コント「ホームラン王の約束」
配役・・・A=青年 B=野球選手 ●=ト書き
A「はぁ。やっぱ手術受けないとダメか。でも大丈夫かなぁ」
B「やぁ!君が義彦君だね?」
A「誰ですか急に(Bを見る)えっ太田選手!?」
B「そう、ホームラン王の太田だよ」
A「自分で言うんだ。何でこんなところに?」
B「お母さんから聞いたよ。君、手術を受ける勇気が出ないんだって?」
A「そうなんです。いざとなったら怖くて」
B「なら、太田が明日の試合でホームランを打ったら手術を受ける。というのはどうかな?」
A「えっそんな約束してくれるんですか?僕、レーシック手術するかどうかで迷ってるんですけど。そんな手術でホームランの約束してくれるんですか?」
B「もちろん!入院している少年を勇気づけるのもホームラン王の使命だからね」
A「いや、もう19だし入院もしてないです。手術受けようかなーって受付で迷ってるだけなんで。ってか僕なんかより他の人と約束した方がいいんじゃないですか?命に関わる手術を控えた子どもとか」
B「そんな恐ろしいことを言うんじゃないよ!もし打てなくて、その子に何かあったらどうするんだ」
A「いや、そのプレッシャーに打ち勝つから感動するんじゃ?」
B「無理だよ!そんなに追い込まれたらマッサージチェア状態になっちゃうよ」
A「どんな状態ですかそれ?」
B「それにそんな大きな約束したら“これを打てば手術だ”って雑念で集中できないよ」
A「雑念って。いやいや、ホームラン王なら大きな約束してくださいよ。ベーブ・ルースは瀕死の少年に約束したらしいですよ」
B「ルースはルース、太田は太田」
A「よそはよそ、うちはうちみたいに言った」
B「そもそもホームラン打ったら手術を受けるって因果関係はどこから来てるの?データあるの?」
A「論破しようとしないでください」
B「ホームランを打ったら手術するってのは、手術しないならホームランを打たないってのと同じなんだよ。つまり!・・・どういうこと?」
A「知りませんよ。ディベート弱いな。まぁ約束してくれるのはありがたいんで、お願いします」
B「OK!ところでここは人が多いな」
A「総合病院ですからね」
B「(他の患者に話しかける)そちらのお父さんはどうしてここに?ヒザの手術?じゃあホームランを約束しましょう!」
A「何してるんですか?」
B「ホームラン1本でレーシックだけじゃ割に合わないから、他の人とも約束してるんだよ」
A「ホームラン約束のかけもちなんて聞いたことないですよ。そんなことしてプレッシャーは大丈夫ですか?」
B「大丈夫!命に別状ない手術なら何も感じないから」
A「少しは感じてほしいですけど」
B「太田はね、ドカンと大きな約束をするより小さな約束をコツコツ達成する方が性に合ってるんだよ」
A「ホームラン王の言動と思えないな」
B「とにかく、そちらのお父さんにもホームランの約束をしましょう!・・・いやいや、そう言わずに」
A「断られてるじゃないですか。ってか太田選手、後ろで子どもが呼んでますよ」
B「子ども?(振り返る)どうした?フラフラじゃないか。え?心臓の手術を受けるからホームラン打ってほしい?それで病室抜け出して来たって!?」
A「太田選手、約束してあげましょうよ」
B「無理無理!想像しただけでプレッシャシャシャがががが」
A「めっちゃ声震えてる!これか、マッサージチェア状態って」
B「ホームラン打ったら手術受けるんだよね?・・・ツーベースヒットじゃダメ?」
A「値切った!?」
B「えっ?うん、うん。OK!じゃあシングルヒット以上で手術を受けると」
A「子どもに気遣わせた」
B「じゃあ約束だよ!義彦君も、ヒット打ったら手術受けてくれよ!」
A「いや、ホームランは!?」
●球を打つ音と歓声。
A「あー、やっぱ手術したては目痛むな」
B「やぁ義彦君!」
A「あっ太田選手!」
B「昨日の試合、見てくれたかな?」
A「見ましたよ、逆転サヨナラ場外ホームラン。ホームラン全部乗せでしたね。すごかったです!」
B「君も困難を乗り越えて成長したようだな。目の輝きが違う!」
A「レーシックしたからだと思いますけど。まぁよかったです。あの子も手術成功したらしいし」
B「それは何より!」
A「本当にありがとうございました。しかも病院まで確認に来てくれるなんて」
B「いや、そうじゃないんだ」
A「え?」
B「実はあのホームランで手首を痛めて、手術しないといけなくてね」
A「えっ!?」
B「でも受ける勇気が出ないんだ。はぁ、誰か太田にホームランの約束してくれないかなぁ」
A「逆になっちゃった!?」