夢一夜
何か物音に目覚めたのは実家の、かつて自分の部屋だった7畳の間である。昼にしては明るさが白々しいのは電灯が点いているかららしく、眩しくてもそこが夜であることが分かった。
隣室から声が漏れ聞こえてくる。粗い息遣いは二人の人間の口から発せらるるらしく、こちらは妙にどぎまぎしながらそれを聞いているのだった。母が部屋に入ってきて、何か聴き取れない声で言い訳をしているように切羽詰まった笑顔で話しかけてくる。
私は隣室の襖を破滅的な衝動に駆られて開けた。すると、そこには暗い部屋の中で父に覆い被さる弟の姿があった。まだあの笑顔を続ける母を脇目に私は、深い悲しみと息の詰まるような嫉妬に駆られたのだった。