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執筆跡地II  作者: ポップP
ガーディアン・ナイト編
2/3

episode:02 覚醒する盾の騎士

―another title:Guardian knight―


 目を覚ますと、そこは地獄のようだった。

 松笠信吾(まつかさしんご)は、何人もの同じくらいの人の上に仰向けに倒れていた。全裸の背中からは、不快な粘液の感触を感じた。

 そして、背中を預けている人間が、冷たい肉の塊にしか感じられないのが最悪だった。

 そんなこととは知らず、彼が仰向けになっている死体処理場の上では、興奮に顔を歪ませて、研究員たちがカプセルとモニターを交互に見つめていた。

 「魔術師ランクが五・八を突破。」

 「現時点で、彼女は世界で上位一割に入る魔術師としての素質を有している、と。」

 「いえ、まだ上昇します。」

 脳と心臓と肺だけを動かして、全裸の少女は魔術についての知識を叩き込まれる。

 「どうしますか。そろそろ覚醒させますか。」

 「いや、まだだ」

 研究員も社長たちも、強欲だった。

 目指すのは頂点だと言わんばかりに、加速度的に上がっていくランクの数値を見ている彼らの目は、まるで天国を見ているかのように輝いていた。

 「魔術師ランク、七を突破しました。」

 思わず、誰かが笑みをこぼした。

 そもそもランク七に到達する可能性がある人間すら、ほんとひと握りしかいない。

 そんな人間が何年もの修行を経てようやく到達する領域に、目の前の少女は一〇分足らずで到達したのだから、興奮するなという方が無理な話である。


 一方でそのカプセルから少し離れた奈落では、死体の処理が始まろうとしていた。

 上からは鉄の塊が振り下ろされようとしていて、下からは数百℃の炎が襲いかかってきていた。

 死体の処理。そこには、ヒトの形を留めたままにしておく必要がない。

 黒い炭や白い灰の粉が床の一部になるまで、死体を焼き、床に擦り付ける。それが、()()の処理という言葉が意味することだった。

 生きている人間にとっては、絶望を遥かに超える苦痛だ。もはや、人道的とは言いがたい研究員たちでさえ、生きた人間に対し手の使用は条約で禁じている。

 つまるところ、信吾は、死体のための処理を生きたまま受けることになってしまったのだった。

 点火された炎は、その温度を徐々に増していく。そして、その炎が、信吾の背中につくかつかないかというところまで迫っていた。

 背中がじりじりと焼けただれるような気がして、信吾は取り乱した。

 (俺、ここで…死ぬのかよ…!)

 死にたくないと願っていながら、焦りのあまり、思わず炎に手を突っ込んでしまった。

 すると、重い金属に物があたったようなのような低い音がして、()()()()()()。熱くないのだ。炎に突き出された手から、だんだんと全身まで、炎の熱がどこかに消えたように、熱さが消えた。

 目の前には炎があって、いくつもの体が一瞬で白黒の粉になっていくのに、熱くないのだ。

 よく見れば、そこに壁があった。色は薄い青だが、透明で、向こう側が透けて見える。自分と炎の間に、確かに壁のようなものが形成されていた。

 (何だ、これ…?)

