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第12章 最終決戦(前編)

1.


『作戦開始まで、あと3分。あおぞら隊、スタンバイ』

 あらかじめ付けておいた携帯無線から、支部長の声が流れてきた。隼人は、ゆっくりと眼を開ける。

 乗り込んでいた鷹取家の兵員輸送トラックの荷台から外に飛び出すと、隣のトラックからは優菜が降り立ったところだった。ふと、彼女と視線が合う。

「隼人――」

 先を越された。

「死ぬなよ」

「お前こそ」

 不敵に笑い合って、戦場へと歩き出す。後ろに、続々と降り立って歩き出す仲間たちの足音が聞こえる。

「ねーねー」と相変わらずなるいが追い越してきて、くるっと後ろ向きに歩き始めた。

「せっかくだからさぁ、やろーよ」

「「何を?」」

 真紀と美紀が追い付いてきた。左右に並んでくるその瞳は、笑っている。

「全員で横一列に並んでさ――」

「「10人11脚?」」

「そ! 目指せ全国大会――って違う!」

 ノリツッコミがきれいに決まったところへ、小森が爆笑しながら追い付いてきた。

「キミら3人の組み合わせは最悪だな。緊張感っちゅうもんが無いのかね」

「「それもこれもみーんな隼人君のせいやで」」

「あーはいはい俺がみんな悪いですよ」

「そうですね」

 背後霊のごとくささやき声で断言するのは、祐希だ。万梨亜がその横から肘で突く気配がする。

「祐希ちゃん、隼人先輩にはもうちょっと素直になったほうがいいと思うな、あたし」

「そうですね」

 全女子の注目を集める中、背後霊は心からの言葉を隼人の背中に投げつけてきた。

「早く死んでください。人類の敵なんだから」

「……たった半年で、しがない男子学生だった俺は、人類の敵に成り上がったのであった」

「ちょ! 京子ちゃん! 今の口調、すっごい似てた!」

 いやあそれほどでも、と謙遜する京子にみんな感心しきりだ。隼人を除いて。

「誰一人、祐希ちゃんの言葉を否定しないのはなぜ?」

「大丈夫よ」

 そう言いながら理佐が真紀を押しのけて横に並ぼうとして、紅夜叉丸Ver.Kに弾き返された。むくれ顔で仕方なく、その外に回りながら、

「隼人君は、私が護るから」

「違うよ、理佐ちゃん」

 隼人は歩みを止めぬまま、徐々に見え始めた大型ターフを指さした。

「護るんじゃない、倒すんだ。今夜こそ、けりを付けよう。俺たちみんなのために。死んでいった仲間たちのために」

 祐希たち北支部の面々が息を飲む音が聞こえる。そして、さっそく混ぜっ返す声も。

「まったく、あんたはそういう決め台詞だけはイッチョマエなんだから」

「――と、自称・隼人を日本一理解している女が申しております」

 千早が圭をにらむ。

「日本一なんて言ってない!」

「あーあーそーだね、レーヌが死んだとき、『みんななんにも分かってない!』とか言ってサメザメと泣いてただけだねー」

「チハヤっち、それはなに? 出戻りフラグ?」

 結果的に、隼人と千早のコメントはハモった。

「それは無いから」

 びくんと痙攣する理佐を敢えて見ないようにして、隼人は背後から聞こえる音源に声をかけた。

「メ モ る な」

「いえいえ、大変興味深いお話でした」

 振り向けばいつの間にやら、琴音と鈴香、美玖、そしてもう一人小学生らしき女の子が追いついてきていた。

「その子は?」

「あ、初めまして! 海原霧乃うなばら きりのと申します!」

 美玖の相方であると説明を受けた。どういう意味か詳細を尋ねたかったが、

『日没まで、あと10秒、9、8……』

 とカウントダウンが始まる。白水晶を取り出していると、

(ねねね、あの人が美玖ちゃんの言ってた――)

(そ、10年後の人なの、きゃー)

