初めての収容違反と096
俺は、レイルとの念話を終え、部屋の中を見る。
部屋は何も無い殺風景な白い部屋だ。結構広い。だだっ広いって感じだな。気温とか無効にしてるから、有効にしてみるか……。
俺は久しぶりに気温とかを感じる様にした。が……
――何も変化がねぇ!
この部屋、空調設備がしっかりしているらしく、温度を感じる様になっても感覚に変化は無かった。
俺はとりあえず、色々と試すことにした。
まず、いつも使っている対物破壊用の魔法を、扉に撃ってみる。
俺は手の平を前に突き出し、目を瞑り手の平に意識を集中させる。暫くそうしていると、手の平に魔力が集まってきているのが分かった。俺はそこで目を開け、手の平に集まった魔力を球体状に変化させる。こんな事しなくとも、イメージすればサクッと撃てるのだが、久しぶりに初心に帰りたくなった。変化させた球体状の魔力に対物破壊の魔法を込め、扉に向けて放つ。
放たれた魔力弾は扉にぶつかる……訳ではなく、貫通して先の扉にぶつかり、爆発。貫通した扉も魔力弾が当たった扉も、どちらも爆発に巻き込まれてブッ壊れた。
……案外、脆いんだな。
こんなに脆いのなら、魔法を使うまでも無かったな。
折角なので、俺はこの施設を探検する事にした。
音楽――楽しい収容違反
施設は白を基調とした色で作られていて、様々なところにSCPの収容部屋がある。俺がいた所はEuclidが収容されている場所だ。
テキトーにEuclidのSCP達を見て回る。
SCP達を見て回っていると、サイレンが鳴った。収まると、アナウンスが流れる。
「緊急事態発生。オブジェクト番号19005が収容違反。見つけ次第直ちに収容せよ。一時的にオブジェクトクラスをEuclidからKeterに引き上げる!総員、気を引き締めて収容に当たれっ!」
五月蝿いアナウンスだな……。面倒くさいし、俺が収容違反をしていないと、出会ったやつ全員に認識されるようにするか。それくらい朝飯前だしな。
俺は、「俺に出会った奴全員俺は収容違反をしていない」と認識する魔法を自分にかけた。
するとどうだ。職員らしき奴に会っても、俺を捕まえようとはしない。お陰で堂々と施設を歩く事ができる。
そうして施設を歩いていると、一つの部屋の前に辿り着いた。その部屋の扉の左横の壁には、下側にオレンジ色でEuclidと書かれていて、その上には「SCPー096」と書かれていた。
気になった俺は、収容室に入った。
入って最初に目に入ったのは、手前側とモニター側の二面がガラス張りの部屋だ。モニター側には机とその上にPCが置かれていた。ガラスの内側には、鉄……だろうか?金属で一面が覆われている箱が、置いてあった。
箱の中はどの方向からでも見えない様になっていた。……人間なら、な。
俺は中が気になって魔力感知を使い中を見る。すると中には、二メートルくらいの白い肌の凄く痩せ細った人型の生物が、長い手で自身の顔を覆っていた。……若干、唸っているような気がする。
唸りが聞こえなくなったかと思ったら、人型の生物は箱から居なくなっていた。
周囲の人間が慌て始める。
……ヤバいことを、してしまったらしい。
職員に聞けば良かったと反省するが、後の祭りだ。
人間達は人型の生物が居なくなって大慌て。だが、俺には確かに「視えて」いる。その人型の生物の姿がな。俺は背後に足蹴りをする。すると、何かにぶつかった鈍い音と共に、微かに人間の言葉が聞こえてきた。「痛い」と。
どうやら俺の足蹴りを喰らっても生きているらしい。流石自然法則に反した存在だ。にしても人語を喋るんだな……。俺は、ソイツに擬人化の魔法をかけてやった。ソイツの姿が、魔法の影響で変わっていく……。
白く長い後ろ髪。顔は長い前髪で隠れていて、赤面している。服は白色のフリル付きワンピース。かなり可愛い感じの服だ。肌は全体的に真っ白で、腕や足は骨しかないんじゃ無いかと思うくらいに細い。ぱっと見は凄く痩せている15〜16ぐらいの少女に見えるな。身長は……150センチぐらいか。
擬人化が終了すると、ソイツは話し始めた。
「……あ、の……生き、残った……君……初め、て」
か細い声だった。12歳くらいの可憐な少女を連想させる、可愛らしい声だ。とてもSCPとは思えない。
「……君……僕に……攻撃、した。君の……攻撃、避け、られない……当たった……すごい……」
「そんなにすごいかよ?」
「すご……い。僕……こうして、喋れてる……君の、お陰……」
そう言って、ソイツはペコリと頭を下げる。
……感謝されると、悪くはねぇがむず痒いな。恥ずかしい……ってやつか。
人語を喋れはするが、流暢ではなかったので魔法で補助をする。
「……すごい……すごいよ……ちゃんと、喋れてる!僕、人間の言葉を流暢に喋れてる!」
俺は補助をしただけなのに、補助魔法をかけた瞬間人語を流暢に喋るようになった。
ソイツは喜びを全身で表現した。ピョンピョン飛び跳ね、名一杯の笑顔を顔に浮かべて。
……余程、嬉しかったらしい……。そう言えば、コイツの名前……聞いてないな。
「なあ……」
「なあに?」
「お前、なんて呼ばれてるんだ?」
「SCPー096……シャイガイって、ニンゲンは読んでる。君は?」
「俺はSCPー19005って呼ばれてるぜ。本来の名前は夜月凰牙……もとい、ディアロだ」
ディアロが俺の本来の名前だ。夜月凰牙はあくまでも人間界用の名前。……コイツになら、本来の名前を言ってもいい気がした。
「ディアロ君……かぁ。……よろしくねっ」
とびっきりの笑顔を俺に向けて。シャイガイはそう言った。
「で……シャイガイ。何で俺はお前に攻撃されかけたんだ?」
「……え、僕のこと知らないの?」
「ああ、気になったから箱の中を見たら、箱で唸ったと思えば背後にいたからな……」
「僕はね……別名の通り、顔を見られたく無いんだ……」
「顔を……か?」
「うん。顔を見たやつは全員コロス……」
コロス。その言葉だけ、ありったけの殺意が込められていた。……ガチの様だ。
「けど、君は殺せなかった。それどころか、反撃された……」
「だから最初に擬人化した時にああ言ったのか」
「……うん。人間で僕から生き残ったのは……君が、初めて」
……人間?俺は悪魔吸血鬼――あ……認識変換かけてるんだった。側から見れば俺はただの人間……か。面倒くさいし、人間って事で話を合わせておこう。
「そうか。擬人化してみて、どうだ?」
「すごくいいよ。人語も話せるし、元の姿よりも動きやすい」
「満足してくれたなら、何よりだ。このままの姿でいるか?」
「……うん。このままが……いい」
「OK。んじゃ……擬人化維持の魔法をかけて…………よし」
「ありがとう……ディアロ君……」
「なぁに、礼にゃ及ばねーよ。俺が顔見ちまったのが悪い訳だしな」
「……また、遊びに……来て、ほしい」
シャイガイはそう言って、俺のフードを掴む。……すごく可愛い。コレがSCP……だと?俺的には、守ってあげてぇ妹感が漂う、ただの白髪ロング少女なんだよなぁ……。
俺は、SCPとは思えないシャイガイを見ながら、収容室を後にした……。
シャイガイの性格はちょっと臆病にしてみました。完全に作者の好みの性格になってます、ごめんなさい。