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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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3-3<空戦3>

爆炎の中から2匹のワイバーンが飛び出す。どちらも、無傷だ。



「防いだか! ゼネスの代わりに大将を勤めるだけの事はあったか!」



メリアが旋回上昇しつつ叫ぶ。


<爆裂火球>も再度作られている。いや、それに留まらない。


全ての腕輪が魔力を送り込まれ4種の魔法が待機状態になる。



「……貴女が来るのは予想できた。この子達には<甲盾熊の盾>を加工した鎧をベースに<対魔法障壁>の盾を張っている。……貴女の魔法では貫けない」



フィオも答える。だが、こちらは上昇するメリアを追わず後退する。



「何故、下がる!」


「……言った筈。新兵器を使う」



そう言ってフィオが両腕に付けた腕輪が発光する。魔道具。間違いなくあの豚が使った物の同系だ。



「…!!」


「……<ヴイーヴル>」



急上昇中のメリアを追って、隊列から予め突出していたワイバーンより一回り大きな巨体をした<ヴイーヴル>が一頭、爆発的な加速で追撃を開始する。



――速い! 追いついてくる!?



桁違い、と言われていたが、その予想をはるかに上回る速度の<ヴイーヴル>が追いつく前に、


上昇速度が落ち始めたところで旋回し、捻りを加え斜め下に切り返し一気に加速する。


追撃してくる<ヴイーヴル>も旋回し、追ってくる。


旋回中に視認する。こいつも鎧を着けている。恐らく同じ物だろう。


そして降下速度も速い、特に加速はワイバーンの比ではない。操竜を過てば一瞬で追いつかれかねない。


切り替えして正面からぶつかるのを避け、そのまま降下。


さらにどんどんと降下、地面が接近してくる。


見極める、加速と停止距離の限界を…ここ…だ!



まず目晦ましとしての爆裂火球の設置を行う。


後方で派手に弾けさせてから一気に回避機動を始める。



「ぐっ………!!」



翼を開き急停止と共に縦に後回転。クルビットの少し大回りをした版だ。負担は大きいが大きく位置をずらす必要がある。


無茶な機動に全身が軋みを上げる。


縦回転するワイバーンの背を掠めるように<ヴイーヴル>が通過する。


あの速度では停止できないだろう。地面に叩きつけられてそれまで、だ。


さらに回る、天地が逆さを向き、何処を向いているのか分からなくなりそうになる。


だがその視線の端で捉えた。


<ヴイーヴル>は停止が間に合わずかなりの速度のまま地面へと堕ち、砂煙を上げた。



「かはっ………」



回転機動を終え、無茶な機動で詰まった息をはく。


人の乗らない飛竜を操っていればこの程度だ。


竜自身は普段は無い鎧のせいで降下速度と停止距離を見誤る。


自分が乗らないからその限界を察知できない。結果無茶な機動をさせて堕ちる。


無様なものだ。


姿勢を建て直し下を向いている竜首を一気に上げる。


体に激しいGが圧し掛かり、地面が近づく。ギリギリだが問題ない。


そのままUの字を描いて上昇に入る。同時に戦場を見渡す。


まだ、両軍はぶつかっていない。フィオは何処だ? あいつさえ堕せば…



「そ、こ、かっ………?」



視線を巡らせ、見つける。自分のワイバーンに跨り無感情にこちらを見下ろすその視線を。


落ち着き、動揺していないその、



――操竜を誤り、堕した事に、動揺していない?



普段から感情を見せない相手ではあるが、肌が泡立つ。


この感じには覚えがある。<人型>を焼き尽くせなかったあの時――


咄嗟の判断で上昇中のワイバーンを急旋回、空を横に転がるようにバレルロールさせる。


その直後、自分の飛んでいた位置を翼を大きく広げた影が貫いていく。



「かっ…はっ……」



急上昇中の無茶な急旋回に、一瞬意識が遠のく。


墜ちたのでは無かったのだ。あんな速度で着地、さらに再び急上昇して追いついてきたのか? なんという性能だ!


そして半ば朦朧とした視界の中、今度ははっきりと姿が見えた。


ワイバーンより一回り大きな翼。それでいて胴体自体は大差がない。翼が、違うのだ。


翼膜でなく長く硬質なブレード状の鱗で、翼が少し大雑把な鳥の羽根のように埋められている。


それはより飛行に洗練された形状。と同時に風切り羽の部分が本当の刃物のような切れ味を発揮するのだろう。


まずい。


急旋回の動作が終わり、減速したせいで意識がはっきりとしてくる。


同時に思考も加速する。


<甲盾熊の盾>製の鎧のせいでこちらの魔法は通らない。さらに圧倒的にあちらの方が空戦性能が高い。


このままではいずれ追いつかれ、やられる。


そして、同様に対人戦を想定した装備の自分達の軍では、こいつを堕とす事は容易いな事ではない。


ともすれば全滅の可能性すらありえる。


…どうする?



修理中の<魔槍ヴェルスパイン>の代わりに持ってきたロングハルバードは魔道武具ではない、ただの武器に過ぎない。


対人では兎も角、対モンスターでは役不足。


<魔槍ヴェルスパイン>であれば、<対魔法障壁>など無視して直接貫けたのに!



「無い物ねだり、だっ!」



上昇した<ヴイーヴル>が大きく弧を描いてこちらへと向き直る。


今は撃退方よりもこの窮地を抜ける事が先決だ。


先ほどの急旋回で上昇速度が落ちた今の状態では、普通の敵相手でも格好の的でしかない。加速しなくては。


竜首を下降するために回そうとした、その時、



「メリア、俺が仕留める。来い!」



私の名を呼ぶ愛しい男の頼もしい声が聞こえた。

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