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第十五話 その魔女はシンデレラを売り飛ばす

 どうも皆さま、初めてお会いする方は初めまして。以前にお目にかかられた方は、お久しぶりです。ヌイヴェルでございます。

 私は高級娼婦を生業としておりまして、いわゆる上流階級の皆様方に寄生して生きている女吸血鬼でございます。皮肉めいた自己紹介となりましたが、実際のところ、私は魔術を行使できる魔女なのでございます。

 どのような魔術なのかと申しますと、触れ合った相手から情報を抜き取る《全てを見通す鑑定眼ヴァルタジオーネ・コンプレータ》という魔術でございまして、触れ合う肌や時間が長ければ長いほど抜き取れる情報も多くなってまいります。

 しかも、相手からは抜き取られないという防諜まで備わっておりまして、《永続的隠匿オクルタメント・ペレマメンテ》という情報遮断の魔術まで身に付けてしまいました。つまり、私は自身の手の届く範囲ではございますが、身近におられる方々から断りもなく気付かれることもなく情報を吸い上げてしまうのです。

 魔女にして、吸血鬼。ああ、なんと罪深い存在なのでしょうか。神様、ああ、今日も罪深い私をお許しくださいませ。

 さて、皆様、“シンデレラ”というお話をご存じでありましょうか? 私の住まう国とは違う別の国のお話なのですが、シンデレラという美しい娘が、継母やその連れ子である姉達からひどい仕打ちを受ける日々を送る境遇の中、お城で開かれる舞踏会に魔女の助力を得て出席し、王子様に見初められて幸せになる、というなんとも夢のあるお話でございます。

 身分差がしっかりしている国ほど、そうした身分違いの色恋話が大沙汰になることもございます。現に、私の従弟ディカブリオとその妻たるラケスがまさにその典型例。ラケスは貧民街の出身で、それが男爵の令夫人になるというのですから、結婚前後はそれは大きな騒ぎとなったほどです。

 シンデレラの場合は一応、王族が主催する宴席に呼ばれるほどの良家の出身とはいえ、招待状もなしに宴に紛れ込み、いきなり王子に見初められましたのは、なんと言っても気品あふれる美しさを始めから持っていた点が大きいのではないでしょうか。

 ですが、我が国のシンデレラはそうは参りません。私の美貌を上の上といたしますれば、せいぜい中の上程度の容姿。しかも、良家の出ではなく完全にそこいらの農村の村娘で、気品も何もあったものではありません。

 挙句の果てには、シンデレラを助ける魔女は、業突張りで悪辣なこの私。

 さてさて、今宵は我が国のシンデレラと、それを“売り飛ばした”魔女のお話をいたしましょう。


 

               ***



 事の起こりは、街の広場で祭りが開かれている日でございました。あちこちで露店が立ち並び、商人たちが威勢のいい声で物を売り込み、芸人達が様々な芸を披露して、それを観衆が拍手や歓声で賑やかしておりました。それはもうこれぞ祭りという華やかさで、私もついつい鼻歌なんぞを口ずさんだものでございます。

 私も祭りを楽しむために普段の艶やかな衣装はやめにして、地味な動きやすい服装で参加いたしました。もっとも、白一色の特異な容姿はどうにもなりませんので、頭だけは帽子をかぶって髪を隠しておりました。

 他には連れが二人おりまして、それはジュリエッタとアゾットでございました。

 ジュリエッタは私の働く娼館に務めており、この国では珍しい赤毛の持ち主で、私と同じく高級娼婦でございます。今は亡き祖母の最後の弟子であり、私にとっては妹のような存在でございます。もっとも、齢は十五ほど離れておりますので、妹というよりも娘と言った方がよい年の差かもしれませんが、ジュリエッタからは姉と思って慕われておりますので、私も彼女を妹分として面倒を見ております。

 アゾットは我が家のお抱え医師であり、私が“魔女”として動く際の従者でもございます。もっとも、今日は荷物持ちとしての立ち位置ではございますが。


「賑やかですね、ヴェル姉様」


「あまりはしゃいではダメですよ、ジュリエッタ。立ち振る舞いは常に優雅に、そして、気品ある言葉遣いを心掛けなさい」


「大丈夫大丈夫。どうせ、こんな所には私やヴェル姉様のお客なんて来やしませんから」


 まあ、ジュリエッタの言も一理あります。庶民の祭りにわざわざ参加しようなどという貴族や富豪などごく少数。いたとしても、貴賓席辺りで歓談しているのが関の山でございましょうか。

