第七日[そうだ!病院に行こう!]
矢「……似合ってるぞ」
雷「ふざけんな!俺は谷津冶じゃないんだぞ!」
梨「お前俺をどう見てんの!?」
「…お見舞いに行くか」
「あぁ、一発な」
「両方だ」
というわけで、名似何達は谷津冶が入院している病院に行くことにした。
のだが…
「…何やってんだ?」
怪訝な顔の隆次の視線の先では、
「普通に行っても面白くないだろ?だからまず格好を変えないとな」
真夕が楽しそうに服らしき物を広げていた。
「へぇ、多いね」
名似何がそれらを見ながら言った。
「だろ?…っていってもあたしの友人の彩凪 菓夢由ってやつの物なんだけどな」
真夕はにかっと笑った。
「で、それをどうするんだ?」
「どれ着る?」
真夕はそれらを手で示した。
「って俺らが着るの!?」
「おぉ、そりゃそうだ」
「柳垣、私これがいいぞ結構気に入った」
名似何は1つの服をやや楽しそうに摘まみあげた。
「はっはっはっ、矢手弓は結構それ気に入ると思ったんだよ」
「じゃあ俺は…」
「お前はこれだ」
ここに取り出しましたるはナース服。
「え俺変態の道を走らされんの!?」
「だって梨田いないじゃん」
名似何は即答した。
「いや、だった…っ!」
その場で崩れ落ちた隆次を、真夕は背後から悲しそうに見ていた。
「…やっぱり、梨田がいないと、なんかつまんねぇな…」
…
「ゥァーア、って!!」
隆次は自分の変わり果てた姿を見回した。
「雷堂気持ち悪いかっこ笑いどー」
「ワーオキャクサマ、タイヘンオニアイデスゥ」
「てめーらぁぁあ!!」
ガチャ
「忘れ物し…」
雷堂と高上の、目があった。
「…」
「…ちょ、高上、これには深いわけが…」
「あ、あははは、あははは、ははは」
高上は必死に今の光景を頭から消し去ろうとするかのように笑いながらすすすとTHE STEGOを出た。
「…ぅぉい!」
「あたしの服装は、やっぱこれだな」
「成る程」
…
「よっしゃ!装備整ったし、行くか!」
「だな」
「俺の服返せよ…」
こうして3人は谷津冶のいる病院への道を行く。
「はぁ…、食中毒かぁ、心配だぁ…」
谷津冶は顔を曇らせながら溜め息をついた。
今日家族から電話が入って、梨田家のペットのガラパゴスペリカンのマイケル貴志が食中毒を起こしたと言う。
谷津冶はそれが心配で、食事も喉を通らなかった。
「てんめぇえぇぇぇ!」
その谷津冶の元にまず舞い込んできたのはナース服姿の隆次。
(そうか、変態さんになってしまわれたか…)
「これは矢手弓の分!」
バキィッ!
隆次は谷津冶の顔面を思い切り殴った。
「ちょ、まっ、」
「これは柳垣の分!」
バキィッ!
「そしてこれが…俺の怒りだぁぁぁああぁぁ!!」
バキィィィッッ!!
谷津冶は顔が痒くて堪らなくなった。
「お前痛いだろうが!」
実際は痛みまでは感じなかったが、それを言うと次に何されるか分からなかったので黙っておいた。
「うるせぇっ!お前がいないせいで、俺がこんな格好させられただろうが!」
そんなことを言い合っていると、後から真夕と名似何がやって来た。
谷津冶の右に隆次、前に真夕、左に名似何がいるので、取り囲まれているという状態に近い。
「それお前の趣味じゃないの?」
「んなわけねぇだろぉぉがぁぁあ!」
「病院ではお静かに!」
近くにいたナースが叫んだ。
「す、すいません」
「あら、梨田君の知り合い?」
「あ、そうっす」
「へぇ…あ、私、看護師の朝倉です。宜しくね」
朝倉は隆次達ににっこりと微笑みかけた。
「あはい、宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
隆次と名似何は挨拶を返したが、
「…」
真夕は、僅かに震えていた。
「どうしたんだよ柳垣」
隆次は不思議そうに真夕を見た。
「…いや、流石にそれは無い筈」
真夕は無理矢理自分を落ち着かせるように言った。
「?」
「こら那前さん!」
朝倉は、入り口から数えて谷津冶の1こ奥のベッドに寝転んで猟銃を触っていた人の銃を取り上げようとした。
「なんでぇ看護婦さん」
那前は猟銃を必死に掴みながら朝倉を睨んだ。
「看護師です」
「俺の唯一の楽しみは猟銃の手入れなんだよ。それを奪うってのが看護婦の仕事か?」
「こんな危険な物持ってきたら、他の患者さんに迷惑です!」
「うるせぇ!知るか!」
2人で取り合いをしていると、
ダァンッ!
猟銃が発射され、銃弾は谷津冶のベッドの柵を破壊した。
「ちょっ、ちょちょちょちょちょっ!だだだ大丈夫ですか!?」
さりげなく猟銃を取り上げながら朝倉は慌てて谷津冶のベッドに駆け寄った。
「いや…一応大丈夫、ですけど」
「あぁもうだからこんな物を…一応安全装置つけとこ」
朝倉はがちゃがちゃと猟銃を弄りだした。
「あれ?…猟銃の安全装置って、どこ?」
朝倉は見通しがついていないようながら猟銃を弄っている。
案の定悲劇は訪れる。
朝倉は暫く安全装置をつけようとしたようだが、どうやら段々苛ついてきたようだ。
「あぁもう!止まれ!」
ダァンッ!
