好きって気持ちが伝わらない百合
気持ちが伝わってない系の話5000兆回よめる。
「はぁぁ~私本当に清子のこと好きだな~」
「分かってる。分かってるって言ってるでしょ!」
真夏の気怠い時期に後ろから抱きしめられることは嫌じゃない。むしろ弥咲の方もこんなクソ暑いのに密着してくれて、私のことが好きなんだろうと実感できる。
が、私の方はそうじゃないのだ。そう再三言ってる。
「あのね、だから私の言う好きって言うのはそういう友情的なもんじゃないの! ラブ!」
「あはははは~」
何言ってるのかよく分からない、という反応で手を振ってから、弥咲は、くてん、と机の上に倒れた。暑さが臨界点を突破したらしいので休ませてやる。
弥咲はかなりふわふわした感じの女子だ。癒し系って感じだけど、すごく気が回るから困ってる人をよく助けてる。
実のところ、私も彼女に助けられたことがある。元々は妙に懐かれて少し困ってたくらいなのに、今では弥咲が近くにいないと落ち着かないくらいだし……、発言の通り、私は弥咲のことが好きになっている。本気で、ラブで。
ただ、そうなると不思議と弥咲の気が回らなくなる。私がいかにラブを伝えても、彼女にはその重みが伝わらないらしい。
今暑くて転がってる彼女を起こしてまで伝えようとは思わない。逆に暑すぎると伝わらないのかもしれない。
何ならこれまでの戦績を伝えよう。私がヘタレだから告白ができないわけではない証明である。
初めて本気で告白したのは始業式、私と弥咲が二年になった日だった。
みんなが早く帰っていく中で放課後、体育館裏の桜の木の下で二人きりになって、そんなところに連れて行って不審に思われただろうが、本気だったから私は意を決して伝えたものだ。
『弥咲に伝えたいことがあるんだけど……』
『随分改まってなあに?』
『……いやその、変な風に思われるかもしれないけど、決して疚しい気持ちじゃなくて、本気なんだけど』
『なに?』
『私は、本当に、弥咲のことが好きなんだ。愛、してる、っていうか、愛の告白、です……』
私がいっぱいいっぱいになりながら伝え終わると、弥咲の表情に特に変化はなく、ちょっと待った後にすごく大喜びしていた。
『わかる~! 私も清子のこと好き~!』
『ほ、本当!? え、本当? いや、私のは、男の人が女の人に言う好きだよ!?』
『え~清子女の子じゃん、何言ってるの?』
『いや女の子だけど、私のは女の子同士の好きっていうか。いやちがくて!』
『あはっ、凄い取り乱してる~。じゃあかえろっか~』
それでその時は、腕を掴まれて、そのまま帰宅した。なんか凄く疲れて呆然としたまま家に着いた。
家でしばらく気持ちが伝わったのか、伝わってないのかを考えて、いやあれは伝わってなかったっぽいなという結論が出たのだ。
果たしてどうしたものか、と悩んだ。こういうのをLINEとかで改めて確認するのもなんか嫌だし、かといっていきなり日常的な話をするのも自分からなかったことにするみたいだし。
二人だけの~何かしら色々、みたいなのも結構憧れてるしとりあえず置いといて、次会う時に改めて話し合うことにしたのである。
それで、二戦目。
『弥咲、この間の、こ、告白の話なんだけど』
『え? なに?』
『その……弥咲も私のこと、愛してる、っていうことで良いんだよねぇ?』
『ふふっ、ふふ、もちろん! 愛してるよ清子~!』
ぎゅうと抱き着かれて、ああそうなのか~、と納得できるだろうか。普段の弥咲となんら変わりない。
だから私がもう一歩踏み込んで、私の気持ちをきちんと伝えて反応を見る必要があると思った。
小さな弥咲の背中に手を回して、ぎゅ、と抱きしめ返したのだ。
『本気で愛してる』
『きゃ~! 嬉しい~!』
『えー……』
珍しくはしゃいでたけど、もっとこうキュン……みたいなリアクションが欲しくて、イケメンアイドルみたいなリアクションされるものじゃないと思う。
『好き、好き、好きなんだ弥咲』
『私も好きだよ~好き好き!』
『なんかちがくないか?』
『ちがくない』
いや違うだろう。
結局、LINEとかで日常的な、というか普段通りの話をして、普段通りになってきた頃だろうか。
いやこのままじゃダメだろう、と。
二人きりで出かけたり手を繋いだり、とかもしていた。けどそれは他の子もやっていることで、あまり特別という感じでもなくて、ましてや弥咲は一向に恋しているって感じじゃなくて。
私が弥咲のことを好きで彼女と一緒にいる時間が特別であるように、弥咲にも私に特別を感じてほしいというか。
自分の気持ちに気持ち悪さも感じ始めたくらいの時に、私は気持ちを確かめる術を思いついたのである。
すなわち、第三戦目。
めちゃくちゃ勇気出して誘った二人きりの花火大会、リアルタイムから二週間前。
『な、なあ、キス、しようか』
雰囲気に合わせて流れるようにスッ……とするくらいの気持ちでいたけれど、向こうにその気がないかもしれないのにそんなのしちゃったら流石に迷惑というか、いや迷惑たって女子同士でキスしてる人むしろ結構いるくらいっていうか私からしてみればそんなことするのか!? ってくらい過度にイチャついてて君達は嫁に行く気ないのか!? って思う人もいるくらいだけどつまりなんというか。
私にとっての最大限の気持ちを伝えるつもりの発言だった。
『いいよ』
弥咲はけれど、どうにも相変わらずだった。
言うが早いが、彼女の唇が私のファーストキスを奪った。
キキキキキキキスしてしまったアアアー!