 少なくとも、人ごみに紛れて、見物や買い物をしようなどとは思いますまい。

 私も半分は上流階級に属しておりますが、正確には庶民でもありますし、こうしてジュリエッタの誘いを受けてこの祭りに参加しているのでございます。

 まあ、普段の社交場サロンでの知的な会話や厳かな雰囲気も良いのですが、たまにはこうした喧噪も悪くはないと思っております。


「主人よ、あれはなんでございましょうか? 喧騒とは違う、なにか奇妙なざわめきのような感じがしておりますが」


 アゾットの指さす方向に視線を向けますと、確かに妙なざわめきを発している場所がございました。

 はてさてなんであろうかと思い、そちらの方へ足を運びますと、とんでもない光景が飛び込んで参りました。なんと、一人の女性が縄で縛られおり、その縄の先を一人の男性が握っておりまして、しかも女性の首には“この雌馬を誰か買え!”などと書かれておりました。

 何よりも問題なのは、その二人がどちらも私の顔見知りであったことです。


「オノーレ! エーラ! 何をしているのですか!?」


「「あ、ヌイヴェル様」」


 二人はファルス男爵領の領民で、オノーレは我が家の厩舎番として馬の世話をしており、エーラはその妻でございます。

 オノーレは馬の世話が上手く、しかも馬具の手入れや厩舎の掃除もテキパキとこなし、何かと重宝してございました。その働きを賞して、何か望むものはないかと尋ねましたるところ、独り身なのでそろそろ嫁が欲しいと言って参りました。

 そこで、領内の適齢の娘を紹介いたしまして、それがエーラでございました。働き者の厩舎番と、元気のよい娘、それぞれ二十二に十六と中々のお似合いと思い、私が仲人を務めましてめでたく夫婦となったのでございます。

 それが一年ほど前のことでございました。


「一体、この有様はなんじゃ?」


「ご覧の通り、この雌馬を売り飛ばしてやるんですよ!」


 全く説明になっておりません。どうしてこうなったかの過程がすっぽり抜けて、今現在の状況だけを伝えられても困ります。

 女房を縄で縛りあげて売り捌こうなど、まず出てこない発想でございますから、それ相応の理由があるはずでしょうに。


「オノーレ、主人はどうしてこうなったのかと聞いているのだ。理由を説明したまえ」


 うむ、良いぞアゾット。従者として的確な言ですわね。


「ハンッ! このバカ野郎の作る飯が不味くて、食えたもんじゃないからですよ!」


「何言ってんだい! あたしの料理は旨いって、近所でも評判なのにさ! あんたの舌が狂ってんのよ! あんたに合わせてたら、塩っ辛くてそれこそ食えないっての!」


「んだとぉ!」


 こうなってきますと、売り言葉に買い言葉。両者一歩も引かず、あれやこれやと罵声を浴びせ、相手の揚げ足取りに熱を入れ始めました。

 二人の間を取り持った私が申すのもなんですが、この二人の相性は、はっきりと言ってしまえば、最悪でございました。どちらも負けん気が強すぎて、相手に“譲る”ということをせず、自分の意見を押し通そうとするのでございます。

 私も仲人の責任として、どうにか二人の間を取り持とうと努力して参りましたが、中々に上手くいきません。今のような料理の味付けなどは言うに及ばず、新居の内装から親類縁者との付き合い方、仕事や家事のやり方に、果ては夫婦の営みのことまで、それは事ある毎に私は二人の仲を修復してきました。


「昨夜だって、さっさと寝ちまいやがって! 俺は一日“六回”はしたいんだよ!」


「あんたは獣か! 多いわ! その半分でも多いわ!」


 なにやら絶叫を続ける二人でありますが、周囲の祭りの見物客も引いていますわよ。周りの状況が全く見えていないようです。


「やれやれ、こやつらは・・・。ジュリエッタよ、どう思う?」


「六回とか、ちょろいですわね。私の上客は十回超えますわよ」


「そうであったな。・・・では、なくてじゃな」


 ジュリエッタも益々たくましくなってまいりました。頼もしい限りでございます。


「ほらほら、オノーレさんに、エーラさんも落ち着いて」


「うるせえぞ、ジュリエッタの嬢ちゃん。それとも何か? お前が俺の嫁にでもなんのか?」


「稼ぎを百倍にしてから、出直しなさい」


 ニッコリ笑顔でお断り。ジュリエッタも稼ぎが増えてきておりますし、ある意味当然の条件といえば条件でありましょう。まあ、“裏仕事”の稼ぎがあります私には、まだまだ及びませんが。


「とにかく、俺はもうこの女とはおさらばしたいんだよ!」


「それはこっちの台詞よ! こんな横暴な奴なんか、こっちから願い下げだわ!」


「せめて、最後に小遣い銭くらいにはなりやがれ!」


「大金積まれて売られてやるわよ! それであたしの価値を再認識しても、後の祭りだからね!」


「なるかよ、バァカ!」


「ああん!?」


 本当に収拾がつかなくなってい参りました。なにより、根本的なことが二人の頭から抜けております。


「のう、お二人よ、一応言っておくが、結婚の取り消しはできんぞ。他所の国ならいざ知らず、我が国においては離婚は認められておらん。これは庶民であろうが、貴族であろうが、共通の規則じゃぞ」