 この時点では知る由もないが、それこそが、彼の持つ唯一にして最大の防護魔術「護盾の騎士(ガーディアンナイト)」だった。


 それと同じ頃、実験場では異常事態が起きていた。

 強すぎる力が、あらゆる物を壊し始めたのだ。

 「計測器がカウンターストップ、計測不能です!」

 「検体、自我が崩壊寸前です!」

 「カプセル破損、検体が露呈」

 穂村来海に叩き込まれた魔術が、崩壊の引き金を引いた。

 計測器が壊れ、来海の心が乗っ取られ、彼女を外に出さないようにしていた鳥籠(カプセル)が粉々に砕け散った。

 彼女の口が動く。手が動く。その動きの一つ一つが、研究員にとっては、悪魔のカウントダウンだった。

 もはや宝の山は、鋭利な針の(むしろ)と化した。

 彼女の口から、魔導書の一節が語られる。同時に、彼女の手が何もない空間に魔法陣を描き出す。

 「…滅びをもたらすは炎の海。炎の色は焼けただれる血の赤。…」

 魔法陣が、ワインレッドの光を帯び始めた。


 処理場では、上からの鉄の塊と下からの炎を魔術の盾で防ぎながら、死んだはずの少年・松笠信吾が生きながらえていた。

 二分くらいの格闘の末に、鉄の塊と炎は、攻撃をやめた。

 どうやら、二分もあれば死体処理は完璧らしい。

 「疲れた…」

 極度の緊張と不安に足をがくがくと震わせて、信吾は歩き出した。そしてエレベーターに乗り込むと、カプセルのある実験フロアで降りた。というより、降ろされた。

 そこには、全裸の少女にロケットランチャーを構える五人ほどの何かがいた。


 全裸の穂村来海が魔法陣を描き始めてから三〇秒ほどで、特殊部隊が実験フロアに飛び降りた。

 即座に彼女の正面に立った彼らの手には、ロケットランチャーが握られていた。

 彼らの任務は、この少女の殺害。そこには、失敗すれば命は無いという現実があった。

 だからこそ、彼らは躊躇なく引き金を引いた。何かを叫びながら走ってくる少年を無視して、少女の抹殺を実行した。

 直後に、大爆発が起こった。


 大爆発によって、尊い命が燃えてしまった。

 ただし、燃えていたのは特殊部隊の方だった。

 「貴様…何、を…」

 特殊部隊のリーダーらしき男が、特注スーツから冷却材を散布して、炎を消した。

 そして、本部に異常事態を伝える。

 「新た…外敵―認―――ま…た。ロケ……ラン………跳ね―返し―」

 雑音だらけのこの交信が切れると、研究員たちが同じようなスーツを着て、降り立つ準備を始めた。

 そこに立っている少年は、紛れもなく、先程の実験で死んだはずの検体番号七番・松笠信吾だった。その事実を認めて、松笠神威が施設の外に出て行ったのを守るSPは、もはや誰もいなかった。

 「テメェら、無防備な女の子に向けて何やってんだよ!!」

 そう啖呵を切る少年の声に耳を貸すような優しい人間はこの場にいない。

 言い訳も否定もなく、その代わりだと言わんばかりに、複数の銃口が少年少女に向けられた。

 「やるしか…ないってのか…」

 正直な話をすれば、恐怖しかなかった。あまつさえ服すらも着ていない状況で、いかにも科学の真髄を集めました、と誇示するかのような戦闘服の人間を前に、立っているのもやっとだった。

 でも。

 だけど。

 「テメェらが銃を降ろさないなら、身勝手な行動で俺たちの命を奪おうとするなら、俺は…俺は、テメェらと戦ってみせる!!」

 それは、彼らに向けた声ではなかった。自分を奮い立たせるため、震えずに立つため、そして何よりも、後ろにかばっている女の子を守るため。その決意の声だった。

 「戦うんだ…魔術師・松笠信吾として!」


 銃口が収束する。両手の指では足りないほどのレーザーポインターが彼の頭を、首を、胸を、その他にも急所を照らしていた。

 一六歳の少年に向けられるには、あまりに強大すぎる力だった。

 しかし、彼は白旗を挙げない。その背後には、魔法陣を描き、呪詛を紡ぎ、その身を空中に浮かせている同い年くらいの少女がいた。

 青白い顔をして歯を食いしばる彼女を、見捨てるわけにはいかなかった。

 誰かがは引き金に手をかけた。それと同時にあちらこちらの引き金に手がかけられ、カチャカチャという金属の音が鉄筋コンクリートの研究施設に響いた。

 信吾は背筋を凍らせたが、一方で闘志が燃え始めていた。

 深呼吸をして、目の前に大きな盾をイメージする。そして、魔術を展開した。

 「敵は魔術師だ。ちょっとやそっとでは沈まない。」

 それは、敵意をむき出しにした女の声だった。

 「魔術弾の使用を許可。弾薬庫を空にしてでも、奴らを生け捕りにしろ!!」

 その声とともに、終戦以来ヒトへの使用が禁止されていた、魔術弾――敵に当たるとともに簡易的な魔法陣を展開して、魔術攻撃を仕掛ける魔術兵器の弾丸――が一二発、彼の体に叩きこまれた。