これは私の焦燥感のようなものと喜びのようなものと取り返しのつかないことをしてしまったという気持ちなどが混ざった当時の頭を埋め尽くしていた感情。
『何か食べる?』
『えっ、じゃあ、かき氷とか……』
その後、つつがなく祭は進んだ。
祭だけが進んでいったのである。
今に至る。
デートもして、手も繋いでキスまでしてしまって、これ以上私は何を望むのだろうか、という気持ちがある一方で、私は確かに弥咲との関係の変化を望んでいた。
確かに彼女と仲良くなれているが、それは私の勇気ある告白という一歩がなくともなっていたかもしれない関係だ。
弥咲はスキンシップでキスなんかしてるのは見たことないけど、でも色んな子に抱き着いてるし、懐いてるし。
私が本当に好きだという気持ちが弥咲に伝わっている気がしない。弥咲がそれくらい私のことを好きだという確信が持てない。いや私くらい好きという気持ちを出さなくても、せめて他の人よりも好かれていたい。
果たしてどうすればいいのかを考えて私はとうとう最後の手段に思い至った。
セックス。
しか。
ない。
……セックスしかないのか……?
一応思いつきはしたものの、それってどうなんだ。
安易……な気もする。けど実際、恋人同士ですることと言ったら順当に行くともうエッチしても良い頃合いなのかもしれない。
そう、確認! 私がエッチしない? みたいに誘うことで、弥咲が私のことを愛しているかどうかの確認に……。
でも弥咲に付き合わせてる……ってわけでもないけど、仮にも愛し合ってる以上オーケーでなくても気分とか体調とかでそういうのできるできないがあるし、っていうかそもそも女同士でエッチってどうしたら始まってどうしたら終わるのか……。
いや、家に誘って、いい雰囲気って感じにして、エッチしませんかって誘いをして頷かれたらつまり確実に両想いだけど、その後がどうしようもない。
いやいや待て待て、そもそもの話、そもそもの話、確実な確認ができればいいんだから。
きちんと、もっと、話し合う。
「弥咲、あー、弥咲さぁ」
「……なに~?」
「私達って、付き合ってる、んだよね。恋人同士の」
「うん」
それはもう、あっさりとしていた。
くたんと机に倒れたままの弥咲、セミの鳴き声とクラスの喧騒がどこか遠くに聞こえるくらいに私と世界が切り離されたかのような熱。
「あ……やっぱり、そうだよね。良かった」
よかったのだろうか。むしろ釈然としないところがあって。
本当に面倒臭いという自覚が出てきたけど、もう少し何か、証が欲しい。
弥咲が私のことを、好きだという私の自覚が。
「……弥咲って、私のことが好きって、どこまでできる?」
聞くと、彼女はくるりと顔をこちらに向けた。
そして、珍しく溜息を吐いた。
「……ハグもキスも私からしたのに……」
静かな言葉が胸に沈む。
それは、確かにそうだった。彼女は、弥咲は最初からきちんと私のことを好きだった。私がそれに気付いてなかった。気付けずに彼女が悪いと思っていた節さえある。
彼女は、最初から、きちんとそのつもりだった。
「何してほしいの?」
「…………」
すぐに答えが出せなくて、黙ってしまった。むしろ私は謝りたいくらいの気持ちでいる。何かをさせるなんて……できるわけない。
答えを出しあぐねていると、弥咲の方が立ち上がって私の横に立つ。
「大好きだって言ってんだろ~?」
ぎゅうぎゅうと抱き着いてきてやっぱり暑苦しい。
「全然気づいてくれないんだぁ」
「……ごめん、本当に」
「私すぐ気づいたのに」
「ごめん」
「いいよ」
軽い調子で言って弥咲はまた私の後ろの席に座った。暑そうに手団扇しながら窓から風を浴びている。
汗を流しながら、涼やかに風を浴びる弥咲の憑き物が落ちたような表情は夏の爽やかさに勝るものがあった。
別作品の話ですが、グローリースーツまだ20~30話くらい書き溜めてるんですけどなんかこうタイミングとかどっから投稿していくかとかで悩んで幾星霜なんですよね。