「知ってますよ。だから、前払いの出稼ぎ扱いで、こいつを厄介払いってことにするんでさぁ! 出向先でどうなろうが、知ったこっちゃありませんがね」


「無茶苦茶な理屈じゃな」


 売るというのは、そういう意味であったか。だが、こんな騒動を見せつけられて、買おうなどという物好きはおるまいて。商品以前に、売り方があまりにもヘタクソ過ぎます。

 無駄な努力を重ねた挙句、結局両者の間に更なる歪みを入れるだけではないか。


「主人よ、もうこれは手のつけようのない状態です。好きなようにさせるのがよいのでは?」


 アゾットの意見は妥当でありましょう。夫婦喧嘩は犬も食わぬなどと言いますが、こんなまずいものは誰だって食べたくはなかろうて。

 とは言えど、二人の仲を取り持ち、結婚式では立会人として婚姻証明書に署名までしております。好き放題にさせていては、私自身の名誉にも関わって参ります。

 何より、エーラが持つ“魔術の才”が勿体ないのでございます。

 私は触れ合った相手から情報を抜き取る《全てを見通す鑑定眼ヴァルタジオーネ・コンプレータ》という魔術を使うことができますので、男爵領の領民のほぼ全ての情報を知っております。当然その情報の中にはそれぞれの持つ魔術の才についても掴んでおります。

 大抵は大したことのないものや使い道のないものばかり。たまに有用なものがあったりもしますが、発現のための条件が難しかったりと、実用に耐えるものはありません。しかし、エーラの場合は有用且つ条件を満たしやすいものでありましたので、いずれは利用しようかと考えておりました。

 領民の中では一番使い出の有る魔術であり、アゾットを縛るためにラケスを引っ付けなければ、従弟のディカブリオとエーラを引っ付けてしまってもいいかも、などと考えたこともございました。

 それほどまでに、エーラの持つ魔術の才が勿体ないのでございます。折角、条件を満たしておるというのに、これでは意味を成しません。まあ、効能の表現が曖昧で、どの程度の効力が発揮されているのかは未知数でありますが。


「アゾットよ、おぬし意見も最もじゃが、ここで下がるという選択肢がないのじゃ。何としてでも婚姻状態を存続させるためにも、この二人の仲を・・・」


 その時、私の頭の中にある考えが思い浮かびました。かなり確率は薄いのでございますが、まあやってみても損はないか、と考えました。


「ああ、ヴェル姉様がまた悪そうな顔をしてます」


「主人の悪巧みが始まりますな」


 なにやら二人から雑音が耳に飛び込んで参りましたが、私はそんなに悪そうな顔をしているのでありましょうか。鏡がございませんので、確認のしようがありません。

 そんな連れ合いの二人を無視しまして、私はオノーレとエーラの前に再び立ちました。


「二人とも、最後に確認しておく。本当に別れてしまったとしても、後悔はせぬのじゃな?」


 強い語気で二人に詰めましたので、少し怯んでしまいましたが、再び互いに睨み合い、そして、怒りの炎が再燃しました。


「ええ、その通りでございます。女房を縛り上げて売り捌こうなどと、狂人の行いですわ! ヌイヴェル様にはなにかとお世話になっておりますが、こんなのと引き合わせた件につきましては、いくらでも文句を言わせていただきますから!」


 エーラよ、その点は本当にすまぬ。似た者同士、仲良くやっていけると思ったのじゃが、同族嫌悪の方が出てしまうとは、本当にうっかりであったわ。


「ヌイヴェル様、今度はおしとやかで貞淑な女を紹介してくださいよ。こいつをできるだけ高く売り飛ばして、それを再婚の資金にしますんで」


 オノーレもオノーレで、もう反省も後悔もしておらぬ。別れる気満々でございます。まあ、引っ付けたのが私なら、別れさせるのも私がどうにかいたしましょう。

 二人の最後の気持ちを確認しましたところで、策を実行すべく、ジュリエッタとアゾットを手招きして呼び寄せました。


「さて、では実行していくぞ。まずは人探し。それから仕掛けなのじゃがな」


 私は二人に耳打ちして、考えている計画を伝えました。


「その方でしたら、以前、ヴェル姉様にお連れいただいた社交場サロンでお会いしたことがありますが・・・」


「一度、往診で出向いたことがありますので、顔は覚えておりますが・・・」


 二人の顔から困惑が浮かび上がってございます。目当ての人物がいるのかどうか、そして、告げました策を本当に実行するのかどうか、そういう色合いが見えております。


「地味な装いの筈じゃが、おそらくは来ておるはずじゃ。貴族の中でも、あの方は例外中の例外。こういう場所で掘り出し物を探すのが趣味のような方じゃからな」


 二人は半信半疑で私の指示に従いまして、目当ての人物を探しに離れていきました。私もまた、その人物を探しに、一度“商品”から離れました。どうか見つかっておくれ、そして、戻ってくるまで売れ残っておくれよ。



