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戦場の夜叉と恋するエミー  作者: 七瀬ひまり
第一章 はじまり
1/37

プロローグ(戦場の夜叉)

大幅修正をしました。


「何が起きているんだ…?」


灰色の髪の少年は、今自分が見ている光景が信じられなかった。

これは幻なのだろうか、それとも自分は夢を見ているのだろうか。あまりにも非現実的な光景を受け止めることができない。


「おい、大丈夫か!」

「先輩っ!」


そんな呆けている少年の元に、赤茶の髪の少年と金髪の少年が駆け寄る。


「俺は無事だ。それよりもあれ…」


灰色の髪の少年は、村の外をゆっくりと指差す。

自分が見ている光景を、この二人にも見てもらおうと思ったのだ。


「何だ?何が——…」

「!?」


彼らも絶句をしている。どうやら自分が見ている光景は現実らしい。

しかし、こんなことがあり得るのだろうか。


「どういうことだ…」

「あり得ないっすよ…」


二人の少年も目を疑っているようだ。

それもそうだろう。



今、少年達が目にしているのは、一人の青年が百人以上の敵兵と対等に戦っている光景なのだから。



あんなにも圧倒的な戦力差があるのに、明らかに青年の方が優位な状況に見える。

きっとそれは、敵兵が束になって襲いかかっても青年がそれを全てよけ、変わりに敵兵を返り討ちにしているからだろう。


敵軍はどんどんと兵の数が減っていく。青年の周りは血で真っ赤に染まり、足元には人が山のように折り重なって倒れていった。


「本当に人間なのか…」


赤茶の髪の少年が恐ろしそうに呟く。自分の目に映る青年の姿が人間以外の生き物に見えるのだ。

青年の銀髪は返り血で真っ赤に染まり、その髪から覗くエメラルドグリーンの瞳は獰猛な動物のように鋭く光っている。そして今も尚、異次元の強さで敵をなぎ倒していた。


そう、その姿はまるで——。



『夜叉』



少年達は未知の恐怖に足がすくむ。

今まであんな化け物のような人間を見たことがない。

少年達は無言で青年を見続けた。



どのくらいの時間が経っただろうか。



気が付けば、戦場に立っているのは青年ただ一人になっていた。


それに気づき、少年達は慌てて青年に駆け寄る。

自分達のような新米兵士は先輩の怪我の手当てしかできないのだから、彼の手当てをしなければいけない。


「先輩…!」


声をかけながら駆け寄るが、青年は全く反応しなかった。

酷い怪我をしているのだろうか。少年達は焦りながら近づく。


「どこか怪我をしていますか?」


灰色の髪の少年は尋ねながらも、青年の体を隅々まで見渡す。

しかし、そこである違和感に気づいた。

青年は全身真っ赤に染まっている。



しかしそれは——。



「怪我を…してない…?」


金髪の少年が声を震わせながら言う。

そう、青年は怪我をしていない。血は全て敵の返り血だった。

百人を超える敵を相手にしながら、無傷だったのだ。


あまりにも恐ろしい事実に、少年達は震え上がる。


青年はそんな少年達には目もくれずに、呆然としたような顔で戦場を見つめていた。その瞳は先程とは異なり生気が無い。


少年達はそんな青年の姿を震えながら見つめる。


すると、突然青年が呟く。



「俺は、正しかったのだろうか」



少年達はどういう意味なのか分からず困惑する。

戦いに勝ったのに、それは正しくないのだろうか。


「でも、行かなければ…」


青年はそう呟くと、また目を獰猛な動物のように鋭く光らせた。

彼のその目線の先には、戦闘が行われているであろう砦がある。


「せ、先輩!?」


少年の制止する声も虚しく、青年は砦の方へと駆けていく。

どうやら彼はまだ戦うつもりのようだ。




少年達がこの青年の姿をみたのは、これが最後だった。




あの後、戦はすぐに終わった。

表向きは、後方に戦力を集め一気に砦を攻撃するという、国軍の作戦のおかげて戦に勝ったということになっている。


しかし、あの青年が一人で砦の敵兵を倒し砦を制圧したことが勝利の決定打だったという噂を耳にした。

砦に向かった青年はまたも無傷で生還したらしい。あの青年の強さであれば、それは真実なのではないかと少年達は密かに思ってる。



その噂の張本人である青年は、もう軍にはいない。終戦と同時に軍を去ったらしい。



理由は誰に聞いても分からなかった。

ただ、全員口を揃えて言った。あの青年は命令違反をしたのだと。


だが、それがどんな命令違反だったのか、誰も教えてくれない。

あの青年と親しかった黒髪の先輩に聞いたが、苦笑いをしながらこう言われた。


「俺にも良くわからん。ただ、あいつがもしもまた国を愛せるようになったら、その時は俺達が温かく迎えてやろう。帰る場所を作って待っててやろうぜ」


黒髪の先輩は少年達の頭にポンポンっと叩くと、笑いながら去っていく。


どうやらあの青年は国を愛せなくなったらしい。でも、それが命令違反とどう関係してくるのかは分からない。

ただ、黒髪の先輩が言う通り、自分達が帰る場所を作って待っておこうと思った。


「帰ってきてくれるっすかね」


金髪の青年が悲しい顔をして言う。

それを見た灰色の髪の少年は、ツンとした態度で答える。


「帰ってくるに決まってるだろ」

「そうだな、きっと帰ってきてくれるさ」


赤茶の髪の少年も一緒に同意する。

そして思い出したように言った。


「そういえば、あの銀髪の先輩には異名が付いてたらしいぞ」

「異名?」

「どんな異名っすか?」


赤茶の髪の少年はもったいぶったような態度をしながら答える。

あのな——。




『戦場の夜叉』




なんてピッタリな異名だろうか。

少年達はそう言い合いながら、訓練場へと向かっていった。



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