ヴァンヴァラヤ
「シュルレアリスムですよ」
「はあ……?」
「シュルレアリスムですよ」
「あの、シュルレアリスムとはなんですか?」
「シュルレアリスムですよ」
男はそればかりを繰り返す。シュルレアリスムとはなんなのか一向にわからん。
「腹は空きましたか」
「空きました」
急に鳴り出した腹の虫に、私は腹を押さえながら言った。
「お食べなさい」
出てきた握り飯を、潰れるほどの力で握り混み、一気に口のなかに突っ込む。
ぐるると唸る腹の虫はおさまらん。
「お食べなさい」
出てきたメロンパンを丸々口のなかに詰め込んだ。
ぐるると鳴る腹の虫はおさまらん。
「お食べなさい」
うどんをかっこみ、味噌汁を流し入れ、オムライスを放り込み、カレーを握りいれる。
一向に腹の虫はおさまらん。
しまいには、虫が腹を掻き割って、手前で食らい始める始末であった。
「針をやりましょう」
「はあ」
男は火鉢ほどもある針を、私の胸にぐいと刺し入れた。
「ここがツボなのです」
「はあ」
とんと痛みを感じぬまま、胸に刺さる巨大な針を見つめ、私は曖昧な返事を男に返す。
「みな、ヴァンヴァラヤへ行けるのです」
「ヴァンヴァラヤですか」
私はヴァンヴァラヤを目指した。
青く燃えるテールランプが走り去り、月面のバハムートが這いずり回る。
胸に刺さった針はついに背中を裂き割り、槐の花弁を花開いた。
一羽のカラスが舞い降り、
「腹の虫はどこか」
「食ろうとります」
カラスが腹の虫をかっかと呑み込む。
かつての叔父が現れ、私は問うた。
「叔母を愛しとりましたか?」
「開いとらんよ」
私は叔父の案内で地下鉄通り、マンホールの蓋を破って外に出た。
ヴァンヴァラヤへ行かねばならぬ。