                 ***



 私の探索は無駄足に終わり、やむなくオノーレとエーラの所へと戻って参りましたが、まだ売れてはいなかった様子。縄で縛られたエーラを確認できました。

 そして、木箱を踏み台にして周囲を確認しますと、遠目にジュリエッタが戻ってくるのが見えまして、しかも目当ての人物も同行なさっておいででした。

 やはり地味な装いで、しかも従者や護衛も付けていないご様子。とても貴族とは思えぬ立ち振る舞いにて、あれでは庶民と何らかわりません。

 ともあれ、これで策が実行に移せるというもの。早速、私はエーラをその木箱の上に乗せ、周囲から目立つようにいたしました。

 縄で縛られた女性が姿を現したのでありますから、人々はなんだなんだと視線を集めて参りました。ではでは、始めましょうか。


「オノーレよ、馬の番は得意のようじゃが、商売のやり方は素人もいいところね。私が手本を見せてさしあげましょう」


 そして、懐に忍ばせておりました扇子を取り出しまして、パンパンとそれで手のひらを叩き、音で注目を集めました。


「さあさあ、皆様、お立合い! 今日は連れ合いの方に幸運をもたらす雌馬をご用意いたしました。一度足を止めて、ご覧になられていただきたい!」


 いささか品のない声を張り上げておりますが、祭りの喧騒に負けているようでは、注目を集めることなどできません。


「ほら、そこのあなた! よくご覧になってください。どうですか、この手入れの行き届いた綺麗な金髪に、透き通った瞳。健康そうな肌艶に、豊満なる乳房。見事なものでございましょう?」


 ここで扇子で乳房をペチペチ叩き、周囲にそこのところを強調。実際、エーラは中々のものをお持ちで、足を止めた観衆の中には生唾を飲み込む者までおりました。うむ、男を釣るには、スケベ心に訴えかけるのが一番でありますわね。


「この雌馬のお名前はエーラ。齢は十七歳で、今まさに食べ頃の出来合いでございます。お値段たったの1金貨ソリドゥスから! 1金貨ソリドゥスですよ! 今買わずにいつ買われますか? さあ、お買い上げください!」


 なるべく高く売るなら、やはり競売形式にするのが一番。物が確かならば煽ってやりさえすれば、値は上がっていくというもの。

 そして、寄付よりつきを1金貨ソリドゥスに設定したのが重要。もし、銀貨ソルド銅貨ソールにしてしまいますと、遊び半分に競りに参加してくる輩が現れてしまうからです。それでは狙いを定めて買っていただくのが難しくなります。

 金貨ソリドゥスならば、そこいらの庶民は手が出ませんし、せいぜい物珍しさからにぎやかす程度で終わりましょう。裕福な方であるならば、出せないことはありませんが、そういう方は教養や品性が身に付いておられる方で、まあ尻込みなさるでございましょう。

 つまり、この雌馬をお買い上げになるのは、“庶民のような軽いノリを持つ裕福な方”というわけです。そして、私の狙いはその一点。ジュリエッタの側におります、あなたでございますよ。


「1金貨ソリドゥスで!」


 ここで手が挙がりました。ですが、これは仕込み。なにしろ、手を上げて値段を述べましたのは、ジュリエッタでございますから。

 ここで重要なのは、競りが成立したということでございます。誰も値を付けなければ流れてしまいますが、ここでちゃんと値が付いたことで、買えるんだという感覚を皆に植え付けたのでございます。


「はい、1金貨ソリドゥスが入りました! いや、お目が高い! さあ、他にありませんか? 早くしないと、買われてしまいますよ!」


 ここで当然、煽りを入れます。競売なれば、当然のやり方でございます。


「3金貨ソリドゥスで買おう!」


 ここで別の所から手が挙がりました。ちなみに、これも仕込み。なにしろ、手を挙げて値を釣り上げましたのは、アゾットでありますから。

 ここで重要なのは、値が上がったということ。競争相手がいるからこそ、競りは盛り上がりを見せるのでございます。空気に熱を帯びさせ、本当にここが競りの会場だと錯覚させる。なにより、ジュリエッタから離れた場所におりますアゾットに観衆の意識を渡して、遊びではなく本当に競売を行っているのだと、皆に思わせるのでございます。


「はい、そちらの方が3金貨ソリドゥスの値を付けられました! 見る目のある御仁ですね。さあ、他、他はございませんか? 3金貨ソリドゥスより上はございませんか?」


 この値段ならば、庶民には手が出ませんので、囃し立てて終わりでございますが、あなた様はちがうでありましょう? さあ、競りに参加してくださいまし。


「さあ、ございませんか? 3金貨ソリドゥス、あちらの方で決まってしまいますよ!?」


「5金貨ソリドゥス!」


 次に手を挙げましたのは、ジュリエッタの側にいた男性。ああ、引っかかってしまいましたわね。笑いを堪えるのが大変でございます。

 その方の顔は“しまった”という表情を出しております。ノリと勢いで、ついつい競りに参加してしまったという感じで満ちており、今更引っ込みがつかなくなって困惑しております。

