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執筆跡地II  作者: ポップP
ガーディアン・ナイト編
1/3

episode:01 画策する謎の組織

―another title:the project―


 日本の領地でありながら、どの都道府県にも属さない島がある。そこに立つ日本最大のビルの社長室の中で、男と部下が話していた。

 「本日の実験の計画所をお持ちいたしました。」

 声とともに、机の上に一枚の紙が置かれる。

 「被験者は二〇名。そのうち、高位魔術師に覚醒する可能性があるのは二名。他の一八名はすべてダミーとのことです。」

 白衣に身を包んだこの男が、実験の最高責任者らしい。

 彼は言葉を続けた。

 「サインをお願いします。」

 一方で、身長が高く威圧感のある顔の男が、鞄から万年筆を取り出す。先程の、ずっと研究室にこもっていそうな不健康な中年と違い、彼は才能に溢れ、大企業「マジックコマンド」の社長の地位に立っている。

 「Kamui Matsukasa」と万年筆が走る。

 魔術関係の特許の八割を保有する大企業マジックコマンドの社長、松笠神威(まつかさかむい)がサインをして、実験は実行に移されることになった。

 「それにしても、一八人のダミー、か。そんなに価値のある実験動物がいるものなのか?」

 無意識に発せられる威圧感に心臓をバクバクと言わせながら、研究室は答えた。

 「最低でも二〇人は使わないと、国が予算を下ろしてくれませんから。」

 忌々しげに研究員が舌打ちをしたが、無理もない話だ。魔術研究に予算を下ろすどころか、魔術という概念すら、四〇年前には存在しなかったのに、今では魔術師を隔離するために、島を一つ使っている現状だ。この変遷のすべての原因は――

 「――第三次世界大戦…か」

 どうかいたしましたか?という声が聞こえたが、適当にはぐらかす。その後、研究員が出て行くと、松笠神威は思案に身を委ねた。


 二〇三二年に開戦した第三次世界対戦は、ある魔術師が拷問の末に魔術について情報を話したことから始まった。その情報の奪い合いは、国際連合での話し合いでは解決せず、すぐに核兵器の撃ち合いが始まった。しかし、各国が独自に魔術についての情報を解析して防護魔術を使うようになると、いよいよ核兵器は役立たずとなった。

 やがて攻撃も防護も魔術がメインになり、各国は魔術師育成に力を入れ始めた。その当時、松笠神威は日本の外交官として、世界中のリーダーたちが分裂するのを見てきた。

 「だからこそ、魔術を全て統括する人間が必要だった。」

 激化していく戦争は、七年の時を経て終戦し、魔術師隔離(マジシャンアイランド)条約が取り決められた。こうして、兵器としての行き場を失った魔術師たちが、この島に集められた。


 そんな魔術師の島では、普通の街と同じように、老若男女が平和に過ごしていた。学生服に身を包んだ少年少女が学校に向かい、会社員が満員電車に揺られ、主婦たちが朝ごはんとお弁当を鼻歌を歌いながら作っている。

 しかしその裏側では、少年少女が手錠をつけられて、朝日をギラギラと反射する鉄の建物に押し込まれていった。


――実験施設内・実験開始三〇分前


 白衣の男女が四人ほど、会議室に集まった。モニターを見ながら会議をしている彼らは、ともすれば生物学の権威にくらいは見えるかもしれない。

 しかし、彼らは普通の人間を魔術師として覚醒させる実験を始めようとしているところだった。

 かれこれ五分は腕時計を睨みつけていた女が、マイクの前に立ってスイッチを入れた。

 施設のすべての部屋に報告が響く。

 「実験開始三〇分前をお知らせします」

 その声が聞こえた途端に、彼らはそれぞれの業務を開始した。ある者は計測器のメンテナンスを始め、また別の者は拘束されている少年少女の様子を見に行き、施設の外には、重役を待つ黒服の姿があった。

 決められたスケジュール通りに、実験の準備が進められていく。


――実験施設内・実験開始一五分前


 大きな黒塗りの高級車が施設の前に止まったという報告が入ってきた。

 それと同時に、ある研究員が書類を広げて、マイクに向かって話しかけ始めた。

 「研究員各位に通達する。本日は来賓として、マジックコマンド社長の松笠神威(まつかさかむい)様と、そのご子息で副社長の松笠真華(まつかさしんか)様がいらっしゃる。くれぐれもご無礼なことがないように。」

 そうこうしているうちに、先ほど社長室で会話をした最高責任者が、重役たちと席を交換した。どうやら、今日の実験は、彼らが指揮を執るらしい。


――実験施設地下・実験開始一〇分前

 二〇人の少年少女が、実験動物としてコンクリートと鉄の柵に囲まれたこの空間に詰め込まれていた。

 三〇代の女がその中に入っていく。彼女は、脱走者の有無を確認する任務を帯びて来たのだが、もはや精神状態が最悪で、それどころではなくなった。

 研究員として何百匹ものマウスやモルモットを殺してきた()()の彼女には、まだ生きている人間を扱う実験は、死んで固くなった実験動物を焼却炉に放り投げるよりも、ずっと辛い仕事だった。

 こんなことなら昇進なんかしないで、ずっと研究室にこもっていたかったと愚痴をこぼしながら、彼女は的確に数を数えて暗い空間を歩いて行く。

 「一九、二〇。全員いることを確認しました。」

 「了解」

 本部への通達は済んだ。しかし、目の前は行き止まりになっていた。直後、彼女の心は憂鬱な思いでいっぱいになった。……歩いて戻らなければならない。


――実験施設内・実験開始五分前

 「検体番号一番、実験装置に入りました。」

 「続いて、検体番号二番、実験施設に入ります。」

 実験が始まろうとしていた。一人ずつ順番に、少年少女たちが大きなカプセルに入れられていく。その中は緑色の液体で満たされていて、何百本ものチューブが繋げられ、何千本ものコードがコンピューターと交信していた。

 「検体番号二〇番、実験装置に入りました。」

 あとはスイッチを押すだけになった。

 安全装置も計測器も、すべて正確に作動しているとの報告が入る。

 松笠神威が、(いか)つい顔の口元を緩ませて、ニヤリと笑った。直後、野太い声が告げられた。

 「実験、開始。」


――実験施設内・実験中

 そこからは、呆気無いものだった。

 ものの一分もしないうちに、最初の犠牲者が出た。カプセルの中で心臓が停止し、呼吸をやめたその体が、中の液体ごと落とされていく。もう誰も、その顔や体つきなど、覚えていなかった。

 その後も続々と、少年少女がカプセルの中で一生を終えていった。

 気づいた頃には、実験を続けているカプセルは一つしかなかった。

 その中には、髪を肩に触れる程度に伸ばし、体を少し丸めている、可愛らしい少女が裸で入っていた。

 「検体番号一七番、穂村来海(ほむらくるみ)の生存を確認。実験開始より五分経過、目立った反応なし。」

 どうしますか、とでも言いたげな顔で、研究員が来賓の二人を見る。

 「続けろ。」

 威圧感のある返事が返ってきた。

 「それから、死んだ奴らの焼却も忘れずにな。」

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