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048、モンスターたち

挿絵(By みてみん)

 尾曽道の表情は凪いで和やかだった。その和やかさの中に僅かな悲哀が混じる。それは今から喪われる、自分が奪う、若い命への惜別だった。目の前の男が何者であるか察した夏人たちは、ただちに戦闘態勢に入った。


「常夏の調べ」


 夏人が謳うように告げると、灼熱が尾曽道を襲った。それは青鎬の黒炎のような直接的な熱ではなく、人体の内から作用する高温の攻撃だった。だが、膝から崩れ落ちると思われた尾曽道はふ、と笑んで、スーツについた埃を払うかのように右手を軽く動かした。風がそよぐように。秋子と美冬も動いていた。秋子は両手を複雑な形に組み、尾曽道に向けた。


「秋の日のヴィオロンの溜息」


 次いで美冬が腰に佩いていた刀で尾曽道に殺到する。尾曽道は秋子の異能により、身体の水分を失いミイラ化する。筈だった。その効果は夏人の異能より瞭然として。すかさず美冬が凍てついた刀で尾曽道の胴を斬りつける。手応えはあった。美冬の口元が緩む。

 尾曽道の皮膚が皺だらけになる。ロマンスグレーは抜け落ちぼろぼろと表皮が零れ落ちる。美冬が胴に斬り込んだ刀を更にぐっと深く刺し、引くと、血液の代わりに乾燥した臓器が転がり出た。全てはこれで終わったと夏人たちは思った。最初の夏人の異能が防がれたのは、単なるまぐれであったのだと。だが。


「優美なる攻撃。堪能させてもらったよ」


 次に口を開いたのは他の誰でもない、今はもうとうに屍と化している筈の尾曽道本人だった。実際のところ尾曽道はボロボロだった。肉体はミイラ化し、醜い臓物が地についている。死んでいる状態の男の声帯が、滑らかに音を発する。夏人たちはぞっとした。


「私の番号は4だ。私は、死と幸せという相対する二つの事象を司る。私には表向きの年齢とは別に実年齢があってね。そう……、今年で二百歳を超すくらいになる。アンデッドを見るのは初めてかな? お嬢さん方。そして、篠蛾敦人君」


 若草の空間には固い表情の敦人がいつの間にか立っていた。夏人たちを手を振って下がらせると自ら前に出る。その間にも尾曽道の姿は元のものを取り戻していた。スーツすら、彼の一部であるように修復される。


「統監府の長官は初代から変わらないという噂は本当だったのか」

「そうだよ。これでも気苦労が絶えない立場でね。それは君も同じかな」


 敦人は夏人たちを屋敷まで飛ばした。気遣いからではない。いては足手まといになるからだ。


「この化け物が」

「些か傷つくな」


 敦人が何もない空間からしなる鞭を取り出す。それには敦人自身の髪が使われており、攻撃対象には過たず絡みつく。ヒュンと回転させると、尾曽道を瞬時に縛り上げた。尾曽道が嗤った。愉悦ではなく、この攻撃の無意味さゆえに。


乙姫(おとひめ)


 尾曽道が呼べば薄桃色の着物を着た愛らしい童女が現れる。尾曽道の影守だ。

 乙姫は主の意図を正確に解し、きらりと光る銀糸を唇に加えると片方を右手の指に挟み尾曽道の身体の周囲を舞った。それだけで、敦人の強固な拘束は意味を失くした。敦人は指をくわえて待ってはいなかった。尾曽道に強烈な回し蹴りを放つ。尾曽道はこれを右腕で防ぎ、拘束によって揺らいでいた体勢を整えながら、次に繰り出される拳もいなした。異能が意味を成さないのであれば肉弾戦、接近戦しかない。乙姫は尾曽道と敦人の戦いを、手出しせずに見守っている。つまりは、今はまだ主の危機と認識していないのだ。その事実は敦人にとってひどく腹立たしいものだった。その余裕を崩してやろうと、敦人は呼んだ。


(きょく)(すい)(えん)!」


 目前に巨大な龍が出現した時には、流石の尾曽道も驚いた。白銀の龍は巨大で美しく、そして尾曽道を丸呑みした。

 ごくりと嚥下する大きな音。

 敦人は乙姫を見た。乙姫も敦人を見ている。その表情に何ら変化がないことが敦人を苛立たせた。そしてふと、背後の龍の様子がおかしいことに気づいた。苦悶の表情を浮かべて、五指の手で咽喉を掻きむしっている。とうとう、龍はげえ、と尾曽道を吐き出した。龍の体液に塗れてはいたが、尾曽道自身には掠り傷一つついていない。それを見た敦人は、呆気に取られ、次には笑い出してしまった。全く。モンスターが多過ぎる。尾曽道自身は、せいぜい並の異能者、お飾りのトップだとばかり考えていたのに。これを殺すのは骨だなと思案を巡らせる。乙姫がいつの間にか尾曽道に日本刀を渡している。ならばこちらも応じねばなるまい。敦人もまた、長刀を取り出し構えた。若草色が迫る。本来であれば心を穏やかにする筈の色がこれ程に脅威を持って見えたことはない。尾曽道を迎え撃ちながら敦人は思う。こんな男が。日本にまだいたのか。弾き、突きを繰り出す。突きは攻撃に優れるが防御が疎かになる。すぐに退く。πも日本刀を遣うが、この男と比べるとどの程度の腕前か。息が乱れる。良くない兆候だ。押されている。あってはならないことに。不死を破るには首を斬るくらいのことをしてのけねばならない。敦人は二、三歩退いて、狙いを定め跳躍した。


 銀閃が奔り、次の瞬間、尾曽道の首がころりと落ちた。



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― 新着の感想 ―
[一言] またもや驚愕! 尾曽道さん、最強ではないですか! いやもう驚くことばかりで、でもその合間に光るほっこり感があって、ちょっと笑える部分もあって…… これ、夢中にならないわけにはいかないですっ…
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