魔物と勇者(魔物視点)
目の前でついさっき話していた同僚の首が飛ぶ。
一瞬の出来事。
それは、本当に瞬きをするように不自然なく転がり落ち、そこにあるはずのそれが無い体は血を吹き出しながら倒れる。
「…は?」
自体がうまく飲み込めない。
一体何が起こったのか、どうしてそうなったのか分からない。
ただそこには同僚の首と首のない胴体が転がっている他に、見覚えのある防具を身につけた人間が満面の笑みで剣を担いでいた。
「やぁ、さっきぶりですね魔物くん」
茶髪の人間がぽかんとしている全体的に緑色の、顔面に赤い布を覆わせている魔物に話しかける。
魔物はゆっくりと相手の顔をみて驚いたように布のしたがの目を見開き、固まる。
茶髪の人間は楽しげに痛いほど口角を上げるとその善人顔で倒れている魔物の同僚を見てまた目の前の魔物を見据える。
「忘れましたか?私ですよ。『勇者』です。貴方の良き友『勇者オリオン』ですよ」
魔物はその名を聞くとガチガチと震え、勇者オリオンと名乗った茶髪の人間を見る。
「キ…サマ、謀ったな?!」
「謀ったも何も最初からずっと貴方を騙していました。すみません」
震えながら睨む魔物に申し訳なさそうに頭を下げる勇者オリオンの顔は、先にも言ったように満面の笑み。
これから大好きな食べ物を食べようとしている子どものように無邪気で無垢な笑顔。
勇者は数日前、どの魔物よりも友好的な魔物に近づき魔王城の詳細を探っていた。
運良く魔王に仕える魔物に遭遇し、更にはその魔物が人間と仲良くなりたいと考えているのを知り利用しようと思い立った。
…そしてその魔物から洗いざらい魔王城のことや魔王のことを聞き今に至る。
そう、今まさに魔王城の中庭にいるのだ。
「そんな…何故」
「何故?それは皆が望んでいるからです。魔物の存在、未知の生物の存在。それは人間の生活を脅かす異物。異物を取り除くのを世界は望んでいるのです。魔物と人間が分かり合える?そんな綺麗事がまかり通る世の中ではありません。都合の悪いものは消す。それが私達人間です。魔物も同じでしょう?都合が悪くなったら逃げる、怒鳴り散らす、暴力を振るう…それと同じことなのです。そうすることで世界は回っている」
勇者は笑顔でペラペラと言う。
薄く開かれている瞼から除く黒色の瞳には光が見えない。
勇者否一人ぼっちの青年は続ける。
「だから私達は直せることの出来ないこの醜い姿まま生きていくのです。利用され、騙され、絶望し、涙を流し復讐に囚われる…それが生きゆく全ての者の運命なのです」