中庭を散歩する姿は、いかにも娘を見守る優しいお父さんである。


 彼は庭の植物のことで時々ロザーナに質問をしているようだったが、途中で私はあることに気がついた。



「ダンヴァーズ、この花なんだが……」


「それはですね師匠……」



 ロザーナは、モニカの父親に向かって『師匠』と呼んでいる。それに彼の前ではいつもの高飛車さを封印し、畏まった態度をとっているように見えるのも、私の勘違いではなさそうだ。


 娘が通っていた城下町の道場は、田舎の領地から出てきた騎士が教えていると聞いたが、まさかこの人が師範なのだろうか。


 彼がひとりになった隙に話しかけてみたが、執事の呼ぶ声に邪魔されて確認することはできなかった。



◇◆



「皆様くつろぐのも結構ですが、そろそろお時間ですので支度をお願いしますよ」



 執事の呼びかけに従っていったん室内に戻り、手荷物をまとめて外に出ようとしたところで、私は玄関先に身の丈の半分ほどもある大剣が無造作に立てかけてあることに気がついた。



「師匠、持っていくのは控えた方が……」


「でも何が出るかわからないだろう」


「招待客がダンスパーティーにそんな物を持っていったら、危ない人扱いされてしまいますよ」



 ルッツ卿は不満そうな顔で反論したが、私とロザーナが必死で説得すると、手に取った剣を渋々執事に預けた。



 出発する直前に、モニカは足を止めてなぜか我が家の馬車の方に歩いて行った。馬に向かって小声で何かをつぶやき、首周りを軽く撫でてた後で私たちを見て彼女は嬉しそうに微笑んだ。



「このお馬さんも、ロザーナが育てているんだよね?」


「そう……ですけど、どうしてわかったんですの? わたくし、馬のことは何も話してないですわよね」



 娘は明らかに戸惑っていた。手綱の点検をしている、臨時で雇った御者も面食らった顔をしている。ロザーナたちの様子を気にすることもなく、モニカは馬の瞳を優しく見つめた。



「丁寧にお世話しているのがよくわかるよ。この子、ロザーナのことが大好きだって言ってる」



 彼女の言葉に応えるように、馬はヒヒーンと高い声で短くいなないた。



◇◆



「モニカさんって、面白い子ね」



 走る馬車の窓から外を見つめる娘にそう言うと、ロザーナは得意気に頷いた。



「お母様なら、きっとわかってくださると思っていましたわ。動物好きだし、剣も強いし……他のクラスメイトとは全然違うけど、いいヤツなんですのよ」



 2人の様子を見るに、ロザーナはモニカとのライバル関係などとっくの昔に解消して、親友同士になっているみたいだ。


 昨晩ロザーナが毒薬を煎じているのを見て、一瞬だけモニカを陥れるために作ったのかと疑ったけれど、きっとはじめから自分で飲むつもりだったのだろう。仮病で欠席しようとするほど、娘はパーティーに行きたくなかったのかもしれない。



 やはり娘には、王子様との結婚以上に叶えたい夢ができたのだろうか。そういえば、中庭で『師匠』と呼ぶモニカの父親に素振りのような動きを見せていた。私には何も言わないけれど、こっそり剣の稽古も続けていたのかしら……。


 私はここで考えるのをやめにした。もう、詮索するのはよそう。あの子の好きにさせてあげればいいじゃない。今はもう、お城で楽しい思い出を作ることだけに集中しましょう。



 ――しまったわ! 予期せぬ出来事に気を取られて忘れていたが、到着を目前にして私は重大な問題に気がついた。


 お城にはダイヤや真珠の装飾なんてないし、エルフや妖精も参加していない。実物を見たら、話を盛っていたことはすぐにバレてしまうだろう。



「あのねロザーナ、小さい頃に聞かせた昔話のことなんだけど……」



 娘がショックを受けないようにできるだけ慎重に切り出そうとしたが、前置きを話している最中にロザーナの手で口を塞がれてしまった。



「ひいおばあ様が王子様に求婚されたっていうのは、作り話なんでしょう? もちろん知っていますわ」


「騙してしまってごめんなさい。あの時は、惨めな思いをさせないように必死だったから……」


「謝らなくて大丈夫ですわ。……お母様と一緒に素敵な夢を見られて、とても幸せでしたもの」



 どうやらロザーナも私に、優しい嘘をついてくれていたようだ。目的地に着いた馬車が城門の前で停まると、娘は悪戯っぽい笑みで私の手を強く引いた。



 玄関ホールを抜けるとダンスパーティーが開かれている大広間がある。広間中央の巨大な螺旋階段は謁見の間に通じており、そこで国王陛下と王子から拝謁を賜る瞬間を、招待客たちは今か今かと待ち望んでいるのだ。


 ここから先は、私たち親子にとっての戦場だ。小さく武者震いをした後、ピンと背筋を伸ばし、美しく優雅に見える足取りを全力で意識しながら私はロザーナとともに城内へと進んでいった。

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