 まあ、“それ”が狙いだったのですが。


「はい、そちらの方、5金貨(ソリドゥス)来ました! さあ、他にございませんか?」


 もちろん、ジュリエッタもアゾットも見せかけの競売客でございますから、競り合うことはございません。さっさと身を引いてしまいます。

 また、他の観衆の中に競り合う者もおりません。商品の事、値段の事を考えますと、まあ、競り勝とうとする理由はまず見当たりません。


「はい、他にいらっしゃらないようなので、そちらのお兄さんが、雌馬エーラを5金貨ソリドゥスにて落札ぅ~!」


 私の声に無責任な観衆がやんややんやと囃し立て、競り落としたあの御方が益々困惑してございます。そんなことなどお構いなしに、ジュリエッタがその背中を押して私の所へと連れてきました。


「はい、それでは落札された方に、5金貨ソリドゥスにて雌馬エーラをご提供でございます! はい、周囲の皆様も、拍手、拍手ぅ!」


 歓声と拍手の音が鳴り響く中、私はエーラを縛る縄の先を手にして、それを落札した男性に手渡しました。これにて策は成りました。


「やはりヌイヴェル殿であったか。この魔女め、とんだいたずらを仕掛けたものよのう」


「お褒めに与り光栄でございますわ、“殿下”」


 その目の前におりますこの御方。冴えない風体に服装、おまけに従者や護衛もなし、どこからどう見てもそこいらの庶民と変わらぬ姿なのでございますが、間違いなく“殿下”と呼ばれるほどの身分なのでございます。

 その正体は我が国の国王陛下の従弟で、名をバナージュ=カリナン=ドン=ルーンベルドと申される御方。王位継承権もお持ちの、正真正銘の王族でございます。

 バナージュ殿下は風変わりな方で、政治にも戦にもとんと興味も熱意もなく、ただ暇を持て余してはあちこちを放浪されております。ただ、目利きに関しては上流階級でも屈指とされておりまして、その眼力を持って見出しました何人もの画家や彫刻家の後援者パトロンとして財を提供し、いくつもの名画名品を世に送り出して参りました。最近では細工物や工芸品にまで興味を示され、今日のような祭りや市に紛れ込んでは珍しい品はないかと物色するのが、最近の楽しみなのだと聞いておりました。

 先程の競売の件も、つい“いつもの”が出てしまった結果なのでございます。

 芸術をこよなく愛する放浪の王族、それがバナージュ殿下でございます。


「のう、ヌイヴェル殿よ、今更取り消しはできぬよな?」


「当然でございます。競りにて、一度出した値を下げるのは禁止事項にございますよ。競売への妨害行為とみなされ、不名誉極まりない行動でありますわ」


「だよなぁ~。ああ、魔女のイタズラと分かっていれば、こんなことにはならなかったというのに。ええい、仕方あるまいか」


 バナージュ殿下は懐から財布を取り出され、金貨ソリドゥスを五枚手渡してきました。あっさりこれだけの額を出せる辺りが、さすが王族といったところでございます。


「はい、確かに代金は確認いたしました。では、エーラをよろしくお願いいたします」


「お、おう」


 バナージュ殿下は困惑なさっておいででしたが、それ以上にエーラもオノーレも『本気?』と言わんばかりに目を丸くしておりました。

 まあ、おそらくオノーレは「これだけ脅しつけりゃあ、ちったあ大人しくなるだろう」とでも考え、エーラの方も「どうせ喚き疲れて、あっちが勝手に折れるでしょう」とでも考えていたのでありましょう。

 ですが、この場に私が居合わせたのが、運の尽きですわよ。本来なら成立しない取引であろうとも、小細工を弄して売り捌くことくらい、魔女の知恵と娼婦の話術があれば可能なのです。

 事前にあれほど強く念押しして尋ねたのでありますから、今更引っ込めることもできません。お互いに馬鹿なことをしたと思っていたとしても、文字通り“後の祭り”なのですから。


「はい、これにてお開き! 解散!」


 こうして、喧噪の残り香が漂う中、私達の祭りは終わりを告げ、バナージュ殿下は困惑しながらも、エーラを連れて帰路に着かれました。



               ***



 しかし、私にとっての本番はここからでございます。

 先程、皆様にもご説明いたしましたが、我が国においては“離婚”は庶民も貴族も認められてはおりません。伴侶に先立たれ、それを埋める形での“再婚”であれば問題ないのでありますが、相手が生きているにも拘らず、別れることはできないのでございます。

 新たな妻を迎えるために、今の妻を殺したなどという物騒な例はございますが、基本的には”死が二人を分かつまで”夫婦という間柄は取り消しができないのです。

 婚礼の誓いとは、新郎新婦が神に対して夫婦になることを誓うわけでありますから、人間側の一方的な都合によって神との誓いを破棄できない、というのが離婚禁止の根幹を成しているのでございます。

