1000年前の携帯電話
メール、チャット、掲示板、インターネットの普及により人類の口数は徐々に少なくなっていった。学校では休み時間になると、皆で好きな話題を話し合ったり、ゲームなどの話や遊ぶ話などをしている光景が普通だったが、いつの間にか一人残らず携帯を触ってほとんど会話をする人がいなくなってきていた。家の中にいるのにお互いメールで会話をしたり、食事中に話をする事も徐々に無くなってきた。
技術の発達により、移動するにもほとんど自力で歩く機会が少なくなった。自分の足は、車や電車やバスになり、階段もエレベーターやエスカレーターを使う為、自分の足は機械に頼るようになった。会話をするときも、メールやチャットを使うようになり、直接声を出す機会も減ってきた。
31世紀の現代は、一歩外に出ると、空を飛ぶ自動車、飛行機、宇宙船、リニアなどが走る機械音が鳴り響いている。身近に居た猫や犬や鳥などもかなり減り、聞こえるのは機械の音がほとんどとなってしまった。そして移動手段がほとんど空のため、地面を歩く人が少なくなった。その為星空もほとんど見えなくなり、月と太陽くらいしかほとんど見えなくなっていた。そして市街地にいくと、大量の文字が空間に浮かびあがっている。
「今回の企画ですが・・・」
「こちらの商品はですね・・・」
31世紀の現代では、脳内にインターネットの回線が組み込まれており、会話をすると、身につけている腕時計やメガネなどから自分の頭の上などの空間に文字が表示されるようになっている。この空間に表示させる文字は、大きく3種類があり、プライベートモード、ワークモード、ピーパーモードがある。
プライベートモードは、特定の人物のみが見える文字であり、ワークモードは、仕事や、会議などで、関係がある人にだけ見える文字である。ピーパーモードは演説など、不特定多数に見える文字である。文字の色はその時の視界の明るさや色で自動的に色が変わり、大きさなどはモードによって違う。モードの切り替えは身につけている腕時計や、メガネから操作して変更する。
遠い所にいる人と連絡をとるには、腕時計などから、個人に付けられた、マイナンバーとは別に、連絡専用の番号を入力し、相手にその文字を表示させることで連絡を取る。つまりテレパシーに近いものだ。脳内にネットが接続されているので、自分の意思で自由に回線を切ったりすることが出来るため、人に見られたくない文字は表示させないようにすることも出来る。
パソコンは卓球のピンポン玉くらいの大きさの四角形の箱でそこから映像や文字などを空間に表示させて、操作している。回線は自分自信が回線のため、アドレスの設定や契約の必要はなく、生まれた時に組み込まれるのでその時に料金を支払っているので、そのままで良い。法律により定められていて、出産後3ヶ月に脳にネットなどの回線を組み込む。チップは砂粒ほどのサイズで、永久的に使用できるので、交換の必要はない。人類の数も180億人になっており、平均寿命も103歳になったため、エネルギー不足を解決させるために、人類は火星と月にも住み着くようになった。地球に50億人、月に10億人、火星に120億人の人類が住んでいる。独立国家の数も3つの星を合わせると500ヶ国に及ぶ。
火星に移動する時も、西暦2100年までは火星に行くまでに半年もかかっていたが、西暦3016年の31世紀の現在では2週間程度で行けるようになった。月にもわずか12時間で行けるようになった。月に行く便は一人3万円、火星の便は10万円である。
現在では地球以外の宇宙人との連絡も宇宙機関などの組織がやり取りを行っている。西暦2900年に、初めて地球外生命体との通信に成功していて、オリオン座のベテルギウスの付近にある惑星からであった。地球から光でおよそ500年かかる距離なので、発信して返信がくるまでにおよそ1000年の月日がかかる。1900年代に宇宙人に向けてメッセージを送信した結果、ベテルギウスの付近にある惑星が500年後の2400年に受信して、地球に向けて返信して、さらに500年後の2900年に宇宙機関がそれをキャッチしたのだ。人類史上最大の出来事である。
3016年12月30日…年末年始で火星や月から地球へ帰省するラッシュが起きている為、地球と火星の間で渋滞が起きていた。そんな中、火星住民の一人がある画像のデータを保存して、地球に戻ってきた。
火星と地球では時間と日付が違うため、時差ボケがとてつもなく激しい。なんせ火星の1年は地球のおよそ1年9ヶ月分に相当し、1日の長さも若干地球より長い。
「ただいまー」
と、目の前に文字が表示された。それを見て娘が帰ってきたと分かる。
「火星には慣れた?」
「最初は1日が長くて大変だったけど、今はもう慣れたよ。あとね、火星に行くと地球より年を取るスピードが遅くなるんだ。」
「まあ火星は1ヶ月が55日まであるからね。今火星は55日なの?」
「うん、今火星は12月55日で年末だよ。」
という文字がお互いの頭上に表示されている。そして娘は一つの画像を頭の上に表示させた。
「これは何?」
「知らないの、大昔はこれで連絡してたんだよ。」
「もしかして、通信道具?」
「そうだよ、スマートフォンて名前。」
「どうやって使ってたのかしら。」
「ここに耳をあてて連絡をとったり、ラインとかメールとかで文字を直接手で入力してたの。」
「面倒くさかったんだね。」
「うん、だって21世紀のやつだもん、1000年くらい前。」
「でも耳にあてて連絡をとるのがいまいち分からないな。」
「大学の教授が当時のスマートフォンを使っている動画を見つけてね、地球に帰る時にくれたからまだ見てないの。だから画面を大きくして再生してみるね。」
娘は動画を再生した。するとそこには口をパクパクさせているだけの動画だった。
「なにこれ、なにか食べてるの?」
「ちょっと待って、音をだす端末を持ってくる。」
この時代では、スピーカーがあまり使われていなく、会話する必要が無いため、いらないのだ。なのであまりスピーカーを持ち歩く人は少ない。
娘はスピーカーを無線で接続して動画を再び再生した。
「もしもしー今日空いてる?」
「うん空いてるよ、何時にする。」
「そうだね・・・」
これを聞いた二人はもの凄く驚いていた。口から何か複雑な音を出して、スマホに耳をあてていたのだ。
「もしかして私が小学生の時歴史で習った、昔の人類は口から音を発声して連絡していたってやつ?」
「嘘だと思ってた。本当に人間の口から音が出てる。」
娘は真似をしようとして音を出そうとしたが息の音しか出ない。人類は全く喋らなくなったので、いつの間にか喋らない人が多くなってきて、いつの間にか2900年後半には、喋る人がいなくなっていた。もちろん、叫んだりの声はかろうじて出るが、31世紀の現在では、声帯がさらに退化し、叫び声が出る人と出ない人がいるのだ。声を出す、喋るという概念、人類が生み出した大きな能力を失いかけていたのだ。
あらゆる物が開発され、便利な時代となり、人類はどこまでも便利さを求めてきた。それはもの凄く大きな物を犠牲にしているという事にこの時代の人類はまだ気が付いていなかったのだ・・・・。
最後まで見ていただきありがとうございました。