多分、42回目の生まれた日。の前夜
泥の様に眠っていた。
眠っているという状況を理解できている辺り本当に眠っているのかどうか怪しいもんだったが、全身くまなく動かせそうな部位を探しても欠片も見つからないと言う事は体は完全に眠ってしまっているんだろう。
別に今更驚きもしない。よく見る夢がまた始まるんだろうから。
どこで、いつで、誰かも分からない、映像も無い夢が。
「どう…てカ…ゾクって…うの?」
舌っ足らずな幼児の声が問い掛ける。
「あん? 決…ってん…ろ」
軽薄で頭の悪そうな男の声。
低い駆動音がして、直後に凄まじい風の音。いろんな物が割れたりぶつかったりする破壊音が響く。
誰かが強風の中で怒鳴ってる。誰かが自分の事を飛ばされないように抱えてくれている。しかしお構い無しに男は陽気に叫んだ。
「目を開け! 前を見ろ! 大気を感じろ! 何が広がっている? お前にとって世界とは何だ!? 俺達は─────」
暗幕で包まれていた視界が唐突にホワイトアウトする。
聞こえていなかった訳じゃない。暗記しきってしまったシーンを脳が勝手に省略してしまうのだろう。
時間にして数分の夢。
覚えていない、空白の自分の記憶。
(第1章へ続く)