 爆音がすべての人間の息遣いを呑み込んだ。ガラスが割れるような音と、金属の音が洪水を起こした。

 あらゆる属性、あらゆる種類の攻撃が七色の光となって飛び散り、対峙していた殲滅対象(まつかさしんご)も、その後ろにいた殲滅対象(ほむらくるみ)も、見る影もなくなった。

 視界が自由になった時、もうそこには人間はいない。

 ように思えた。しかし、色とりどりの攻撃の光は、彼の体に届いていなかった。

 炎の矢も、氷の刃も、光の爆撃も、一二発すべての攻撃が、盾によって弾かれていた。

 「……いける…!」

 恐怖は消えた。足は、動く。

 信吾は、銃を構える戦闘員たちに走って突っ込んでいく。

 恐れるものは、無い。

 魔術兵器を使っても傷ひとつ追わないその姿は、研究員たちに恐怖を植え付けるには十分だった。


 走って突っ込んでくる信吾を前に、研究員たちは足を震わせて、立っているのがやっとだった。

 「どうすれば…一体、どうすればいい!」

 戦闘員を指揮していた女は、心を恐怖に蝕まれて、捨て身を覚悟で近くの兵器を右手で掴み、彼に投げつけた。

 瞬間、閃光と轟音が空間を支配したと思ったら、今度は、全ての光と音が消えた。

 どうやら、投げたのはスタングレネードだったらしい。

 信吾はその場で、光から身を守るために(かが)んだ。そして、足が止まった。

 戦場に慣れている女は、この機会を逃さなかった。

 物を投げた直後に理性を取り戻し、高い動体視力をもって物体を観察。そして、それがスタングレネードだと気づいた瞬間に、戦闘服の視覚接続を切った。こうして、戦闘服から送られてくる暴力的な光の信号を、脳に与えずに済んだのだった。

 女は戦闘服を脱ぎ捨て、道に迷った小鹿のような信吾を、思い切り膝で蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばした信吾は軽く三メートルは転がり、痛々しい音を施設に響かせながら、コンクリートで、何度も何度も擦り傷を負った。

 (甘かったわね、坊や。戦場では経験がモノを言うのよ……!?)

 驚愕と、若干の興奮。

 見くびっていた信吾が一瞬起き上がろうと力を込めたのだ。

 それを見た女は、体勢を整え直したが、

 「クソっ……」

 恨み言ともに、彼はまた地面に倒れ、コンクリートを舐める格好になった。


 戦闘員の前に、穂村来海は無防備にさらされていた。

 戦闘員が武器を向けて引き金を引く、ほんの一瞬前のことだった。背後の魔法陣が輝きを増した。

 そう思った瞬間にはもう、無慈悲なまでに大量の炎が、魔法陣から前の向き、つまり戦闘員たちに向けて放たれた。

 圧倒的な熱と光が場を支配したあとには、人の影どころか、戦闘服の一着、骨の一本すら、残っていなかった。

 さらに、核爆弾にも耐えることをウリにしていた実験施設も、鉄筋コンクリートが崩れて、ガレキの山となっていた。


 そして、穂村来海は暴走する。

 その身に余るほどの魔力をかき集め、神話の中でも禁忌とされる詠唱を始めた。

 彼女に、もはや意識はない。

 何かに取り憑かれたように、彼女は魔術の発動準備を進める。

 その魔術の名は「焉界の炎海(ワールドエンド)

 世界を終わらせるというこの名前を持つ魔術は、実は一〇ほどのバリエーションがあるが、そのどれか一つでも発動すれば、文字通りこの世界は灰燼、つまり灰と塵にまで壊れて終わる。

 この世界の命を握り潰す魔術が、展開され始めた。


 目が覚めると、何もかもが違いすぎた。

 守ろうとしていた少女は、背中から紅色の羽を生やして魔法陣を描いているし、対峙していた戦闘員は見る影もない。

 意識が朦朧とする中で、魔法陣の中の文字列が、彼の意識を強制的に覚醒させた。

 (World end…世界の、終わり…?)