パキィン
銃弾によって照明が割れて、その破片が寝ている谷津冶に襲いかかる。
「危ないっ!!」
そう言いながら、(言ってから飛び出しては間に合わない)真夕はベッドに飛び乗ると谷津冶に覆い被さるようにした。
…ドシャッ!
「柳垣ぃ!!」
隆次が叫んだ。
「…梨田、…だいじょ、へ?」
真夕は下を見て、目を丸くした。
「ななななっ、梨田が、ベッドの柵になった!!」
「梨田ならお前の膝の下だぞ」
隆次は冷静に言った。
「え…?」
真夕はゆっくりと体をどかした。
「お前気づかんかったんかい!」
「あぁ悪ぃ悪ぃ。…元気か?」
「…ま、まぁ…ってか、お前は大丈夫か?」
「あたし?んなの大丈夫にきまってんだろ!」
真夕は親指をグッと突き出した。
「だっ、大丈夫!?」
朝倉が慌てた風に真夕に駆け寄った。
「あたしは大丈夫だっての」
真夕はにっと笑った。
「取り敢えず硝子の破片を…ってあれ?」
真夕は背中を上にして壁になった筈なのに、真夕の背中には傷どころか破片すら見つからなかった。
「あれ、破片は?」
「さぁ?」
「他の患者さんが踏んだら危険だわ。探さないと」
「あなたは探さなくていいです!」
谷津冶は思わず朝倉を呼び止めた。
「え?で、でも…」
「えっと、そ、その、これは、俺達の問題で」
「遠慮しないで」
朝倉はにっこりと微笑んだ。
「い、いや、別に遠慮なんて…」
「大丈夫!」
朝倉は腕を回すと、力瘤をつくった。
「破片なんて、すぐ見つかるから」
「そういう問題では…」
「…あ」
真夕がぽっかりとした声を出した。
「どうした?」
朝倉の動きを止めるのに必死な谷津冶ではなく、隆次が尋ねた。
「破片が、ゴミ箱に捨てられてる」
「え?」
隆次が駆け寄った。
「あホントだ」
「へぇ…」
名似何もゴミ箱に近寄った。
「誰がそんなことを?」
「まぁ、どうでもいいんじゃぬ?」
名似何は腕を後ろに組みながら言った。
「そうか?俺は気になるぞ?」
隆次が名似何を見た。
「ていうか柳垣だっけ?何か心当たり無いの?」
「ふふ…やはり来たか」
「そりゃ来るでしょ」
名似何がすぐ返した。
「って柳垣お前心当たりあるのか?」
「ふふっ」
「いや笑ってないで教えてよ!」
最早ただの好奇心故の様だが朝倉は真夕に詰め寄った。
「…ここは敢えて内緒にしとくよ。その方がいいだろ、梨田?」
「なんで俺!?」
「お前がなんかしたのかよ!」
「いや、違っ!」
「こんなんじゃ気になって夜も寝られないわ!白状なさい!」
「病院ではお静かに!」
「ひいぃぃぃっっ!!!!」
朝倉を異常なまでに縮み上がらせた、他のナースの一声により事態は強制的に収まった。
3人は帰り道を歩いていた。
「で結局、どうしてああなったんだ?」
「気にするな!人類とて必死だ!」
名似何がそう叫んだ瞬間に、
ブシャァッ!
名似何の背中と太ももから血が吹き出した。
「えっ!?ちょっ!!」
「太ももは…そうか、朝倉のせいか」
慌てる隆次とは対照的に真夕は冷静だ。
「お前やっぱ何か知ってんのか?」
「知ってるも何も、背中の傷はあたしのせいだし」
「え?どういうこと?」
「いや、反射的に梨田を庇ったもののやっぱ自分の身が大事になって、んで近くにいた名似何を放り投げて盾にした」
「と言っても、みんな、信じて、くれない、だろうから、せめて、病院の、中で、血を、流さ、ないように、した」
名似何は額に脂汗を浮かべながら言った。
「…もう限界だったか」
「…だな」
名似何はその場に崩れ落ちた。
「…傷ついた武者の鎧を右半分に尼が着るような服を左半分に着ている私は恐らく往生を願うことを余儀無くされるだろう」
「なんでお前そこは喋りがスムーズなんだよ」
「…これ、を」
名似何はポケットから手紙を取り出した。
「これを…あいつ、に」
名似何はそこで倒れた。
ビチャ
「…折角棺ファッションしてんなら、人が収納出来た方がいいよな絶対」
真夕は自分の服に文句を言った。
「新しい患者さんなんだけど…」
朝倉が『先輩』と呼んでいたナースが、顔を俯かせた。
「どうしたんですか?」
「その、ニトログリセリン愛好家なの…」
「ニトログリセリン!?」
(おまっ!それ、すぐに爆発するやつじゃ…)
谷津冶は恐怖を抱いた。
「ええ。…だから、本当はあなたに頼みたくないけど、頼んだわよ、朝倉」
「まっかせて下さいよ先輩!」
(俺を早くここから出してくれぇぇぇぇぇえ!!)
谷津冶は心の中から叫んだ。
今回は前回病院送りになってしまった谷津冶君のお見舞いという事で、いかがでしたでしょうか?
自分としてはどんどん二重人格をアピールしてきている真夕にちょっと面白さを感じてきています
さて、次回なのですが今のところ意外なキャラを中心に作ってみようと思いますのでお楽しみに!