……今度はまた別の壮大な勘違いが生まれつつある気がするが、誤解を解く時間は無く、かの小学2年生がすっかり忘れるだけの期間はある。

『……3、2、1、作戦開始』

 あおぞらの仲間たちが放った掛け声は、るい以外声が一になった。

「変身!」

 これだけの人数が一度に変身するというのは、きっと壮観だろうな。当事者の隼人としては、外側から見物できないのが残念だ。

 そして、見物人は当然のことながら大騒ぎだ。具体的には小学生の2人だが。

「ふぉぉぉぉぉほんとに変身した!」

「ね! 魔法少女だよ霧乃ちゃん!」

「いや、全員18歳以上なんだが――「子供の夢を壊すなっちゅうの」

 また千早に怒られた。

 一方、大人の見物人は違う感慨を抱いた様子。

「……ほんとに女の子になっちゃった」

「あの、隼人さん? それ――」

「なに?」

「詰め物じゃないんですよね?」

「ああ、俺も始めて変身した時は疑って、思いっきり掴んでみたよ」

 支部長の切迫した声が、イヤフォンから流れてきた。

『敵が来たわよ! 戦闘体制に入って!』

「意外と反応が早いですね」と鈴香が彼方を見やる。

「そりゃ、こんなド派手にピカピカ変身したら、ばれるばれる」とアクアが笑う。

 敵は4人、いずれも鳥人バルディオールだ。想定人数より少ないと思ったのも束の間、着陸した敵はいずれもオーガを召喚した。その数、17体。

『アクア、現場指揮よろしく』「あーい」

 鷹取家の3人が一瞬ぎょっとした顔を見せた。霧乃はぽかんとしているが、

(そりゃそうだよな、昨日からの言動見てりゃな)

「ブランシュ、グリーン、プロテス、ゼフテロスは前衛。

 ルージュはヘビ作りに専念して、バルディオールを拘束。イエローはそいつを叩いて。

 アンバー、トゥオーノは全体の援護。鷹取の人たちに電撃当てないように。

 ロートとアスールは一番でっかいスキル溜めて、発動5秒前にアクアに教えて。できれば2人でかぶらないように。

 さ、ブラック――」

 各自が了解を返し、鷹取の巫女たちが目を丸くしている。ブラックは莞爾と笑った。自分の割り振りは、もう決まっている。

「みんなを護って」

「了解」

 ブラックがうなずいたと同時に、アクアの白水晶が輝いた。光は黒雲を形成し、たちまち沸き立って50メートルほど向こうに陣取ったオーガたちの上空を覆う。

「カーペット・ボミング!」

 豪雨、それもかなり勢いを付けた水滴が敵をあまねく襲い、外れた水滴が地面をうがつ。

「さあ、行くわよ!」

 ブランシュが氷槍を一旋回させると、先頭切って走り出した。遅れじと質量操作系の3人が続く。ブラックも目一杯突っ走ってブランシュを追い越し、

「プリズム・ウォール!」

 できるだけ広く光壁を作って、飛んできた光弾と相殺させた!

 その残骸を乗り越えて、前衛担当たちがオーガの群れに殴りこんでいく。後方からの月輪が唸りをあげ、左右に展開した電撃系の支援攻撃が始まる。

 最終決戦が幕を開けた。



2.


 一方、エンデュミオールたちが目標とする大型ターフの中では、地にうがった穴に取り付けた例の装置にはまったニコラが時を計っていた。

 倉庫街のそれとは段違いのエネルギーが、体内に流れ込んでくる。

「くくく、あの男、いけ好かない奴だったが……」

 男とは、故・利次ことバルディオール・フレイム。彼が送ってきた最初のレポートに、ここが地脈の中でも特に膨大なエネルギーが流れている『龍脈』の、しかも最大最高の噴出孔であること、ゆえに情報の秘匿のため、以後のレポートには記載しない旨の処置がとられていたのだ。

 ふと、上着のポケットに入れてある黒水晶を取り出す。昨日の襲撃の際、辺り一体を更地にするためにスキルを最大出力で放ったことにより、数日は威力が激減してしまう。そのことがいささか気がかりではあった。

