表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
93/127

3-4<空戦4>

「第二中隊、総員抜剣!! 魔兵騎は密集陣形で前へ、牽制用意だ! 何時でも撃てるようにしろ!! 槍兵騎は拡散し上昇を開始せよ、ただし上がりすぎるな、敵より高ければ良い! 復唱は要らん!! 行け!!」


「第三中隊! 命令は同じだ、左を埋めろ! 特殊任務隊の方は援護に回ってくれ!!」



両軍の中央で巨大な爆発が起こった直後、第二、第三番隊隊長の激が飛ぶ。


前方に見える敵の隊列は動きがない、だがこちらは作戦上守りがメインだ。都合が良い。



「了解した! 野郎ども!! 聞いたな! 俺らは本隊の取りこぼしを潰すぞ!! バディ単位で散開!!」


「「「オオオオオオオオオオオ!!」」」



カーニスさんが応え、メリアの部下たちも動く。ぶつかる前から戦いは始まっている。


そうこうする間に爆炎の中から飛び出し急上昇中のメリアを追って、ワイバーンより一回り大きな巨体をした<ヴイーヴル>が追撃を開始する。


その速度が速い。追いつかれかねない。



「セバスさん、俺が行きます。メリアに近づいて下さい。」


「どうするんですか?」


「<攻撃魔法>を使います。任意距離に近づいたものをバラバラに切り裂く範囲魔法です。」


「効果は見込めるのですか? 見たところあのモンスターもワイバーン同様<甲盾熊の盾>製の鎧を着込んでいます」


「問題ありません。森でその<甲盾熊>を倒した魔法より強力な魔法です。急いでください。あのままではメリアはやられる」


「…承りました!!」



メリアとフィオの着けていた<拡声の首輪>の効果により二人の会話は聞こえていた。


そしてあの会話とあの鎧を着込んだ<ヴイーヴル>の魔法耐性。


対人を想定した装備の今のメリアには間違いなく効果的な手が無い。


メリアに手が無いなら、恐らくここに居る誰もがそうだろう。ならば、甚大な被害は免れない。


事に寄れば全滅だってありえるだろう。だから判断する、俺が行くべきだと。



「全員聞いてくれ!! これから俺はメリアに合流して広域の<攻撃魔法>を使う!! 巻き込まれたら死ぬぞ!! 敵からなるべく距離を取っていてくれ!!」



声を張る。<拡声の首輪>の効果で大声は出さなくても聞こえるのだろうが、ここは気分だ。


久方ぶりの戦場の空気に俺も酔い始めている。


勇者時代に戻ったような高揚感と、残虐性が鎌首をもたげて来る。


そうこうしている内に<ヴイーヴル>を地面に墜落させる事を狙ったメリアが急上昇。


その下から堕ちたと思われた<ヴイーヴル>が飛び出し物凄い加速で追撃をする。


メリアは気づいていない。あれは、不味い。



「お嬢様はあのぐらい察知して見せます!」



俺の気配を察したのか、セバスさんが叫ぶ。



「メリアがあれをかわして速度が落ちた所を狙って飛び移ります。」


「承りました!」



その言葉を信じる。メリアを、信じる。


セバスさんの指示を受けワイバーンが翼をたたみ加速して向かう。


メリアが<ヴイーヴル>と交錯するであろう位置はまだ大分高度が下だ。



「下を潜りぬけてください。減速の必要はありません、上手く取り付きます。」



メリアが、真下からの<ヴイーヴル>の強襲を紙一重でかわす。だが、大きく姿勢を崩し減速してしまった。


<ヴイーヴル>はそのままの勢いで上昇し大きく弧を描いての縦旋回…


――加速をつけ再度メリアを狙う気か。


メリアが乗ったワイバーンが竜首を下げる。再び加速する気なのだろう。だが、あれでは間違いなく加速しきる前に襲われる。


たとえ回避しても加速することは適わず、後はなぶり殺しになるだけだ。


魔法で迎撃していては間に合わない。鞄に<世界の欠片>を戻し、代わりに剣を取り出す。



「―Cahes [Miehmtsnd]―」



詠唱する。最初は<水環鋸(ルト・アサンダー)>と同じ。だが、作られるのは幾重にも巻かれる水のロープ。


輪にはまだならない。その水を加速させずに詠唱を一旦止め、叫ぶ



「メリア、俺が仕留める。来い!」



メリアが反応する。だがそのせいで下降しようとした動作は途中で止まり、中途半端になる。もう、完全に避けられない。



「セバスさん、俺が離れたら一気に離脱を!」


「はい」



一言断り、宙へと舞う。同時に先ほど詠唱途中で止めて縄状にした魔法水をメリアのワイバーンに伸ばし、絡める。


消費魔力が増えるが、こういう融通が利くのが段階製作する類の魔法の強みだ。


このまま直接乗ってはワイバーンへのダメージが見過ごせない程になるだろう。


だから直撃コースを避け、水縄にぶら下がり、メリアのワイバーンを支点にその周りを回る。


あっという間に周囲を2/3回転。


体が天地逆を向いてしまったが、丁度メリアと<ヴイーヴル>の間に躍り出る。



激突する寸前に考える。



このまま剣を振り、切りつける。抵抗無く切れたならば、倒す事はできるだろう。


だが、残骸はメリアを直撃してしまう。



では切り裂かず抵抗をもろに受けつつ弾くようにすれば?


