新種?
「ラジオ?話す?どういうことだ?」
「だからぁ、こいつがラジオの電波使ってしゃべるみたいな。」
ケンジの前には昨日の高圧水槽が置いてあった。低い音をたてながら動作しているのがわかる。水槽の中には例の生物が入っていた。
「お、それ直ったんだ。よく直したな。」
「ん?ああ、なんか破片が詰まってたみたいでさ、それ取ったら直ったよ。こいつのおかげでノエアもなんとか生きてるし。」
「ノエア?この生き物のこと?お前もう名前なんてつけたのか。」
「いやこいつがそう名乗るからさ。」
「・・・ちょっと待て。順を追って説明てもらっていい?なんでラジオなんだ?話せるって?というかお前なんでこんな早くからいるんだ?」
「泊まったんだよ、そこの畳の部屋で。ポンプの調子が悪くて心配だったからさ。話せるってのは実際見ればわかるよ。」
そういってケンジはポケットラジオを取り出した。誰かが置いていった古いものだ。
「俺さ、深夜ラジオ聞くの好きって言ってたじゃん?」
「タブレット買ってもらえないからだっけ。」
「うるさい。おもしろい放送結構やってんだぞ。・・まぁとにかく、昨日の夜も聞いてたんだよ。そしたらさぁ・・・」
ケンジがラジオのスイッチを入れる。ニュースと音楽が入ったノイズが流れ出した。ありふれたラジオだ。
パン!
乾いた音が響いた。ケンジがいきなり大きな拍手をしたのだ。
「わっ、なんだよいきなり!」
「シッ!ラジオを聞いてみて。」
ラジオ?さっきと変わらないノイズ・・・に、高くて耳障りな音が加わっていた。金属が擦れた音みたいだ。
高音は次第にフェードアウトして、やがて元のノイズだけになった。
「わかる?こいつが音に反応して電波を出したんだよ。」
ケンジは目を輝かせて言った。
「今のが?・・・いやただのラジオの故障じゃないか?振動でパーツが共鳴してるとか。」
「じゃあ今度はこいつに喋ってみるからさ、よく聞いといてよ。」
ケンジが水槽に顔を近づけて、大きく息を吸って叫んだ。
「こんにちはー!」
「うるさ!」
「静かに!」
ラジオの音がまた変わっていた。なんとも言えない、高音と低音が入り混じったグワングワンとした音が響いている。抑揚があり何かの言語にも聞こえる。
「聞いた?いまの絶対喋ってたでしょ?こいつたぶん、電波を操れるんだよ。」
「ちょっと俺にも試させろよ。」
そう言うとヒロシも顔を前に突き出して叫んだ。
「あー!」
またラジオの音が変わる。やはりはもったような音がして、抑揚もある。
「なぁ、これ「あ」って言ってんじゃないか?さっの「こんにちは」もそうだったけど、喋ってるっていうよりはオウム返ししてるって感じなんだけど。」
「いや、でも時々全然違ったことを喋るんだよ。何言ってんのか全然わからないけど。」
「時々?」
「そう!例えばさぁ・・・君の名前は?!」
ケンジが大声で水槽に向かって喋った。ラジオの音が変わる。
「ほら、今言っただろ?「ノエア」って!やっぱりこいつ、喋ってること理解できるんだよ!」
((なまえは をそっくりそのまま伸ばして返したようにも聞こえなくもないが・・・まぁいいか))
興奮するケンジを見て、ヒロシは言うのをやめた。
「・・・でもこれ、すごい発見だよ。電波を操れて?しかも喋ることができる?こんな生き物って見たことないし、たぶんこれ世界初の発見だぞ?」
「何が世界初の発見なんだ?」
二人が後ろを振り返ると、大柄な太った男が立っていた。
「近藤さん! あれ?今日は来るの早いですね。いつもなら午後に来るのに。」
ケンジが言った。近藤は笑って答える。
「昨日ヒロシから、水槽直してくれって連絡が来てな。なんかおもしろい生き物見つけたんだって?それ見たかったし、あんな水槽よりいいもん作ってやりたくてな。早く来ちゃったよ。」
そう言いながら近藤はドスドス音を立てて水槽の方へ近づいた。
「お、これがその生き物か?なんか予想してたのと違うなあ。魚じゃないよな。イカとかその仲間か?」
「近藤さん、こいつ実はすごい能力の持ち主なんですよ!」
ケンジとヒロシはそれまでのことを近藤に語った。
「はーっ、そりゃすごいな!デンキウナギとかオウムとか、電気とか言葉を操れる生き物は知ってたげどこいつは電波も操れるのか?そんなやつ初めて見たな!」
「ですよね。やっぱり新種でしかもすごいつなんですよ!」
「昨日大学に行って、魚類に詳しい友達にも写真を見せたり、図鑑で調べたりもしたんです。だけどこんな生物は知らないって言ってましたね。」
「すごいな。こいつ、この後どうするつもりなんだ?ここで展示するのか?」
「うーん、ちゃんと生きてくれたら展示したいんですけど、その前に専門家に見てもらいたいんですけどねぇ。新種にしてもきちんと発表する必要がありますし。」
「お前海洋大学通ってんだろ?十分専門家じゃないか。」
「・・・ケンジと同じようなこと言いますね。俺は海洋資源が専門なんです。工学部だと情報系と化学系くらい違いますよ。」
「あ、なるほど。それはかなり違うな。」
「じゃあヒロシの大学の先生とかが来るの?」
ケンジが聞いた。
「それも考えたんだけど、考えてみればここ一応博物館だろ?ほら、国のスパコン使える機能あったはずだから、あれ使えばすぐに分かると思うんだよね。」
「お、ひのでを使うのか。あの機器も全然使ってないよな。」
突然ポンプが高音で唸りだした。圧力メーターが徐々に下がっていく。水槽の中で生き物が慌てている。
「嘘、直ってたのに!」
ケンジが慌てて高圧水槽に近づく。叩いたりツマミをいじったりしていると、やがて騒音はなくなった。
「危なかったー。」
「こいつも古いものだしな、長くは持たんだろう。俺がもっといいやつ作ってやるからまぁ待っとけよ。」
「そんな簡単に作れるものなんですか?」
「お前はあんま行ったことないか。この建物の端に作業室あるだろ?ここを買い取ったときに、稲盛さんがいろんなところから機材やら材料やらを集めたんだ。その中には工作機械もあってな、フライス盤とかCNCとか、古いけど使えるものもあるんだよ。」
「へー、よくわかんないけど頑張ってください。」
近藤は笑いながら事務室を出た。しばらくすると機械音がなり始めた。
「近藤さんってここ卒業なんだっけ?」
「いや、たしかにここなんだけど校舎はもっと古いやつのはず。ここの建物、意外と新しいだろ?たしか作られてからまだ20~30年しか経ってないはずなんだ。」
「少子化ってやつだね。」
「当時はな。今はまぁまぁ増えてきたって感じかな。」
しばらくの間、ケンジはヒロシの作業を手伝った。来週のために展示コーナーの改修作業を行ったのだ。
殺風景だった展示コーナーは水槽やら魚の模型やら骨格やらで埋め尽くされた。
夕方になった頃、近藤が戻ってきた。
「出来たぞ、結構突貫工事だからあれだけど、それよりかは遥かにいいものだろう。」