 だが、とニコラは笑う。黒水晶の力が減じられていようとも、鳥人本来の力とこの地脈のエネルギーを加えれば、いま周りに群がっている虫けらどもなど、鎧袖一触だ。

「それに、これもある」

 上着の反対のポケット。その中で妖しく光っているであろう、愚者の石。

 笑いが止まらない。止まらない笑いは、ますます彼の体内を巡るエネルギーの奔流の賜物だろう。

 だが、哄笑しながら突っ立っているのも、そろそろ飽きた。

 ゆえに彼は、時を計る。

 真打登場の、その瞬間を。



3.


 西東京支部長は泣きそうだった。

 作戦は、敵の頑強な抵抗を少しずつ排除しながら、当方有利に進んでいる。今のところ、味方の損害はゼロ。それは、横田の提案の賜物だ。

『横浜支部のフロントスタッフのうち、治癒スキルを持つ人を呼んで、各部隊に付けましょう』

 各部隊から上がってくる報告のうち、治癒に関するものが多い。それだけ鷹取の巫女たちが攻勢に出ているということなのだろう。

 泣きたいポイントは、そこじゃない。

「支部長――」

 来た。

「A班の休息、B班の補充、どうされますか?」

 ほぼ1分に1回、決断を促す言葉が飛んで来るのだ。それら全てに決断を下し、迷ったら即、左斜め後ろに控えている主任参謀に意見を求める。

「A班は動きが鈍っています。C班と交代させるべきかと。B班はその場で保持。D班の休息が終わり次第合流させ、攻勢に出るべきかと思います」

 これを立て板に水でアドバイスされるのだ。わざと逆らって別の指示を出せるほど、支部長はワルでも戦上手でもない。

 泣きそうになりながら、しかし陪席するアンヌとソフィー――彼女たちも参謀部スタッフの仕儀に目を回している様子――の前で涙を見せるのも癪なので、支部長は指示を出し終えて、心の中で叫ぶ。

(会長! どこ行ったんですか!)

 会長は鷹取屋敷への訪問を終えて別れて以来、雲隠れしてしまったのだ。

「支部長――」

 また来た。

 全てが終わったら、2ヶ月くらい休暇をとって旅行に行く。行くんだ。

 支部長は血走った眼で戦況を示すスクリーンをにらみつけたまま、参謀部スタッフの言葉を受け付けた。



4.


 沙耶は独り、更地にされた一帯に点在するビルの残骸の頂上に立って、戦況を眺めていた。それだけではなく、所持してきたタブレットを時折眺めては、ここからは見えない戦域の状況を把握して指示を出していた。

 彼女の立場は、実は奇妙なものである。

 全体の指揮官は西東京支部長だ。

 北東と西から攻め込んでいる鷹取勢の指揮は、本来現場で指揮を取るはずだった鷹取の総領と海原本家の当主が沙耶に呼ばれたため、代理が執っている。

 あおぞら隊の現場指揮は、あのあっけらかんとした青髪。なかなか的確な指示と、自身が繰り出す効果的なスキルによって、戦域の趨勢を支配しつつある。

 だが、もっとも膠着しているのはこの戦域だろう。なぜなら鳥人には通じる説得が、オーガには通じない。押さえつけて降伏を説けば、鳥人は観念する。オーガはしない。その違いが、この戦況の違いを生んでいるのだ。

 ゆえに無任所とでもいうべき沙耶は、いま見下ろしている戦域を援護すべきなのかもしれない。先の作戦会議での発言に偽りはなく、鷹取の巫女ではニコラの電撃はかわせないのだから。

 そんなことを考え始めた沙耶の視界が、突然白くなった。とっさに手で眼をかばう。光が収まるのを待って眺め直した遥かなる大型ターフは、弾け飛んでいた!

