激突!学園祭!!
モニカが転校してきて半年が経った頃、恒例行事である秋の学園祭が開催された。
「お母様にわたくしの勇姿を見てもらいたいの。絶対にお越しになってね」
そう言って手渡された入場券を握りしめて、私はロザーナが通う女学院へと向かった。
模擬店やクラス発表が行われている教室を外から眺めつつ、体育棟へと足を進める。お目当ては、娘が出場するというコンテストだ。
学園祭では2日に分けて様々な種目のコンテストが行われており、初日である今日はダンスと歌唱力、2日目は魔法と剣術で競い合う。予選を勝ち抜いた者だけが参加できるため、ハイレベルな戦いが繰り広げられると学校内外で評判だ。
ロザーナは自信満々で4つのコンテストにエントリーし、全ての予選を通過した。
最初に行われたのは、ロザーナが一番得意としているダンスのコンテストだ。優美でありながらも力強さも感じさせる華麗なステップで審査員を魅了して、見事に優勝を手にした。
周りの白い目をよそに、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「当たり前の結果ですわ。オーッホッホッホ……」
コメントを求められた娘が、会場全体に響き渡る高笑いをした。それまでロザーナにポーッとなっていたダンスパートナーの男子学生(おそらくボランティアで来た隣の男子校の生徒だろう)は、明らかに引いてしまっている。
私は保護者用の観覧席に座って、ただ苦笑するしかなかった。
◇◆
午後の歌唱力コンテストには、ロザーナのライバル兼友人であるモニカの姿もあった。
確かに、遠くから見てもはっきりわかるほどの美人だ。目鼻立ちがくっきりしているのはもちろんだが、オーラが人間離れしている。
「さすが、妖精と噂されることはあるわね」
歌い始める彼女を見ながら、私は感嘆のため息をついた。
とびぬけて高いルックスとは裏腹に、モニカの歌は意外にも平凡であった。
所詮ロザーナの敵ではなかったようね、おほほほほ……と思わず心の中で娘と同じ笑い方をしてしまう。あの子の高慢さがうつってしまったようだが、舞い上がっている今は仕方がない。
優勝したのは、またしてもロザーナだった。しかもスコア99.8点と、歴代最高得点を叩き出した。
「オーッホッホッホ、ざまぁごらんなさいモニカ! これが実力の違いってもんですわよ」
まばらな拍手が寂しく響く。観客や対戦相手たちが、「またこいつか」とでも言いたげな表情を浮かべる中で、名指しで挑発されたモニカだけが満面の笑みで熱心に拍手を送っていた。
戦いが終わり、ロザーナは2本のトロフィーを手に喜び一杯の表情で私の方に駆け寄ってきた。
「お母様、見ていらっしゃったかしら? ダンスも歌もわたくしの圧勝でしたわよ」
「ええ、よく頑張ったわね」
私が頷くと、娘は人目も気にせず胸に飛び込んできた。甘えながら、少しだけ不満そうな声でぼやく。
「それにしても、モニカは相変わらずのうすらぼんやりっぷりでしたわね。全くアイツがライバルじゃ、張り合いってもんがないですわ」
頬を膨らませてワガママを言うロザーナを見て、私はふと不安になった。
モニカが娘を素直に祝福したのには、ただのお人好し以上の理由がある気がしてならないのだ。
しかしロザーナは不思議がる様子を見せない。私はただの考えすぎである事を祈った。
◇◆
学園祭の2日目。ロザーナは魔法コンテストにも優勝し、残す種目は剣術だけとなった。
「4種目を全制覇した生徒は、過去に3人しかいないそうですのよ。ここで評判を高めておけば、プリンセス計画の実現も夢じゃないですわよね」
模擬店で買ってきたレモン水を飲みながら、ロザーナは早くも優勝後の展望について熱く語っている。
いくつもの大会に参加して疲れが溜まってきた娘は、自分の試合以外はずっと体育棟近くの休憩室にこもりきりだった。
会場の方から大きな歓声が漏れ聞こえる。強い選手がいるのか、試合は盛況のようだった。
「偵察も兼ねて、顔を出してみたらどうかしら?」
「お嬢様学校の生徒が剣術なんてやる訳ないでしょう。どうせ大した選手はいませんわ」
すっかり油断し切っている娘は、私の提案をすぐに却下した。その後も何度か誘ってみるが、まるで聞く耳を持たない。
そして迎えた決勝戦。体育館の会場に姿を現した対戦相手を見た瞬間、ロザーナは小さく震えた。
熱狂的な声援とともに登場したモニカは、昨日の歌声コンテストとはまるで身に纏った気迫が違ったのだ。てっきりおっとりした性格の少女だと思っていたが、あれは仮の姿だったのだろうか。
しかしよく考えてみたら、彼女は騎士の養女だ。父親から戦いの技術を叩き込まれていても不思議ではない。
試合開始の合図が出た瞬間、勝敗はついた。一気に間合いを詰めて木刀を振ったモニカの動きは、この世のものとは思えないほど俊敏で、優雅とすら思えた。
一歩も動かないまま剣を叩き落とされた娘は、割れるような拍手の中でがっくりと肩を落とした。
◇◆
学園祭から10日後。剣術コンテストでモニカに惨敗して以来、ロザーナは落ち込んで何も手につかないようだった。
さすがに学校を休むことはないが、まるで魂が抜けたみたいにボーッとしているのだ。
「4種目中、3つも優勝したのよ。充分凄いことだわ」
「悔しいのはわかるけど、来年頑張ればいいじゃないの」
そうやって必死に励ますが、聞く素振りを見せない。
どうすればいいか考え込んでいると、後ろから大きな声がした。帰宅したばかりのロザーナが、慌てた様子で1枚の紙を手にしている。
「ねぇお母様、これを見てくださる?」
それは、城下町で新しくオープンした道場のチラシだった。
剣術なんて、貴族令嬢には全く不必要な技能である。それに、庶民も通うような場所に娘を行かせるのは気が進まない。
それでも、ロザーナが復活してくれるのなら安いものだ。私は二つ返事で承諾した。
◇◆
あれから2年。ロザーナは徹底的に剣の技術を磨き、今では大人の男にも負けないほど強くなった。
レイピアを模した練習用の剣を片手に道場へ行こうとする娘を呼び止めて、私は何度目かの説得を試みた。
「もう、剣は充分なんじゃないの? 最近ロザーナの部屋から楽器の音が聞こえてこないわよ」
「まだですわ、お母様。モニカの方が強いですもの。アイツに勝つまでは意地でも続けますわ」
バイオリンを差し出してロザーナを軌道修正させようと誘導するが、全く動じる気配がない。
なおも説得を試みるも、「お母様ごめんなさい。もう出ないと遅刻ですわ」と言ってそそくさと家を出てしまった。
モニカへのライバル心が強すぎて、娘は本来の目標を見失ってしまったのだろうか。
ひとり残された私は、玄関で立ち尽くす。今までなかった事態に、私は強い危機感を覚えた。




