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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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4-0<トラとガブやん>

収監されて4日目、この日大量の書類と格闘中のキャメル卿の元を訪れたのは、頭の固い扱いに困る男だった。



「で、トラ公どの。ワシは忙しいんだが? 何の用だ?」


「貴様までか…いや気にするな、こっちの事だ。あとな、ガブやん。呼んだのは貴様の方だろうが。」



開口一番にかけられた不躾な言葉に律儀に返す。


それにしてもどいつもこいつも…昔の呼び名を使うのが流行っているのか?



「ああそうだった。王家の法務権限を一時移権されたおかげで貴族どもの脱税が取り締まれそうでな。怪しい連中は全て纏めておいた。そいつを貴公に渡すから一斉立ち入り捜査を頼みたい。」



そう言ってごそごそと机の上の書類の山から一塊を選別して取り出し、フェルブルム卿に手渡す。


おっとっと…とかなりの厚みの紙の束を受け取り、一番上の1枚の内容に軽く目を通す。


ふむ。それにしても一斉に? この量だし一人ずつやっている間に逃げられないためか? しかし…



「…まぁ、別に構わぬが……どのぐらいいるのだ?」



バサバサと大雑把に数枚捲りつつ聞いてみる。


どれを見ても、書かれているのは違う人物。…まさか



「…大なり小なりはあるが既に判明している違反者だけでおよそ全体の7割だ。だから毎回言っておったろうが財政は火の車だと。」



適当に捲くっていた手が止まる。



「な、7割? そんなばかな? 何故そんなに居るんだ!?」



まさか、と思ったそのさらに遥か上を行く言葉に驚く。



「分からんのか? 王が許していたのだよ…見返りに賄賂を受け取っていたのだろうな。」


「馬鹿な! あのオヤジが賄賂だと!? ありえん!!」


「収支によるとそれが一番辻褄が合う。それに晩年の王が商人を集め何か高額なものを私財で買い漁ったのは分かっておる。」


「それは我輩の方でも確認しておる。…だがあれは<魔晶石>ばかりだぞ? 魔道具や魔導炉に欠かせないし別に不思議はあるまい?」



王は研究好きだった。当時のバルナム卿と隙を見ては自分用に用意した研究室に篭って色々な魔道具を試作し、ついには量産体制を整える為の魔導炉まで完成させたのも王だ。


それに元々材料は気の向いた時に私財で買う人だったし不思議は無い。



「きちんとは把握しておらなんだか? ワシの方で王の私財をそれに換算すれば300万では済まぬ数の<魔晶石>を買い漁った事になる」



さ、さんびゃ…く…?


驚愕する。


馬鹿な、並の魔道具を作るのに必要な<魔晶石>は程度の低い物でも3〜4個あれば事足りる。それを300万個だと?



「そんな馬鹿な、何をするのにそんな膨大な量が必要になる!?」


「知らんよ。技術開発担当のバルナム卿あたりに聞いてみればよかろう? ワシの領分は財務と畜産、農耕等だしな。

…だが、良く聞け? 王が収賄をしていた事実はある。そしてそれを知ってもワシらでは防げなかった。王家に対して不可侵過ぎたのだよ。失脚させろとまでは言わんが体制は変革が必要だった。その点はワシもあの若造を認めるよ。」


「…貴様はあちらに乗るのか?」


「あちら、ね。フン。貴公は中立でないといかんのではないか?」


「我輩の心ぐらいは構わん。フェルブルム家、捜査局としては中立だ。」


「…まぁよかろう。貴公はそういう男だ。だがそう心配するな、ワシも中立を保たせてもらう。」


「さっきの話し振りではあの若造寄りに聞こえたが?」


「フン。難しい話ではない。丁度ワシの兵は謹慎中だ。ならば卑怯と謗りを受ける事も有るまい。財務と国内の膿み出しに専念し、最後に勝ち馬に乗らせてもらうまでよ。」


「貴様らしいな。」


「褒め言葉と受け取っておこう。」



ふふん。と恰幅の良い腹を揺らし得意げに答える。



「だが、このままでは内乱だぞ?」


「あの若造もアーリントン卿も馬鹿ではあるまい、全面戦争などせんだろ? 最悪クーデターが成功して王女は廃位、という事態になろうがアーリントン家が身請けしてなんとでもするだろう、エーリカ殿も居られるし。あそこで抱えるなら神輿にされて王位復権という動きも出せはしまい。」


「…だが、召喚魔術が成功していたならば?」


「…成功していたというのか?」


「我輩の調べによると、その可能性は限りなく高い。」


「馬鹿な…ならば何故王女は逃げた?」


「貴様のせいだろうが…」



既に幾度も貴族どもがソフィーリア様を狙って行動を起こしていたのだ。


どうせ召喚は成功しないと考え、他者を出し抜くために早々に婚約を、と半ば強引に迫る者。


刺客を放ち、甘言を吐き、多種多様な手管を使い取り入ろうとする者。


召喚の事など忘れ、ただ見目良い姫との既成事実を、と迫った大馬鹿者。



老王が亡くなってその勢いはさらに増していた。


そんな折に強行した<召喚魔術>。それを包囲するように兵を差し向けたのだ。ぬけぬけと何を言うか。



「……そうか…そうだな…すまない」


「まるで自分は被害者とでも言うような態度だな。残念だが貴様にはアルモス卿の共犯者として容疑がかかっている。いずれしっかりと取調べさせてもらうからな。」



話は終わりだ、とばかりに書類を閉じ、部下に手渡して踵を返し部屋を後にする。



胸がムカムカする。キャメル卿もだが、貴族連中にもだ。そしてその最たるものこそがアルモス家の父子だった。


既に死亡してはいるが、報告により行われた証拠の洗い出しで前代の<召喚されし者>暗殺の容疑はほぼ確定している。


ソフィーリア様の母、エレハイム様も最期まで信じたように、欲に溺れた貴族は既に王家を手にかけていたのだ。


そして我輩はその証拠を見落とした。


我輩も、消極的な加害者の一人だったのだろう。



いずれ必ず償う。そう胸に誓う。



その為にもまずはこの書類の者を纏めて締め上げなければならない。しかし、それは今すぐではない。


動き出した事態は今更止められはしない。ならば、この機会は最大限に利用させてもらう。


我輩も決めたぞ


我輩は我輩のやり方でこの国の膿を絞り出してやる。

9/8誤字修正しました。

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