ライバルは正統派ヒロイン!?
ロザーナが13歳になった。勉強や習い事への熱意はプリンセスになることを決意した頃から全く衰えず、この春無事に名門『ヘリオトロープ女学院』の中等部へと入学することができた。
少しずつ大人に近づきつつある彼女は礼儀作法や身だしなみにも磨きをかけており、立ち振る舞いはさながら名家の令嬢のようである。
だがそれは、あくまでしゃべり始めるまでの間だけだ。口を開くと、おかしな言葉遣いと高飛車な発言が全てを台無しにしてしまう。
学校のテストで満点を取ったことを褒めたりすると、次の瞬間には、例のお嬢様言葉と不快な高笑いを100パーセント確実に聞かされることになるのだ。
「こんな簡単なテスト、全問正解して当然ですわよ! オーッホッホッホッホ……」
おそらく3年前の夏に受けたスパルタ合宿の後遺症なのだろうが、今時こんな喋り方をする令嬢は存在しない。たまに小説の登場人物で目にするくらいだ。
当然、娘にはおかしいので直すように言ったのだが、よっぽど厳しく教え込まれたのだろう。ロザーナの口調はあれから元に戻ることはなかった。
ただでさえ友人付き合いが上手くいっていないのに、これでは余計に誤解を招いてしまう。
案の定、周囲には性格の悪いガリ勉と思われてるようで執事からの報告書にも辛辣な言葉が並んでいた。ロザーナ自身の耳にも入っていそうだが、幸い本人は気にしていない様子だ。
どうやら娘は、自分を高めるのに夢中なあまり、他人に興味がなくなってしまったようだ。しかしそんなロザーナにも、最近1人だけ猛烈に気になる相手ができたみたいである。
◇◆
それは、とある騎士が戦場で拾ってきた孤児の少女だった。
元々は田舎の領地にいたが、1ヶ月ほど前に勉学のため王都へ移り住んだのだという。私はその手の情報に疎くて知らなかったのだが、ここへ来た直後から話題の人となっていたらしい。
下級貴族である騎士爵の娘、それも血筋も定かでない養女なんて、本来なら取るに足らない存在だ。それでも王都が騒然となったのは、妖精の化身という噂が立つほど神秘的な容姿をしていたからに他ならない。
少しの癖もない直毛の金髪に、吸い込まれそうなエメラルドグリーンの瞳。すらりと伸びた手足は、まるで陶器のように白くなめらかな肌をしている。
娘と同い年のモニカという少女は、一度見たら必ず魅了されて、二度と忘れられなくなるほどの美しさだという。
なぜ見たこともない少女についてこれほど詳しいかというと、娘から何度も何度も同じ話を繰り返し聞かされているからだ。今では、彼女がどんな姿か絵に描いて説明することだってできる。
噂の少女がロザーナと同じ学校に転入してくると、早速その日から我が家は彼女の話題で持ちきりになった。
「皆がこぞってモニカに話しかけようとするんですのよ。でもモニカってば、ろくに返事もしないんですの。一体どういうつもりなんでしょう」
「隣の男子校から、モニカに交際の申し込みがあったのよ。あんな無口な娘のどこがいいのかしら」
とにかく毎日飽きもせずモニカ、モニカの連発。ほとんど喋らない彼女を遠巻きに観察して、頼んでもいないのに一挙一動を報告してくれる。
そんなある日、学校から帰ってきた娘が馬車から降りてくるなり、大慌てで私の元に駆けてきた。
「事件ですわお母様! あの小娘、とんでもなく大それた野望を抱いていましたのよ」
クラスメイト同士の親睦を深めるために、好きな食べ物や趣味などのプロフィールが教室の後ろに張り出されたのだが、一言欄にはっきりとこう書かれていたのだという。
『将来の夢は、王子様と結婚してプリンセスになることです』
私はモニカの大胆さに驚いた。王子狙いと噂されているロザーナだって、学校ではプリンセスになりたいと自分から宣言したことはないのだ。
親しい相手にこっそり打ち明けるだけならまだしも、クラス全員に見られる形で公表するなんて、よっぽど自信があるのか何も考えていないのかのどちらかである。
ロザーナは肩を震わせながら話していたが、怒りが頂点に達したのか突然叫び出した。
「おのれモニカ、チヤホヤされて調子に乗っていられるのも今のうちですわよ! すぐに身のほどをわからせてやりますわ!!」
ロザーナはひとりで闘志を燃やしている。前々からうっすら気づいてはいたが、どうも人気者のモニカに嫉妬していたようだ。
◇◆
その日を境に、娘はモニカに対してはっきりと対抗意識を抱くようになった。
テストがあれば、自分の点数を言うだけでなくモニカに勝ったことを必ず付け加えるようになったし、彼女の失敗や欠点を見つけては大喜びで報告するようになったのだ。
「モニカってば、正しいお辞儀の仕方もわかってないんですのよ。田舎育ちでまるで常識を知らないんだわ。これでプリンセスを目指そうっていうんですもの、呆れちゃいますわよね! オホホホホホ……」
高らかに笑う娘を見ていると、いじめていないか心配になってくる。注意した方がいいか迷っていた私は、しかし次の言葉でほっと胸を撫で下ろした。
「お母様、ご安心なさって。同じプリンセスを志す者として、ちゃんと正しい作法を教えてやりましたわ」
自分の夢を邪魔するライバルだと思っているはずなのに、モニカについて語る娘はどこかイキイキと楽しそうであった。
その後も相変わらずモニカと張り合う娘だったが、少しずつ変化が生まれてきた。
同じ目標を抱く者どうし、通じ合うものがあったのだろうか。それとも無口なモニカには、案外友達が少なかったのだろうか。
理由ははっきりしないが、学校でペアを作って活動するときには、モニカは必ず娘を誘ってくれるようになった。ロザーナの方でも嫌ではないらしく、近頃では授業の合間にモニカの質問に答えてあげることもあるらしい。
「いいお友達ができてよかったわね」
「かかか、勘違いしないで欲しいですわ! アイツはわたくしの敵、ライバルですのよ!!」
ロザーナの様子が微笑ましくて報告の時にからかうと、娘は恥ずかしくなったのか、耳まで真っ赤にしながら早口で否定して自分の部屋に引っ込んでいってしまった。