それもだめだ。質量差が有り過ぎる。押し切られて結局メリアは巻き込まれる。



――なら…



考えたのは一瞬。そのまま順手で持っていた剣を逆手に持ち替え、正面に迫る<ヴイーヴル>の頭に突き入れる。


火花を上げて<甲盾熊の盾>製とおぼしき兜と剣がぶつかり、一瞬の抵抗の後、<強化魔法>の込められた剣が競り勝ちその兜を、頭を貫く。



――仕留めた。



だが、勢いは衰えてはくれない。そのまま首がへし折れぶらんと回り、俺の体が<ヴイーヴル>の背へと周る。



――ここまでは、目論見どおり。



ヴイーヴルの背に足を付け、勢いを殺し着地する。さらに剣を手放し、先ほど使った水を軽く絡ませ固定して両方の翼の付け根に腕を伸ばす。



――後はこの翼の向きを変えてしまえばメリアには当らない!



<強化魔法>を活性化させ<膂力強化>を発動。そのまま握り、潰し、引き千切る。



「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」



ブチブチブチと音を立て、肩の骨から外れた翼が力を失い風に流されるままになった所で確認する。


予測どおり、減速した<ヴイーヴル>の軌道は、ぎりぎりメリアのワイバーンの下を潜り抜けるものへと変わっていた。



「ユート!」



メリアが俺を見つめ、手を伸ばす。すれ違い様、絡めて居た水を解き<ヴイーヴル>の背を蹴って飛ぶ。


俺が蹴った<ヴイーヴル>はさらに軌道を下げ、ワイバーンにまで足蹴にされて、堕ちて行った。



ふわりと宙を舞い、伸ばされた手を掴み、ワイバーンの背へと着地する。


剣を1本手放す事になったが、一先ずは上手く行った。けれども悠長にはしていられない。



「メリア、このまま敵の方へ! <攻撃魔法>を使う!」


「!」



俺の発言にメリアが息を呑む。<攻撃魔法>と聞いて以前のマールの説明でも思い出したのだろうか?



「安心して、全力では行かない。まずはあの<ヴイーヴル>を全滅させる!」


「……承知した!!」



見上げる。


上空、敵は×字鶴翼と言った陣形で10匹程の<ヴイーヴル>がやや上方より真っ直ぐ正面突撃するようだ。


<ヴイーヴル>の機動力、攻撃力からすれば、正面から突き込んで壊乱させるのが一番。と見たのか。


難しい策も何も無い、力任せの蹂躙策。確かに効果的だろう。だが、そんな事をさせる気は無い。


ブン、とさっきから維持し続けていた水縄を振るい、絡まりの無い一本の縄にする。



「―Ochch zuad ovmeh Falain ud Tllanz, cirnen Rinceg ―」



さらに再び詠唱。


次の段階へ魔法を進ませつつ、鞄から18個の<世界の欠片>を取り出し、水縄に呑ませる。


水縄が俺の周りから、ワイバーンの周り数メートルへと半径を広げ幾重にも輪を作る。


そして、ついに水縄の始点と終点がつながる。



「―MrMfied―」



最終段階の詠唱。加速が始まる。


今回は最初から全開だ。以前の石片と違い<世界の欠片>に遠慮はいらない。



イィィィィィ――――――――――――



あっという間に空気が断熱圧縮でプラズマ化し、多重に連なった輪が発光する。


その色は以前とは違いほぼ純白。輝度も比べるまでも無い。


速度も以前の<水環鋸(ルト・アサンダー)>の約5倍、30000m/s程に達している。



「ユート、ワイバーンが脅える!!」


「抑えてくれ、内側に当りはしない!」


「くっ…」



激しく発光し、ゆっくりと自分の周りを回転しているように見えて実は物凄い速度で回る幾重もの輪の光と音にワイバーンが驚き、飛行が乱れる。


しかし、ここまでくればもう多少の揺れなど問題ない。


狙いを定めてバランスよく全周を巡っていた輪を収束させ<発動言語>を放つ。



「<多連層水環鋸ジオメトリック・アサンダー>!!」



純白の光を幾重にも重ねた輪が一部固定を開放され遠心力で一瞬で広がる。


下方から瞬きする間よりも早く飛来する光の斬線の束に追いつかれた<ヴイーヴル>達が、瞬く間に千切りになり、砕け散った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