 では、どうすれば離婚が成立するのか? それは離婚ではなく、“そもそも結婚自体が不成立”であったことを証明すればよいのです。なんらかの理由によって、実は二人は結婚できない理由があり、神への誓いを立てれる状態でなかった、ということを証明すればよいのでございます。

 そうすれば、過去にさかのぼって結婚自体が成立していなかったことになり、夫婦という関係も消えてなくなり、神への誓いもなかったことになるわけです。

 そこで私が目を付けましたのは、結婚してはならない案件の一つであります“近親相姦”でございます。親子兄弟などの近親者間での結婚は認められておりませんので、これを理由に二人の結婚が不成立であったということにしたのでございます。

 こうしては私は“独自の調査”を行い、その結果として“新しい家系図”を見出して、オノーレとエーラが実は“生き別れの兄妹”であることが発覚したのでございます。兄と妹でありましたら近親者でありますし、婚姻は無効というわけでございます。

 この線が加えられた“新しい家系図”を教会に持ち込みまして、オノーレとエーラの婚姻が不成立であった旨を訴えたのでございます。もちろん、事の真偽を確かめねばなりませんし、司祭様もご苦労が多いことでありましょうから、“山吹色のお菓子”をお持ちいたしまして、目と頭が冴えわたるようこちらも“努力”を致したわけでございます。

 そして、厳粛なる審査の結果、オノーレとエーラが兄妹でありますことが確認されまして、残念極まることに婚姻が不成立であったことが確定してしまいました。

 ああ、なんということでありましょうか。神の前にて誓いを立てましたるこの二人が、実は結婚してはならぬ間柄であったとは! 間を取り持ちました私の落ち度でございます。

 少々時間がかかってしまいましたが、こうして私は婚姻無効証明書なる物を手にしまして、バナージュ殿下の邸宅におりますエーラ“令夫人”の下へと向かいました。



                ***



 バナージュ殿下が渋々ながらエーラを引き取り、買い取ってしまった責任を取って屋敷に住まわせておりましたのですが、どういうわけかエーラのことが気に入ってしまいまして、あろうことか結婚するとまで宣言なさいました。

 そんな時期に合わせたかのように婚姻無効証明書が発行されまして、私はそれを渡しにエーラに会いに来たのでございます。


「というわけでございまして、これでエーラ夫人とオノーレの婚姻は無効となりました」


「良かったじゃないですか、エーラ。見事なまでの玉の輿ってやつで」


 面白そうだからと同行して参りましたジュリエッタが祝福なのか煽りなのか、判断に悩む言葉を言い放ちました。


「ジュリエッタ、エーラ“夫人”ですよ。殿下の御妃様になられるのですから、言葉遣いには気を付けなさい」


 これは当然のこと。過去の身分がどうあれ、今現在は殿下の令夫人になられるのですから、その辺りの立場や身分を弁えねばなりません。ジュリエッタには、今後の付き合い方も含めて、しっかりと念押ししておかねばなりませんね。


「それなのですよ、ヌイヴェル様。私としては、何がどうなっているのやら」


 まあ、混乱するのも分かります。なにしろ、村娘として育ち、厩舎番の妻として過ごしていましたら、いきなり王族に連れていかれ、屋敷で丁重に扱われ、そしたら今度は妃とする宣言でございます。困惑しない方がおかしいですわ。

 屋敷の方々から情報を集めましたところ、エーラは非常にしおらしい貞淑なる女性ということでございました。以前のエーラを知る身としては信じられませんが、どうやら劇的な環境の変化に付いていけず、何をどうしていいのか分からなかったため、こじんまりと大人しくなってしまったようでございます。

 まあ、いわゆる“借りてきた猫”状態になって、縮こまってしまったというわけです。

 しかも、根は真面目でありましたから、苦手な読み書きを覚えるべく、バナージュ殿下の許可を得て書庫に入り浸って読み書きを身に付け、今では一人で聖書も読めるようになったそうです。


「エーラ夫人、様付けは不要でございますよ。どうぞ、ヌイヴェルとお呼び下さい」


「それだと、私がやりにくいのです。どうか今まで通りでお願いいたします」


「分かりました。では、そうなさいましょう。ですが、身分を弁えねばならないのは、エーラ様も同様です。正式に殿下と婚礼を執り行われました後は、それに相応しい言動に気を配ってください。仕える者が求めるのは、仕えるに相応しい態度や指示なのですから」


 庶民には庶民の、貴族には貴族の、他者への接し方というものがございます。読み書きができるようになったのはいいとしましても、その辺りがエーラにはまだ不十分なご様子。時々顔を出して、作法の教唆をしておかねばなりませんね。


「ジュリエッタ、あなたもですよ。許可が出ましたので、今のように人目を気にしなくてよい場合は構わないですが、目の前にいるのは殿下の令夫人なのです。人前では言動に注意なさい」


