表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「プリンの風呂」

作者: 夢野彼方

 夜の浜辺をのんびりと散策していると、丘の上に古い寺が見えてきた。

「ハハーン、あれがマフィアのアジトだな」わたしはピンと来た。昼は住職をしているが、夜になるとこの界隈を取り仕切る、闇の帝王なのだ。

 わたしは好奇心を抑えることができず、丘へと通じる小路を登っていった。


 広い庭園は、ヨーロッパ風だ。まるで作り物のように刈り込まれた植木が、幾何学的にどこまでも続いている。

 広場の中央には噴水があって、その縁に数人の男女がだらしなく腰掛けていた。

 彼らはみな、頭からすっぽりとビニール袋をかぶっている。ビニール袋は、透き通った青い水で満たされていて、時折、怪しげにぼーっと光を発した。


 溺れてしまわないのだろうか、とわたしは心配をした。けれど、苦しむどころか、すっかり陶酔しきっているらしかった。

 一種の麻薬だろう、と確信した。売りさばいているのは、もちろん、あの住職に違いない。


 本堂にやって来た。洋風庭園の中で、ここだけが純和風の佇まいだった。それは異様なコントラストを見せていた。


「こんにちはーっ」わたしは大声で呼んでみた。

 戸がすうっと開き、小太りな老人が顔を出した。

「ほい、何かな?」赤いガウンに赤いナイト・キャップをかぶって、まるでサンタクロースのようないでたちだ。

「あの、こちらにマフィアのボス兼住職がいると聞いてやって来たのですが……」わたしは、ありのままを告げた。

 相手は顔をぱっと輝かせ、

「あ、はいはい。それ、わしです。海の水が塩っ辛いのと同じくらい、そいつは確かなことですわ」と答えるのだった。


 わたしは丁重に招き入れられた。

「いやあ、はっはっは。表にいる連中を見ましたかな? あの青い液体は、わしが開発したんですわ。けっこうな値段でさばけましてなあ。しかも、毎晩、買いに来てくれるんですわ。おかげで、ほれ。このような庭園も作ることができたんですよ」


 住職は、わたしに風呂へ入るよう、しきりに勧めた。

「わしんとこの風呂はいいですぞ。とにかく、入ってごらんなさい。必ず、満足すること間違いない」

 そんなに素晴らしいのならぜひ、と入らせてもらうことにした。


 「湯」と書かれたのれんをくぐると、そこは露天だった。ごつごつとした自然のままの岩を無造作に並べ、ゆったりと広い。

 月明かりが湯を黄色く染め、風が水面にしわを刻んでいた。

「へえ、なかなかじゃないか」わたしはザブンと湯につかった。とたんに、それがすべて、プリンでできていることに気づく。「うはっ、すごいな、この風呂っ!」


 両手で救って、すすってみる。なかなかうまいプリンだった。空を見上げて湯を楽しみ、ときどきプリンを口に押し込む。こんな風流な時を過ごすのは何年ぶりだろう。

 のれんの向こうから、住職の声がかかる。

「カラメルをバケツに汲んできたぞい。熱かったら、こいつで薄めるといい」


 月はゆっくりと雲間を駆けていく。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは。 これはまた、おもしろいですね(笑) 絵も想像できるし、笑えるし突っ込めるし。 「こんばんは」じゃないのかー、とか(←そこ?)
[良い点] 不思議で少しブラックな世界観でありながらあえてほのぼのとした雰囲気で締めているところがおもしろかったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