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地下への道(前)

私の名前は(ぎょう)

憑き(つきびと)という霊に似たアヤカシだ。

憑き人は九十九神と似ている。九十九神は100年の時を経て物に魂が宿る様に、憑き人は物に憑依し姿を得る。だが、憑く物は決まって「提灯(ちょうちん)」か「古鏡(ふるかがみ)」だ。どちらかに憑くのはその憑き人次第で、物に憑依(ひょうい)し姿を手に入れると名が変わる。提灯は「朧提灯(おぼろちょうちん)」に、古鏡は「朧鏡(おぼろかがみ)」に。

そしてそれぞれに力を宿す。

朧提灯(おぼろちょうちん)提灯(ちょうちん)から煙を吐き人に幻影(げんえい)を見せ惑わせる。朧鏡(おぼろかがみ)が真実を鏡に写し人に見せる。そう、必ず対になっている。

だが、理由は後に話すとして朧鏡(おぼろかがみ)は一人しかいない。

皆朧提灯(おぼろちょうちん)へと転生を果たしていた。



私は昔、朧提灯(おぼろちょうちん)の長である黒百合(くろゆり)様にある話を聞いたことがある。黒百合様は憑き人が生まれた時から居られるお方でなんでも知っている。

その黒百合様の話を聞いたのは黒百合様が地下にこもったある昼のことだった。

黒百合様は時期が来ると力を制御するために地下にこもる時がある。その地下への道は黒百合様が認めたものしか通れないようにからくりや妖術を仕掛けており、普通の人がその道を歩けば高確率で死ぬだろう。

私はその認められている一人…次期当主であり朧提灯の副長を務めいた。

そんな私は定期的に水が入った桶を持って地下牢にいる黒百合様の所に出入りしている。

地下への道の扉は引き戸で、ゆっくりと開けるとギギギと不可解な音を出し城の歴史を感じさせる。

一歩中に入ると酸っぱいような甘いようななんとも言えない臭いに目が染みる。

いつもの臭いなのにこの臭いは慣れようとしても慣れない。

消毒を兼ねて持っている桶の中の水に手を浸し水を床に軽く撒く。

するとスッと臭いが消える。

この臭いは黒百合様の提灯から発せられる煙から出ているもので、長時間嗅ぎ続けると禁断症状が出て動けなくなる。

これは餌を捕らえるための蜘蛛の巣のようなものだが、水をかけると人が蜘蛛の巣を木の枝に絡めて取るように水の中に煙は閉じ込められる。

これを知っているのは私だけだ。

私は後ろの戸を閉めると暗闇に取り残される。数歩前に歩けばその先は石階段。懐にしまっていた自分の提灯と黒色の蝋燭(ろうそく)、火打石を取り出すと提灯を組み立て蝋燭に火打石で火をつける。火がついた蝋燭を組み立てた提灯の中に入れ、明かりを確保した。

提灯を脇に抱えると摺り足で前に進む。

ギィギィと古めかしい床が私の重みで音を立てる。今にも抜け落ちそうで気が気では無い。

暫く歩くと灰色の石階段が見えてきた。階段は急な作りで一歩間違えれば先の見えぬ底へと転げ落ちる。

何度そこで首が折れた生まれたての同胞の死体を見ただろうか…覚えていないほど昔の事で記憶が曖昧だった。

私はゆっくりとその果てしない階段を降りる。手元に手すりなんて親切なものはない。一歩踏み出せば両側はゴツゴツとした荒削りな石の壁。

よろめいて壁に手をつくだけで柔らかい手のひらはズタズタに切り裂かれる。

不気味なほど静かなその階段を黙々と降りて行く。どのぐらいの時間が経ったのだろうか。

後ろを振り向けば果てしない闇が私を飲み込もうと身を潜めて、前を向けば闇がおいでと手招きしているようでごくりと唾を飲み込んだ。

いつ来ても恐ろしい所だと思いながら終わりの見えない階段をゆっくりと降りていく。


やっと地面が見えたのはへとへとになってからだった。

何度足を踏み外しかけただろうか、何度よろめいて壁に手を付こうとしたのだろうか。

考えるだけでゾッとした。

私は深く息を吸い吐くと細いその通路をまた黙々と進む。

途中曲がり角があり、右へ左へと進路を変える。

私の摺り足の音と桶の中の水の音と、提灯の金具の音だけが通路に響く。

そして地下牢がある部屋の戸の前に来たのは出入口から1時間経った後だった。

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