「分かっていますよ、ヴェル姉様。その辺りは仕事柄、慣れておりますから、猫の毛皮なら何枚だって着込めますよ」


 これだけ、ジュリエッタにも釘を刺しておけば大丈夫でしょう。演技は高級娼婦の基本的な技術の一つでございますから。


「それにしても、エーラも上手く立ち回ったわね。どうやって、殿下を誘惑したのさ?」


 早速、砕け過ぎた態度のジュリエッタ。とても、貴婦人への応対には思えぬ話し方に、思わずため息が漏れ出てしまいました。


「特に何かしたわけではないんですよね。こっちは書庫に入り浸って読み書き覚えるのに必死だったし、たまに侍女みたいな付き添いとして、買い物や芸術家の工房に連れ回されたりした程度で」


「ああ、なるほど。だいたい、理由が見えてきましたわ」


 私の予想では、エーラを使って、現在の国内の騒動から逃げたいのでありましょう。

 現在、国王陛下がご病気で倒れられ、命が危うい日々が続いております。そして、その後継となります直系男子がおらず、国内は誰が後を継ぐのかでもめているのでございます。

 候補として名が挙がっているのは三名。

 まずは陛下の娘の息子、つまりは孫で、こちらはジェノヴェーゼ公爵閣下が後見人となっております。自身の妹を嫁がせており、いずれ王位に就かせて、外戚として権勢を奮う気満々でございます。

 別の方は陛下の妹の息子、つまりは甥で、こちらはヴォイアー公爵が後見人となっております。自身の娘を嫁がせておりまして、こちらもいずれは外戚として振舞う気でありましょう。

 そして、最後の一人がバナージュ殿下。陛下の父の弟の息子、つまりは従弟というわけでございます。

 もっとも、バナージュ殿下は従弟といっても二世代近く齢が開いておりますので、後継候補三人は全員が十代、二十代の若者であり、しっかりとした後見人が欲しいところでありましょう。

 しかし、バナージュ様にはおられません。三人の中で唯一男系の血筋を保持しておりますが、確たる後ろ盾がなく、他二人の候補に見劣りしているのです。

 そこに付け入ろうとしたのがチェンニー伯で、バナージュ殿下に自身の娘を宛がい、自身の派閥立ち上げの際に神輿として担ぎ上げようと画策いたしましたが、自らの不徳が招いた災厄によって伯爵家は一族ことごとくが滅び、バナージュ殿下を王位に就かせる計画は水泡に帰したのでございます。

 そこで焦りを覚えたのがバナージュ殿下。当人は王位には興味がなく、今まで通り芸術を愛でる財と時間さえ得ることができれば、誰が王位に就こうが知りません、という態度でいたのですが、チェンニー伯の一件で他の派閥から睨まれる結果になり、身の危険を感じたのでございます。

 こういうときに頼れる後ろ盾がいないのが、バナージュ殿下の辛いところでありましょうか。

 ですが、それを逆手に取る策として、エーラとの結婚を決意されたのでありましょう。

 エーラは元々は村娘でございますから、結婚したとて強い外戚などというものが現れる心配もなく、伴侶の席を埋めることでチェンニー伯のような輩を寄り付かなくさせ、大貴族からの警戒を逸らせようと考えたのでありましょう。

 しかもエーラ自身は(現在は)貞淑なる女性であり、貴族の愛人(本当は客人)になったからといって遊び惚けることなく書庫にこもって勉学に勤しみ、しかも自身の趣味である芸術関連に口を挟んでくるようなこと(よく分からないので適当に相槌を打ってただけ)もなかった。

 つまり、バナージュ殿下にとって拾ったエーラが、派閥抗争的にも私生活においても意外と都合のいい女性であったというわけです。


「・・・というのが、私の考えです。当人にお聞きしたわけではないので、確証はありませんが」


 まあ、恐らくはこれで正解でありましょう。とにかくバナージュ殿下は騒動を嫌い、芸術に囲まれる生活を望まれているのでありますから、騒動の種を消してしまいたいはずですから。


「なるほどですね。さすがはヴェル姉様、頭が回りますわね。あぁん、庶民と結婚しても良かったのなら、私が殿下と引っ付いても良かったのにぃ~。エーラの玉の輿、羨ましいなぁ~」


「ジュリエッタ、あなたじゃダメですよ。演技ではなく、素で貞淑な女性であらねばなりませんから。猫の毛皮が剥がされたらおしまいです」


 ジュリエッタもいい子なのですが、演技で隠しているとはいえ、我の強い性格です。しかも、場慣れしているため、貴族の屋敷に招かれようが、縮こまることもないでしょうし、御淑やかな女性であり続けるのは難しいでしょう。

 一方のエーラは売り飛ばされたことで大人しくしていなければという感情が芽生え、しかも右も左も分からぬ場所に放り込まれました。しおらしくしていることが当たり前になり、以前に比べて明らかに性格が丸くなりました。これなら、今少し教養を身に付けていきますれば、令夫人としてやっていっても問題はないでしょう。


