表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
98/127

4-1<フィオ・尋問>

アーリントン家の応接間は他の五大家と比べてもかなり広い。


中央に20人は座れるだろう巨大な円形のテーブルを置き、有事の際には作戦会議室として用いられる。


開かれた扉から一歩踏み込んで「…そういえば昔聞いたことがあった」と思い出していた。



時間は昨日の交戦から一晩が経ち、既に昼の少し前頃。


だから室内に据えられた<活性魔晶石>を動力としたいくつもの照明は点灯していない。


けれどこの量ならばきっと夜になっても、本を読むのや細かい作業をする時の光量としては申し分ないだろう。


…でも、今の私にそれが許される事は無い。



巡らせた視線を戻し、正面を見る。


アーリントン家の面々、陸、海軍の上級仕官、と恐らく捜査局の人間。


そしてその真ん中に陣取るように黒髪の男女。次期王と王女が卓について待っていた。



尋問だろう。



席に着け、と私をここに連れてきた兵士が促す。


逆らわない。今更逆らう意味も無い。


大人しく席に着くと、パンに野菜とチーズを挟んだだけの軽い食事とコップに入れられた水が運ばれてきた。


お腹は別に空いていない。喉も同じだ。だから見るだけにする。



「さて、フィオちゃん。久しぶりね? 元気だった?」



最初に話しかけて来たのはアーリントン婦人、エーリカさん。


その顔色は良く、既に<召喚の呪い>が発症し病床に臥せっていると聞いていたのだが…とてもそうは見えなかった。



「……はい」



端的に答える。



「お腹が空いていたら食べてちょうだい? おかわりもあるわ」



食事を進めてくる。然程お腹は空いていない。だが、



「……はい」



再び端的に答え、とりあずパンを手に取り、もくもくと食べる。


逆らって不興を買う必要も無い。



「それでね? 今回呼んだ事なんだけど、お話して貰えないかしら? そちらの事情を」



…やはり、尋問で呼ばれたようだ。



「………私から語るような事はございません。捜査局の方の掴んでいる通りだと思います」



チラリ、と捜査局の制服を着た兵を見る。…2人。


頭から羽毛を生やした鳥系獣人と、丸い獣耳をした小柄なほぼ人型の獣人。…何処かで見たことがあるような


いや、気のせいか。それに今はどうでも良いことだ。



「それでもね、貴女の口から説明して頂きたいの。貴女のお義父様の事ですし」


「……何を、話せというのですか。義父の考えは声明の通りです。……私から特段補足する必要は感じません」


「では、降伏してくださりますか? バルナム卿の主張の前提である「召喚魔術の失敗」が間違っていたのですから」



確かにそうだ。けれどそんなものは義父さんにとっては都合の良い言い訳でしかない。


もくもくからちびちびと齧り方を変えていたパンを見つめたまま、顔も上げずに答える



「……私の一存では不可能です。義父に連絡してください」



我ながらにべも無い返事だ。だがこんなものだろう。


エーリカさんがはぁー、と溜息をつく。



「マール。お前が尋問してやってくれないか? こないだのヤツみたいに口が軽くなるんじゃないか?」



代わりに口を開いたのはメリア。相変らず口調が男っぽい。


あれでよく後宮に入るとか言い出せたものだ。



『嫌じゃ。こやつは責められ痛めつけられる事を忌避しておらぬ。さらにそれで死ぬるならそれはそれで良い、と考えておる。そんな相手を尋問してもつまらぬ』



響いた返答に、応接間の空気が、凍る。



ちびちび齧っていたパンから目を離し、声を出した相手を探す。


今喋ったのは誰だ? 何故、そんな事を知っている? 私の心を読んだとでも言うのか?



「どうして、ですの? そんな…」



呟いたのはメルディア。違う、先ほどの声の主ではない。



『は、妾から語る事でもないわ。どうせ、じゃ。本人に聞いてみたらどうじゃ?』



まただ。今度こそ聞こえた方向を見る。その先は確かユートとかいう次期国王。


その手前のテーブルの上に胡坐をかいてパンを食べている…妖精?


あれが、喋ったのか?



「それもいいか。なぁおいフィオ? 何でお前は死にたがってるんだ?」


「お、お姉様?」「メリア…」「その聞き様は流石にどうかと…」



メルディア、王、アーリントン家のセバスチャンと揃ってメリアに駄目出しをする。


…不覚にも言われた私もそう思った。口には出さないが。



「………メリア。淑女らしく(・・・・・)お話なさい」


「は…はい……」



エーリカさんがこめかみを押さえ、メリアを叱る。



「フィオさん。お話下さい。どういう事ですか? それは今回の事態に関わる事ですか?」



エーリカさんの言葉に消え入るように黙ったメリアの代わりに口を開いたのはソフィーリア王女。


…話してどうなる? 関係はあるといえばある。逡巡する。



『話せばよかろ。おんしの事情を聞かぬ事には進まんぞ』



確信した。あの妖精が喋っている。そして、あの妖精は私の事情を知っている。けど、



「……そんな妖精など聞いたことも無い」


『魔族じゃからの』



耳ざとい。小声で漏らした声まで拾ったか。けれども、魔族? さらに聞いた事が無い。



「マール、話が逸れるから。ね、フィオさん。話してくれないかな? 何でもいいから。俺には何も分からないんだよ、誰が正しいのかも、何を正すべきなのかも」



次期王が語る。何も知らない。この国の内情も分かっていない<召喚されし者>が。


パンを置き、水を軽く一口含み、飲み込む。



「………いいでしょう。そこまで言われるのでしたらご説明します」



いいだろう。そんなに知りたいなら聞かせてあげよう。


何が原因で義父が決起を決意したか。


何故、母と私は壊れたか。




…どうせ、聞くだけ無駄なのだから。

9/8指摘いただいた部分を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