「あらあら」

 自然と口を突いて出たのは、呆れと侮蔑。その理由は、ターフが立っていたところに屹立し、いやそれだけではなく身を巨大化させ始めたうるわしき摂政閣下の姿を眼にしたからである。

「細胞を地脈のエネルギーで増殖させて膨れ上がってる。そんなところかしらね……」

 その維持も、あの埋まったままの足から取り込み続けているエネルギー頼りというところか。

 沙耶は、感想をつぶやかずにはいられなかった。

「つまらん」

 独裁者が建てたがる、巨大な全身像。そのセルフ版としか思えない。

 その時、イヤフォンに通信が入った。主任参謀からだ。

『沙耶様、日仏両政府の協議結果が送られてまいりました。転送いたします』

 タブレットの画面を眺めて、沙耶は速断した。

「たずなさん、ニコラさんのところにこれをお伝えしに行ってきます」

『お気をつけて』

 その気遣いに返答して、思わず笑みがこぼれる。それを口にしたたずなの表情も。恐らくあの、男性全般にはたまらない柔らかく蕩けるような笑みではなく、年上の友人としての心配性が表れたそれのはずだ。

 沙耶が心配されるべきは、ただ疫病神と対峙した時だけだというのに。

 残骸の先端を蹴って、沙耶は飛び降りた。羽衣を足下に展開して、ふわりと着地。足早に目的地を目指した。

 エンデュミオールたちの援護という、所要の目的も果たすために。



5.


 ブラックの繰り出した光剣の斬撃を受けて、よろめくオーガ。そこへ突光が飛来して、腹を貫かれたオーガは地に伏した。

「サンキュー、霧乃ちゃん」

 しかしまあ、この子も可愛いな。ブラックはスライスアローを乱れ打ちしてオーガを襲いながら思う。『美人の家系』ってとっさに思いついて言ってみたけど、ビンゴだな、多分。

 それに比べて、

「なんつー醜悪な……」

 彼方の巨大ニコラのことだ。

 いわゆる鳥人バルディオール形態。黒水晶もコスチュームも、どういう理屈か同様に巨大化している。いやビリビリ破れて全裸になられても困るんだけどな。

 アンヌの鳥人体はまだ見たことがないが、ソフィーそのほかの鳥人としての姿かたちについては、敵ながら美しい。それが隼人たちの共通見解だった。なるほど天使を自称したくなるのも分からなくはない。理佐などはそう言って溜め息をついたものだ。

 だが、こやつは違う。なんというか、膨れているのだ。見かけ上の図体だけではなく。

 同時に、恐れも感じる、強大な力を持つこの敵を倒さねばならないのだから。

「ちょっとごめんなさいね」

 緊迫の戦場に似つかわしくないお断りが、後ろからやってきた。振り返るまでもなく、沙耶だ。ブラックをちらとだけ見て、そのまま横を通り過ぎていく。……通り過ぎて?

「ちょ、ちょっと!?」

 ブラックたちが次々に上げた制止の声に頓着せず、すたすたと歩いていく沙耶。ちょっと通るわねー、なんて言いつつ、さながら雑踏の中を急ぐ人のよう。

 だが、ここは雑踏ではない。そのことを沙耶に思い出させるべく、オーガが2体立ち塞がったのだが、

「はいどいてねー」

 沙耶が振り上げた足に出現したのは、薄赤い半透明の光。幅1メートルほどの壁状に展開したそれが、オーガ2体を下からすくい上げるように襲い、粉砕してしまった。

「……ほんとにダンプみたいな人だな」

「ダンプってか、装甲ブルドーザだねあれ」

「圧倒的過ぎて泣けてくるというか、笑えてくるというか……」

 ブラックたちの呆れ交じりの会話をあとにして、沙耶はついに鳥人バルディオールたちの布陣する場所まで至った。

「ニコラさんに、日仏両政府の協議結果を伝達に来たの。通してちょうだい」

「黙れ!」

 それが、ニコラ直属の配下の返答だった。

「通せといわれて、はいそうですかと通せるか! 我らの複合防御スキルを舐めるな!」

「なにもこっちに付き合って、日本語で会話することないと思うんやけど」

「律儀な人なんちゃう?」

 オーガの攻撃をかわしながら、イエローとグリーンがだべっている。余裕っぽい2人は放っておいて、短い悲鳴を上げた鈴香に追い討ちをかけようとするオーガにラディウス光線を叩き込んで追い払った。

 感謝の言葉を受けるのもそこそこに、治癒を施してやる。

(この子、分家の当主なんだよな?)