 この世界が終わろうとしていて、その幕を降ろそうとしているのは、自分が命を懸けて守っていた少女だった。

 その事実が、自分の行動を否定していく。

 (こんなことなら、初めから…)

 一瞬、ほんの刹那の時間だけ、見捨ててしまえばよかったという考えが脳をよぎった。

 (そんなわけ…あるかよ…)

 しかし、彼は芯の強い人間だった。

 熱風と痛みに体を軋ませながら立ち上がると、天に向かって吼えた。

 「アイツが死んで迎えるハッピーエンドなんて、幸福(しあわせ)でも何でも()ぇだろうが!」

 そう。最初から、それだけのためだった。

 目の前で少女が死にそうだったから。死んでいい命なんて、一つとして無いから。

 だから、彼は立ち上がり、盾を構えたのだった。

 守るために力を手に入れた、なんて思わない。これは、所詮は与えられた力だ。

 だけと、守るために使うことはできる。

 (この力は…)

 自分の中で、誓いを反芻する。

 「守りたい者を守るために!」


 業火が吹き荒れた。

 魔術師ですら耐え切れないほどの魔力を宿した来海の体が、取り込んだ魔力を放出し始めた。

 魔法陣そのものが、炎のようにオレンジ色の光を放ち、光が最大になったその時、ガレキの山に向けて、地面と平行にまっすぐ炎が()()された。

 昨日まで生きていた現実の世界ではありえないような現象が、今、目の前で牙を剥いていた。

 幸いなことに、向けられた炎の先には誰もいなかったが、鉄とコンクリートでできたガレキの山が、なくなっていた。

 一万℃を超える炎が、鉄とコンクリートを一瞬で蒸発させてしまったのだ。

 もはや、信吾の中で、感情が消えた。

 目の前の惨劇は、目に映るだけで、何かを感じるような余裕や気力を消し去った。

 (何だよ…あれ…)

 信吾の目に、さらなる絶望が映る。

 先ほどの魔術で、明るさを失ってワインのような暗い赤色になっていた魔法陣に、また火がついて明るくなった。

 五秒前に見たような炎を再び撃ち出そうとしている魔法陣の前で、来海の体がふらついたような気がした。

 来海の意識は、もう完全に飛んでいるようだった。

 操り人形の糸を切ったように、来海の体が地面に倒れようとする。

 しかし、それすらも許さないように、無慈悲な炎が直線状に吹き荒れた。

 滅びのビジョンの中で、信吾は来海を見た。

 来海は、死体処理場の穴へと吸い込まれるように放物線を描いていた。

 震える足を踏み出す。もう一度彼女の姿を見て、震えは止まった。

 五メートル彼方へ落ちていく来海に、全力を振り絞って走っていく。

 口を開けている奈落に落ちていく来海まで、残り三メートル。

 しかし、現実は非情だ。

 彼女の頭が、口の中へ消えていこうとしていた…

 「ぁぁぁぁぁぁあああああアアアアアア!!」

 叫びを上げながら、両足で地面を蹴る。体が飛ぶ。

 落ちていく少女の体に手を伸ばす。

 手が、背中に、触れた。

 その直後、重い金属の音が響いた。


 空が、茜色に染まっていた。

 信吾の記憶は、床に衝突する直前に盾の魔術を発動したところで途切れていた。

 (どうすっかな、これ…)

 視線がぼやけて、うまく見えない。それに、腕の中には、柔らかく暖かい何かがあった。

 何とも言いがたい、複雑で不思議な感触を無視して、体を起こそうとする。

 が、うまく起き上がれない。

 ひとまず、自分の腕の中の、体を上から押さえつけている何かを確かめようとして手を動かした。

 (何だ、これ…?)

