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ドッペルゲンガーに会いました

作者: 真灯出愼

 僕は小学校の時に一度、自分のドッペルゲンガーに会ったことがある。自分のドッペルゲンガーに会うと死ぬと言うのは嘘だ。こうして今も生きている。


 あれは小学校からの帰り道だった。ふと前に僕が現れた。ぼくの前に僕が居る。話しかけても何も答えない。ただジッとこちらを見ていた。

 ドッペルゲンガーという言葉を知らなかったあの頃は、不気味な空気だけを感じてその場から逃げた。振り向くとドッペルゲンガーは居なかった。


「なんだったんだ」


 帰ってから親に事情を説明すると親は顔をしかめた。そして何度も“忘れなさい”と言われた。


“忘れなさい”


 僕の心の中でこの言葉と入れ替えにドッペルゲンガーとの出会いは心の奥底へと消えた。


 高校生になった僕はドッペルゲンガーの存在など全く気にもしていたなかった。するとクラスメイトから声をかけられた。


「おはよう!」

「お、おはよう」

「良かった。今日は返してくれた。俺嫌われてるのかと思ったわ」


 普段特に仲良くしている訳ではないが、別に嫌いな訳ではない。挨拶されれば普通に返す。


「どういう意味?」

「昨日、学校に上がる坂の下で突っ立ってたろ? 何してるんだろって思いながら“おはよう”って声をかけたのに無視されたから」

「坂の下? いや、俺は裏門方面だから坂の下には行かないよ?」

「何言ってるんだよ。みんな見たよな?」

「ああ。坂の下に居るなんて珍しいなって言ってたんだよ」

「もしかしてドッペルゲンガーじゃね?」

「えー! あれドッペルゲンガー!? 嘘だろ? 怖ぇよ」


 ドッペルゲンガー。一気に寒気がした。


「俺、会ったことある。そいつに」

「え? マジかよ。いつ?」

「今の今まで忘れてた。小学校の頃、帰り道でドッペルゲンガーに会った」

「自分のドッペルゲンガーに会うと死ぬって言われてるんだぜ? お前、そんな昔に会ってるのにまだ生きてるってすげーな」

「何それ? 自分のドッペルゲンガーに会うと死ぬ? そんな都市伝説信じるかよ」

「またそいつが再び現れたなら気をつけろよ」

「ああ、不気味だから出来れば会いたくないね」


 それから学校内でも僕のドッペルゲンガーを見たという目撃者が増える一方だった。そして僕もその目撃者の1人になった。


「あ…」


 ドッペルゲンガーは僕に気付いて振り向いた。


「ミツケタ」

「え?」


 どんどんこちらに歩いてくる。

 ――ドッペルゲンガーは会話をしないはずじゃ……。

 僕は足が固まって動けなかった。そして目の前までドッペルゲンガーが来た。


「ミツケタ」

「僕を探してたの?」

「カエシテ」

「返す? 何を?」

「ボクノカラダヲ!」


 そんな会話をしたと思う。気がつくとドッペルゲンガーは消えていた。僕は廊下に突っ立ったまま、ただ呆然としていた。


「おい、そこで何をしているんだ? 授業が始まるぞ」

「あ、はい」


 またドッペルゲンガーに会った。“自分のドッペルゲンガーに会うと死ぬ”僕は死ぬのか? いや、なぜそんな事で死ななければならないんだ。死んでたまるか! そう思い直した。


 あれから僕のドッペルゲンガーを見たという人は居なくなった。気が済んで消えてくれたならそれでいい。また “忘れよう”


 僕は社会人になってごく普通のサラリーマンになった。営業マンとして成績を上げていた。営業先では仲良くさせてもらっている。仕事以外の話もする仲だ。


 ある日、とある営業先の担当者さんがあの言葉を言ってきた。


「この前、あそこの喫茶店の前で立ってたでしょ? 向かいの道路から声をかけながら手を振ったんだけど、全然気付いてなかったわね」

「喫茶店? どこの?」

「ほらあそこよ」


 そう言って向かいの道路の喫茶店を指差した。あんなところに喫茶店があるのも知らないし、そんな場所で突っ立ってた記憶もない。またあいつか。


「ああ、それ僕じゃないですよ」

「何言ってるの。絶対あなたよ。見間違えるわけがない」

「それは僕のドッペルゲンガーなんです」

「ドッペルゲンガー? あはは、面白いことを言い出す」

「いやいや、本気なんですよ。昔からよく言われるんですよ」

「本当にドッペルゲンガー?」

「はい。今度無反応だったらドッペルゲンガーと思って下さい」


 そんな会話を色んな営業先でしていると、会社に変な噂が立った。


「あいつか。ドッペルゲンガーとか言ってるのは」

「実はドッペルゲンガーだったりして」


 僕自身もドッペルゲンガーと言われるようになり、どんどん変な目で見られるようになっていた。営業成績も伸び悩み、苦しい状況だった。


 ――ドッペルゲンガー! 俺の前に出て来い! 周りから攻めて俺を貶めるつもりだろ!


 ドッペルゲンガーが目の前に現れた。代われと言わんばかりにジッとこちらを見てくる。


 今ここでケリをつけよう。この身体、取ったものがこの先自由に使えばいい。その代わり、取れなければ二度と表に出て来るな。


 僕は多分、分かっていた。小学校から高校までの間、ドッペルゲンガーに身体を奪われていたのだ。やっとの思いで身体を取り戻したのに、ドッペルゲンガーのせいで人生を壊される。だったらここでどちらが僕なのかを決めればいい。


 意識が遠退き、気がつくと会社の休憩室で眠っていた。外で少し新鮮な空気を吸おうとオフィスを出た。

 ――そうだ。営業先へ行って、もうドッペルゲンガーの存在は気にしなくていいと伝えに行こう。

 そのまま営業先に向かった。


ドンッ!!


 僕は即死だった。信号無視をしてきた車にはねられたのだ。

 当たる瞬間、運転席に座っていたの人の顔を僕ははっきり見た。僕のドッペルゲンガーだった。


 また、ドッペルゲンガーに会いました。

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