 まだ2回しか戦うところを見ていないが、美玖や霧乃と同程度の戦闘力のように感じる。『鷹取の人間として育っていない』とか言ってたし、どうも複雑な事情がある気がするのだ。いずれ教えてもらえるのだろうか。

 向こうでブランシュが足に負傷している。そこへ駆けつけようと足を速めたブラックの視界の端に、鳥人バルディオールたちの黒水晶が光るのが映った。素早い展開で炎、水、雷、そして氷。それぞれが層をなし、分厚い壁が沙耶の前に出現した。

「複合っつーか、寄せ集め?」

 ロートがその壁を、小手をかざして眺めて言う。トゥオーノがその横で考え込む姿勢をとった。オーガの数も今は半減し、余裕が出てきている。

「でも、一応理には適ってません? 炎って近づくだけでも大変だし――」

 確かに、その炎を突破すると、次は遠めに見ても渦巻く水流に揉まれ、そこを抜けた先には雷がびしょ濡れのままの敵の行く手を阻む。硬質な攻撃は炎と水流で勢いを減じたあと、最後部の氷壁が受け止める。そういう仕掛けなのだろう。

 これも鴻池が言っていた『攻勢防御』というものなのだろうか。

 夕方の説明では、自然現象由来のものは羽衣で防げないとのことだった。とすれば、沙耶は一列目の炎が発する熱すら潜り抜けられないことになる。

 俺たちなら、どうする。

 壁1枚ずつに対抗する系統のスキルを浴びせていくのが順当なやり方だろう、とブラックは思案した。炎には氷、水には炎、雷には対抗するスキルがないから炎でその次の氷壁を攻撃しがてら吹き飛ばして――

 ブラックの思案は、轟音と悲鳴で中断を余儀なくされた。沙耶が複合防御壁を攻撃したのだ。裏拳で。

 左手を右に伸ばして、大きく一気に左に振り切る。モーションは実にシンプル。そして攻撃手段も、左手を中心に展開した"壁"という、これまたシンプルなものだった。

 高さ2メートル、幅はその倍以上。沙耶自身の身体がすっぽり入ってしまいそうな厚みからして、固体としか思えない紅い光の壁。それが横薙ぎに複合防御壁を襲い、炎を、水流を、雷を、氷を、全て薙ぎ払ってしまったのだ……!

 横撃は、複合防御壁を難なく一掃されて驚愕する鳥人バルディオールたちにも叩きつけられ、4人とも地に伏して弱々しくうめくのみ。その傍らを通過する時、沙耶は立ち止まって、笑み崩れた顔でうやうやしくお言葉を下した。

「無駄な努力、ごくろうさま」

 言葉での追い討ちが精神的な致命打となり、敵の身体を淡い光が包んでいく。

「……アクアの20秒を返してほしいなぁ」

「奇遇だな、俺もだ」

 現場指揮官たるアクアも、複合防御壁の攻略法を考えていたのだろう。嘆く彼女たちの周囲にいたオーガたちも、召喚主の強制変身解除で消えていった。



 沙耶が防御壁をあっさりと薙ぎ払うさまを、会長はビルの残骸に隠れて見つめていた。

「すごい……あれが当代の御剣鬼の巫女……」

 沙耶が不祥事の罰としてその銘を剥奪されたことを、彼女は知らない。

 鳥人バルディオールたちに何か話しかけて、それからまた歩みを再会する沙耶。その後を追おうとして、会長は思いとどまった。

 ニコラにはうかつに近づけない。ここに来て、その思いが強くなった。あの膨れ上がったニコラから、感じるのだ。

 愚者の石の波動を。彼女を呼ぶ、あの人の思念を。

 だから、近づけない。会長はそれでも、少しだけならと、そろりと移動を開始した。

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