消費税の暫定税率
とある文房具屋、そこにそいつは現れた。
真夏だと言うのに黒いコートを着た男は汗だらけの手で店を開けた。
「たのもう!」
店内に入ると空調が効いており、ひんやりした風が男の体から熱を奪う。
明るい所から薄暗い店内に入った事で男は目が慣れるまで動こうとはしなかった。
「はいはい、いらっしゃい」
奥から出てきたのは初老の男性であった。
この店の店主であろうその人物の胸にはネームプレートが付けられており『あきのぶ』と書かれていた。
「店主、俺は画用紙が欲しい!在るか?」
「はいはい、画用紙でしたら1枚100円、12枚で1000円だよ」
「そうか、ならば12枚貰おうか」
そう言って男は1080円を差し出した。
あきのぶはそれを見て目を細める…
「お前さん知らないのかい?今月から消費税は10%になったんじゃよ」
「ふはははは!あきのぶとやら、お前こそ知らないのか?暫定税率を!」
「暫定税率?ありゃお前、食い物を持ち帰る場合は8%にするってやつじゃよ。画用紙は食い物じゃないから無理じゃ」
その言葉を聞いてニヤリと男は口元を歪めた。
そう、この流れは全て男の想定の上であったのだ!
「ならば店主…これでどうだ!」
そう、男は手にした画用紙の一部を千切って自らの口に運び…粗食して飲み込んだのだ!
まさに法の穴を突いた男の作戦勝ちであった。
そう、画用紙は紙である!
ヤギを筆頭に紙を食べる生き物はそれなりに居る。
ならば少量であれば人間が食べれない訳がないのだ!
そして、勝ったと男は代金を差し出す…だが!
「お客さん、店内で食べてしまったから消費税は10%じゃ!」
「なんっ?!だ…と……」
暫定税率8%、それは飲食の出来る食料品を持ち帰りで購入した場合に適応されるのである。
ちなみに、持ち帰る予定で購入してから…気が変わって店内で食べても適応されるものであった。
完