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言霊とは?

 玉座の間まで案内された優斗は、王と対面した。

 玉座に座る王は人の良さそうな笑みを湛え優斗を見つめている。

 周りにはズラリと王を護衛する騎士たちが両側に立ち並んでいた。

 入口から玉座まで一直線に続いている赤い絨毯の上で、優斗は膝をついた。


「ワシがこの国の王、ジョン・万次郎じゃ」


 一体何の冗談だろうか。

 真面目に名乗る王の名前に、優斗は一瞬吹き出しそうになる。だが、それを持ち前のポーカーフェイスで乗り切った。

 と言うか、玉座の間に来るまでの間も、おかしいと思う点が何点もあった。

 まずは、廊下に飾られていた額縁だ。

 『炒飯定食』『焼肉定食』『酢豚定食』……etc。ここはどこの中華料理屋だと言わんばかりに、色んな漢字で書かれていた定食の名前が、たいそう立派な額縁に飾られていたのだ。

 そして、そのおかしな点はこの玉座の間にもあった。

 王の後ろに飾られている、恐らくこの国を象徴する国旗なのだろう。その真ん中に馬鹿でかく描かれた『暴飲暴食』『自給自足』の四文字熟語。なんだろう、この国の標語か何かなのだろうか、妙に食にまつわる言葉が多いのは気のせいか。


「この度は、我らの手違いでそなたをこの国へ召喚してしまい、大変申し訳ないことをした」


 王は深々と頭を下げる。

 本来、王とはそう簡単に頭を下げるような者ではない。それが、自分の大勢いる配下の前で頭を下げたのだ。周りの騎士達や大臣達も驚きの顔を浮かべている。そんな王に、優斗は誠意を感じた。


「さて、どこから話せば良いのかのう。大臣」


「ハッ」


 王の傍らに居た大臣と呼ばれた男が返事をする。


「以降は、この国の熟語大臣を務める私、シュベールバッハ・佐々木がお答えしましょう」


 シュベールバッハ・佐々木。さっきから何だ、この日系人のような名前は。

 それよりも気になるのが、この大臣、今自分のことを熟語大臣と名乗ったな。なんだその熟語大臣と言うのは。

 自分が想像していた良くある異世界の世界観と違うことに、優斗は少々混乱する。だが、努めて冷静に振る舞い、周囲の情報と言葉に神経を集中させる。


「まず、この世界には『言霊』と言うものが存在します。言霊とは、言葉に宿ると霊的な力のことです。これが、近年になって実在することが学者の研究によって解明されました」


 唐突に始まった大臣の話だったが、優斗はそのキーワードに聞き覚えがあった。

 言霊……。

 優斗は眉をひそめる。何故なら、つい最近この言葉に興味を持った優斗はネットで意味を調べていたばかりだったからだ。

 ちなみに言霊とは、声に出した言葉が現実の事象に対して何らかの影響を与えると信じられ、良い言葉を発すると良い事が起こり、不吉な言葉を発すると悪いことが起きる、確かそんな意味だったはず。


「事の発端は、異世界からもたらされた一冊の本でした。学者たちが行っていた錬金術の実験の最中に、偶然、異世界に通じるゲートが開かれたのです。その時間は一瞬でしたが、そこから一冊の本が我らの世界にもたされました。どうやらその本は料理にまつわる本だったのですが、我らはその本に不思議な力があることに気がつきました。それが、この呪文です」


 そう言って、熟語大臣は旗に描かれた文字『暴飲暴食』を指差した。


「まずこの熟語ですが、どうやら食欲を促進する効果があるようで、当初この文字を解析していた何人もの学者が物凄く太りました」


 【 暴飲暴食 】ぼういん-ぼうしょく

 度を過ごして飲食すること。

 「暴」は程度がはなはだしい意。「飲」は特に飲酒についていう。


「異世界から持たされた言葉に、言霊と呼ばれる霊的な力があることに気がついた我々は、その本に書かれていた他の言葉も研究を進めましたが、残念ながら他の言葉からは効力は見つかりませんでした」


 大臣の言葉から、優斗は頭の中で分析をする。

 なるほどな、恐らくここへ来る途中に額縁に飾られていたあの言葉か。確かにあれは熟語では無く単なる名称だ。もし、言霊と言う物が大臣の言う通り実在するのであれば、恐らく複数の漢字の意味を組み合わせて作られた『言葉』である四文字熟語で無ければ効力を発揮することはないだろう。


「その後も研究に研究を重ねた我々は、ついに異世界に通じるゲートを生み出す法則に辿りつきました。そして、二回目に異世界にゲートが繋がった時、アナタのような異世界人がこの世界に異世界の言葉と共に召喚されたのです」


 なるほど、さっきの奴らが『また』と言っていたのはこれに繋がる訳だな。前にも俺と同じように異世界に召喚された奴がいると。


「その者は、この呪文が四文字熟語と呼ばれるものであることを我々に教えて下さりました。そして、我らに第二の呪文を教えて下さったのです」


 そう言って、大臣は次に『自給自足』の文字を指差した。


「最初の四文字熟語で、この国に住む者は食欲が促進されました。しかし、食料の消費が激しくなり、食糧に貧してしまったのです。そこにもたらされた第二の四文字熟語。これは、自分で食べ物を作ろうとする意思を強化する言葉でした」


 【 自給自足 】じきゅう-じそく


 必要とする物を他に求めず、すべて自分でまかない、足りるようにすること。自分で自分に供給し、自分の足を使い満たす意から。


「この二つの熟語により、我らの国は健康でかつ食料も自分たちでまかなえる強固な国となったのです。若干、肥満者が多いのがたまに傷ですが……」


 確かに若干太めの人間が多いとは思ってはいたが、なるほど、この言霊の影響だったのか。


「その後も、研究は続きました。新しい言霊を求め、我らは異世界召喚を何度も試みました。ですが、あるとき弊害が起きたのです」

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