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037、迷子の迷子の

挿絵(By みてみん)

 Ωは花を生み続ける。それは毒を有するとは思えない程に白く透き通った美しさだ。毒の花は青鎬の周囲に密集するが、青鎬はこれらを炎で焼き払った。

焼き払いざま、Ωに接近を図る。体術では恐らく青鎬に分がある。

だが、焼いた花から何とも言えない芳しい匂いが立ち上ったと思うと、青鎬の均衡が揺らいだ。そのまま地に伏す。


「毒の強さを倍加しておいた。綺麗な花を燃やした罰だよ」

「……ざけんな」


 青鎬がよろめきながら立ち上がり、尚もΩに殺到しようとする構えを見せたので、Ωは目を軽く瞠った。そのまま、金色の瞳は湾曲した。

 肘と肘がぶつかる。防御しつつ繰り出されたΩの拳を青鎬は捕らえて、逆にみぞおちに膝をめり込ませようとする。が、Ωはこれを先んじて読み、膝でいなした。そのまま数歩の間合いを取り、手品師のように両手を広げた。咲きこぼれる無数の花、花、花。或いは白く、或いはピンクに、或いは紫に、或いは黄色に。

 色とりどりの花々が、白髪、金の瞳をしたΩの手の上、アーチを描くように浮遊し、何とも幻想的な光景だ。しかしこの幻想の次に待つのは――――――――。

 毒花の群れの圧殺だ。


「黒炎っ!」


 青鎬は炎でこれらを再び焼こうとするも、信じ難いことに美々しい花たちは炎をかいくぐって青鎬に迫る。青鎬のスーツの袖に小花の一つが当たり、じゅわりと布地が溶けた。これはもう、単なる毒の領域を逸している。砂嘴の部下にも毒を使う者はいるが、格が違う。

 そして、あろうことかΩは、生み出した小花の幾つかを無作為に〝喰らった〟。

 正気を疑う行動だ。

 青鎬のそんな感想を察したように、Ωは笑う。


「俺はね、この花を食べれば食べる程に肉体が強化されるんだよ。うん、美味しい」


 敵には命を取ってかかり、自らには補強を図る。

 性質が悪過ぎる相手だと青鎬は乱舞する小花から逃げながら思った。これは〝黒炎の精度を上げるしかない〟。


「黒炎。喰って良いぞ」


 Ωが瞠目する。

 青鎬の生み出す黒い炎が、Ωの生んだ小花の群れを切り刻んでいる。後、焼いて〝消化〟している。


「流石は悪魔の青鎬。一筋縄ではいかないか」


 では次に打つ手は。

 考えるより先に身体が動いていた。〝花で覆った〟両手で、青鎬に再び接近する。打つ拳は毒の拳だが、青鎬の拳も毒を〝切り焼く〟異能のポテンシャルはどちらが上とも判じ難い。蹴り、防ぎ、いなし、打ち、避ける。


「白璃王。刀を」


 青鎬は、Ωが誰に向かって話しかけたのか解らなかった。だが、次の瞬間、Ωがどこからともなく現れた、黒漆の鞘から刀をすらりと抜き、青鎬を襲った。瞬きの出来事だった。徒手空拳で得物を持つ人間を相手取るのは如何にも分が悪い。そう苦々しく思いつつ、青鎬はΩの立ち姿にそんな場合でもないというのに見惚れた。

 肩につくくらいの白い髪は靡き、黄金の双眸は戦意で輝いている。そんな青年の容貌に、銀色の白刃は非常によく映えた。

 とにかく黒炎を使ってしのいでいくしかない。まずはΩから刀を取り上げないことには話にならない。右に左に、振り下ろされる刃を紙一重で避けながら、青鎬はそう考えた。



 音叉は暗闇にいた。

 先程まで、あの少女の首を笹切りで搔っ切るところだった。けれど彼女が笑ってから、ブレーカーが落ちたかのようにあたりは漆黒となった。


(どこにいる。これがあの少女の異能か)


 笹切りを持ち、構えていると、暗闇のどこからともなく、くすくすと笑い声が聴こえた。


「にゃあ。私の異能は96の事象を〝くろ〟に染めること。今はこの空間を黒にしている。そしてその作用は、相手を選ぶことが出来る。Ωたちは、別で戦っている」

「……成程」


 音叉の異能がそれでは効を為さない。しかしこれでは向こうも打つ手がなく膠着状態だろう。そう考えていると首にひんやりした手が触れた。


「にゃあーお。舐めちゃ駄目なの」


 ぐぐ、と、とてもか細い少女の力とは思えない剛力で首を絞められる。


「く……、は」


 辛うじて笹切りを振り回し、相手の手は離れた。


「にゃあ、痛いのー」


 振り回した笹切りがまぐれ当たりしたらしい。軽傷だろうが、無傷よりは良い。


「私は宇近衛音叉。貴方は?」

「カレンだよ。滲理カレン」

「ではカレン。貴方は自分の絶対の勝利を確信しているか?」

「え? うん。だって、音叉、今、盲目に等しいもの」


 音叉はこの少女の早合点を嘲弄したくなった。


「私の番号は111。私は11・1秒、時間を短縮出来る」

「ああ、それであの反射かあ。凄かったもんね。でも、その時間操作だけじゃあ、私に勝てないよ?」

「無論。私のもう一つの異能がなければな」

「にゃあ?」


 笹切りがカレンの腕を過たず切り裂いた。

 鮮血が飛ぶ。

 恐るべき反応速度だなと音叉は思う。本当であれば首を斬る気で行った。

 余裕を湛えていたカレンの顔色が変わり、音叉から距離を取る。音叉は、今回はそれを〝許してやった〟。


「私のもう一つの異能は、直径111メートル内の空間を白く染め上げること。だからカレン。貴方の居場所も白日の下に晒すことが出来る。普段は大して役にも立たない異能なんだけどね。さあ、追い詰められた子猫ちゃん、形勢逆転だよ。どうする?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] Ω強いですね、強敵です。   そして、11.1秒短縮……ちょっとほしい能力てす。
[一言] カレンちゃんかーわよ!!! しかし……だいピンチじゃない! 音叉つええええ。。
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