 その正体を見ようと顔を動かして、やっとピントがあった。

 思わず、笑みがこぼれた。

 声にならない歓喜が、溢れてきた。

 地下数メートルの穴の底で、何度も地獄をくぐり抜けた後で、穂村来海が、腕の中にいた。

 死体処理場に似つかない、生きている人間の温もりだった。

 (どうにかしてここから出ないと…)

 信吾の中で、新しい目標が生まれた。

 (二人で生きて帰る、そのために…)


 その穴の上、跡地となった研究施設には、一〇〇人ほどの戦闘員がいた。

 彼らに課せられた任務は、実験動物の()()()()だった。

 しかし、その手に握られているのは、大型の核爆弾やダイヤモンドでコーティングされた刀、サリンのカプセル、青酸カリのシャワー、ガソリン車のホース、ガスバーナー、その他多くの()()()()だった。

 理屈は簡単だ。

 相手が最強クラスの魔術師である以上、生け捕りというのは危険が大きい。そこで、生け捕りに失敗した場合は、実験動物を確実に殺害するように通達されている。

 彼らは、生け捕りを諦めていた。

 もともと報酬が危険に合わない仕事なのだ。自分の命を優先するのは当然でしかなかった。

 「あと三〇分で出てこなければ、強制突入を実施する」

 戦場の兵士の声が、重々しく聞こえた。


 信吾は、穴から出る方法を考えていた。

 そして、ようやく答えに辿り着く。

 「まずは、ここだ」

 信吾は裸の来海を両手でお姫様抱っこすると、自分のいるところより数十センチ右上に、盾を張った。

 二人分の重さを支える足を少ない体力で動かして、跳んだ。

 成功だ。信吾の足は、さっき張った盾の上に立っていた。

 さらにその上に盾を張って、跳ぶ。

 この繰り返しで何段かジャンプして、ついに地面に足をつけた。

 その時二人を待っていたのは、救援隊や祝福やマスコミのマイクではなく、穴を囲む一〇〇人の戦闘員だった。


 穴から人影が跳んできた時、戦闘員たちは突入準備の最中だった。

 「こ、攻撃!」

 その声とともに、攻撃を始める予定だったのだが、準備が若干手間取ってしまった。

 それだけの余裕があれば十分だった。

 来海の膝を支えていた左手を放すと、右手を肩に回した。そして、肩を支えながら魔術を発動した。

 底面がない箱のように、二人の前後左右に二枚ずつ、そして二人の頭上に二枚の、全部で一〇枚の盾が展開された。

 だらんと力が抜けてしまった来海の体をもたれさせて、信吾は余裕の表情で立っていた。

 殺人兵器は、盾を超えられない。

 その予想は、正しかった。

 展開する盾に弾かれて、軍隊に匹敵する戦闘員たちが放つ攻撃は、ことごとく無効化された。

 戦闘員たちは死を覚悟した。

 報告にあった炎の海に、このスーツが耐えられる保証はない。

 しかし、いつまで待っても攻撃は来ない。

 彼には、攻撃する術が無い。


 戦闘服に身を包んだ戦闘員を前に、傷一つ負わない代わりに、彼らを倒すこともできない。

 それが、彼の力の限界だった。

 そうしている間にも、戦闘員たちは次なる秘策へと手を伸ばしていた。

 「防御は考えるな!我々は任務の遂行のために命をも捧げる、そうだな?」

 「はい!」

 「ならば、玉砕覚悟で捨て身の戦術を行使する。総員、フォーメーション・オメガ!」

 その言葉を聞いただけで、背筋が凍った。

 彼らは、その身を爆薬で包み、唸り声をあげて突進しようとしていた。

 瞳には光がない。命令を守り、命を顧みない、軍隊の一員としての決意だけが、そこにはあった。

 おそらくこの盾は、この攻撃も無慈悲に弾いてしまう。人が爆発するのに手を差し伸べられるような力ではない。かといって、盾を投げ捨てれば、失う命は自分のものだけではない。

 きっと、仕方がない。

 彼らが一歩目を踏み出した。

 が、二歩目は地面に届かない。

 暗い紫色の光が、空から一直線に、リーダー格の男を両断したからだ。

 周囲に衝撃が走る。緊迫感が心を縛っていく。

 さっきまでその男がいた場所に、小さなクレーターができていた。

 そして、衝撃の爆心地に、刀身の長い剣を肩に乗せた男が立っていた。

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