プロローグ
少年は困惑していた。
何故なら、さっきまで学校の図書室に居たはずなのに、突然見知らぬ場所に居たからだ。
周りを見渡すと、ローブに身を包んだ魔法使いのような格好をした者たちに囲まれている。
「なんと言う事でしょう、また誤って異世界の人間までこの世界に引き込んでしまいました!」
「引き込んでしまいました、じゃない! 一体、王にはなんて説明するんだ!」
「だからあれほど、召喚範囲には気をつけろと!」
などと、互いに責任の擦り付け合いをしている。
頭の良い少年は、周囲の状況と話している内容だけで瞬時に理解した。
どうやら自分は、現実世界とは違う世界に、誤って召喚されてしまったらしい。
少年の手には、国語辞典、ことわざ辞典が握られている。明日の中間テスト対策に、図書室で物色していた本だ。恐らく、そのさなかに何かしらの方法でこの世界に引き込まれたのだろう。
喧騒のさなか、少年は考える。果たしてこれが現実なのか夢なのかだ。だが、すぐにそれは不必要な思考だと考え直した。夢ならいつか覚める。ならば、現実に起こったこととして行動した方が手っ取り早いからだ。少年は合理主義だった。
ちなみに、少年の名前は黒崎優斗と言う。
優斗は銀縁メガネをクイッとあげると、スクッと立ち上がった。
前触れも無く立ち上がった優斗に、周りの者はビクッとする。
「この国の王に会わせて欲しい」
簡潔に優斗は言った。
物怖じしない優斗の態度に、周囲の者は驚く。
実は、過去にも何度か異世界からこの世界に誤って召喚された人間が何人か居た。彼らはいずれも驚きを隠せず、「ここは何処なんだ、早く元の世界に戻してくれ」と慌てふためきながら叫んでいた。だが、この少年は驚いた様子もなく、冷静に立ち振舞っている。過去の事例に比べて、優斗の態度は明らかに異質だった。
「もしかしてこの少年が……」
「ば、馬鹿、滅多なことを言うんじゃない!」
周囲から聞こえた声を優斗は聞き逃さなかった。
……どうやら、この世界には色々と問題が起きているらしい。そして、誤って召喚された俺に、たった今淡い期待を乗せられたようだ。
そう思いながら優斗は、ふっと軽いため息を吐く。
どちらにしろ面倒な事は御免だがな。