「まあ、エーラ様とオノーレの婚姻取り消しはできましたし、あとはお二人のお気持ち次第です。私ができますのはここまでですので、あとは御随意になさいませ」


 私は持ってきた証明書をエーラに手渡しますと、エーラは複雑な表情でそれを眺めました。


「ヌイヴェル様、“元”旦那は何か言ってましたか?」


「こんなことならもう少し高値で売っておけばよかった、と」


 この辺りは、さすがオノーレと言ったところ。迂闊な行動を後悔はしているようですが、それで不貞腐れるようなことはありません。身軽になったと精を出し、今も屋敷で厩舎番の仕事をしっかりとこなしております。

 まあ、性格に難あれど、厩舎番としては優秀な男ではありますし、そのうちまた女性を紹介してやりましょう。それこそ、目の前の貞淑な女性のような方を。

 今回の収穫は自身の知己を王位継承者の側近くに置けたことでありましょうか。結婚を宣言した直後に婚姻無効証明書を持参いたしましたので、バナージュ殿下の覚えも良くなり、好感度は上がっておりましょう。親交を深めるまたとない口実の出来上がりでございます。

 なにより、エーラの魔術がどう作用するかが、今後の楽しみでございます。

 エーラの魔術、それは《内助の功(ラユートデラモーゲ)》というもの。発現条件は『結婚していること』で、その効果は『伴侶の運気が上昇する』。

 ただ、これではどの程度の運気が上昇するのかが分からないため、どれほどの効力が発揮されるのかが未知数です。オノーレがこの魔術の恩恵を受けていたのか分からなかったため、イマイチ効果が掴めておりません。

 とはいえ、この運気がどれほどの助けとなりますかは、未来を予知せねば分からぬ事でありましょう。今はエーラと殿下の新たなる門出をお祝いすると致しましょう。

 もし、運気の上昇が剛運を呼び寄せ、殿下が陛下と呼ばれる身分になりますれば、エーラもまた王妃陛下となりましょう。そして、後ろ盾のない王妃殿下の唯一の後見人はこの私。

 そうなれば、王妃陛下付きの筆頭側仕えの椅子が確約されたようなもの。娼婦を引退した後の再就職先としては申し分のない居場所となりましょう。

 まあ、そんな下心があったからこそ、全力で婚姻取り消しに奔走し、手早くエーラと殿下が引っ付くように動きましたが、予想以上に早く事態が動いてしまいました。

 平穏無事に二人が過ごされるのがいいのですが、そうもいかないのが現在の国情。他の動き次第で巻き込まれる可能性は大いにございます。

 それに万が一にもバナージュ殿下が国王になられることがあったならば、それは他の候補の後ろにいる方を敵に回すということ。男爵家と公爵家の抗争など、結果は火を見るより明らかなものでございます。

 とはいえ、それでも唾を付けておいて損はないと思わせる何かを感じたのもまた事実。


「奇貨居くべし、だったかしらね」


 ふと頭によぎったことを口にしてしまいました。遥か東の国において、かつて一人の商人が自身の財産の全てを使って一人の冴えない王族を着飾らせ、最終的にはその王族を国王にまで登らせ、自身も宰相として権勢を欲しいままにしたそうでございます。


「ヴェル姉様、奇貨ってなんですか?」


「奇貨とは、将来値上がりするかもしれない商品の事よ。そんな物を見つけたら、大事に側に置いておきなさい、という意味なのよ」


 畑を耕せば利益は十倍、宝石を売れば利益は百倍、一国の王を仕立てれば利益は万倍。さて、目の前の“元”村娘は私にとっての奇貨となるか、ただの社交場サロンの知己で終わるのか、それは誰にも分かりません。

 とはいえ、“靴”ではなく、“縄”を用いた魔女によって結びつけられた殿下と乙女シンデレラ、最後まで見届けるのは仲人の責務でありましょうか。

 ええ、見届けましょうとも。こんな面白い舞台劇に参加させていただけたのですから、存分に踊って見せましょう。魔女として、娼婦として、そして、一人の野心家として。

 さて、これにて我が国におけるシンデレラと、それを助けました魔女のお話でございました。

 寄らば大樹の陰を座右の銘とし、宿木やどりぎとして大樹に絡みついては、天に向かって伸びていきましたが、隣の樹が大きくなりそうだからと、少しばかり浮気してしまいました。

 ああ、私はもしかすると、宿木やどりぎというよりも、あるいは蝙蝠なのかもしれません。

 ですが、私の本分はあくまで娼婦。部屋の中では、お客様にひとときの安らぎと楽しみを与えることを、至上の喜びとする者でございます。

 さて、次なるお客様はどのような方でありましょうか。

奇貨居くべし。呂不韋の立身出世の話は面白いですよね。


シンデレラの元ネタは古代ギリシャやエジプトまで遡れるみたいなんですが、こういう逆転劇は人類共通で好きなんでしょうかね。


金貨ソリドゥスは東ローマ帝国を中心に出回った貨幣で、その信頼性の高さ(金の質の高さ)から『中世のドル貨幣』なんて呼ばれるほど使用されていたそうです。そこらへんから引っ張ってきました。

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