表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
90/127

3-1<空戦1>

肌に触れる風が最早隠しもしていない俺の黒髪を優しくたなびかせる。


ちょっと冷た過ぎる気はするが、気持ちいい。


ここは上空およそ2500m、その場でホバリングをするワイバーンの背中の上。


今回も例によってセバスさんの後ろに相乗りさせて貰っている。


その内自分一人で乗れるようになりたいな、と思う。



「来たようだ。」


「あぁ、エーリカさんの言った通りだったね。」



良い気分で風を感じていた所で聞こえたメリアの声に返事をして、正面を見つめる。


今回も着けて来た<拡声の首輪>の効果で会話に問題はない。


それにしても鞄と言い、使わなかったけれども<意言の首輪>といい、この世界には予想以上に便利な魔道具が多い。


いつかどういう仕組みなのか聞いてみたいものだ…



そうこう考えている内に正面の空の小さな点が段々と大きくなる。



あれは、敵だ。



「既にこんなに接近されていたとは。お母様が目覚めるのが遅れていたならどうなっていた事やら…」



メリアの言葉も頷ける。


中庭で派手なデモンストレーションを行った後、いざ作戦会議を。


…という流れだったのだが、目覚めたばかりのエーリカさんから



「王都を発った空軍の先遣隊が到達するまで時間がありません。今すぐ、迎撃に向かわなければ。」



という説明を受け、俺とメリアは迎撃に向かうワイバーン隊と共にやってきたのだ。


そして出発しておよそ2時間弱。僅かそれだけの時間で前方を飛んでいた偵察騎が敵の姿を捉えていた。



ちなみにソフィーとマールとメルは残って治癒魔法によるエーリカさんの治療を、医師団と共に急速に行っている。


メルはメリアとは違い元々戦闘訓練等受けていない生粋の貴族子女らしいので、そちらの方が適任だとメリアが残した。


ソフィーは、「相乗りして戦場に行きましても、足手まといにしかなりませんから…」と、心底悲しそうに語り、自ら残る事にした。


マールは俺に代わっての状況確認と連絡用に残った。しかし、100kmは離れているのに会話が出来るとは。


携帯電話のように電波塔や中継衛星が有る訳でもなく、一つ前の世界のように大結界に便乗させて通信している訳でもない。


どういう方法で可能にしているのだろう?


これも後で聞いてみよう。電話が無く魔法のあるこの世界、通信手段の改善の参考になるかもしれない。



そうこう考えているうちに、飛来する点が段々と大きくなり渡り鳥の群れのような見た目になる。


だが、勿論鳥ではない。遠目でも分かる、人を乗せたシルエットのそれはワイバーンの群れ。


話の通りなら空軍、その先遣隊。間違い無いだろう。



…およそ50騎弱…といったところか?



対するこちらは俺とメリアの2騎に、アーリントンに駐留中だった陸軍空戦部隊の第2・第3ワイバーン中隊2部隊64騎、さらにメリアの部下11騎の合計77騎。数の上では勝っている。



だが、敵は新兵器を投入して来ているという、数の優位は絶対ではないだろう。


そしてこの部隊を撃墜し、追い返したとしても、第二、第三の部隊がやって来るはず。


ワイバーンの総数は向こうの方が圧倒的に多いのだ。


だが、どの道絶対に負けられない。だから俺も来た。



まだかなり離れた所で敵ワイバーンの群れも停止し、にらみ合いになる。



「…数ではこちらの方が有利、だが…得体の知れないのが居るな…」



メリアが両手の腕輪の位置を調整しながら話す。


あの腕輪は魔道具だ。そしてメリアが着けているのは4つ


威力の高い爆発する炎弾を精製し放つ <剛爆炎の腕輪>

貫通力の高い連射球を放つ <火連弾の腕輪>

ある程度追尾性のある火球を精製し放つ <追炎弾の腕輪>

術者の周りを回り牽制と防御をする火球を産む <護炎球の腕輪>


全てメリアが得意とする炎系の魔法を発動する魔道具。


それの位置を、さっきから何度もずらしている。緊張しているのだろう。無理も無い。



空戦の基本は近接でのワイバーン自身の攻撃や騎乗者による槍や魔法での攻撃らしい。


火薬はあれど銃砲のまだ無いこの世界では、弓などによる遠、近距離射撃は強風と移動でまず当らず、


当った所で完全に失速しており然程の痛手になり得ない。


魔法による遠距離攻撃も威力こそあるものの前者に同じだ。そうそう当らない。


さらに常時魔法で温度と空気を維持している為、高威力の魔法や範囲魔法など使おうものなら魔力切れで失神し、落ちて死ぬ。


戦闘機程の速度も無く、ワイバーン自身の探知能力もあいまって奇襲などはまず成立しない。


それゆえの正面衝突とドッグファイト。


それゆえの損耗率の高さ。


空戦はどう争っても双方が甚大な損害を蒙るのだ。


だが、それを避けるための作法も存在する。


停止している敵軍の群れの中から一匹のワイバーンが突出し、飛び出してくる。



「出てきたな…では作戦通り私が行く。ユートは何時でも魔法が使えるよう用意しておいてくれ。」


「分かった。」


「カーニス!槍を!」



メリアが呼びかけると、すっとワイバーンが1匹メリアの乗ったワイバーンに近づく。


その上に乗ったメリアの隊の副隊長、カーニスさんが柄の長いハルバードを取り出し、手渡す。


年齢は25ほど。メリアの部下らしく難しい事は考えないのかサッパリした人で、俺への態度も知人か友人に対するような感じ。けれども決して不快には感じない。そんな人。


迎撃に出る前に軽い自己紹介を受けた時は気づかなかったが、どうやら彼も獣人のようだ。ふさふさの尾が生えている。



「御武運を!」



カーニスさんが再び下がり、後方の隊列へと戻る。


それを確認し、ハルバードを小脇に抱えたメリアを乗せたワイバーンが単機、敵軍へと飛んでいく。



これがその戦闘前の作法。空戦では必ず行われる前交渉。



空戦はどう争っても正面衝突になり双方に甚大な犠牲を生む。


だから戦闘前に交渉するそうだ、自分たちの優位を語り我々に降伏しろと。


けれども、当然ながらそれで収まる場合は余り無い。圧倒的な差でも引けない争いは多々有るからだ。


だからなのか知らないが、まず最も操竜に長けた隊長級の騎兵が交渉に向かい、決裂すれば即最高の騎兵同士での決戦を行う。


ここでどちらかが堕ちれば指揮官級、もしくはエース級を失い意気消沈、敗走か降伏へ、と言う訳だ。



だからこちらはワイバーン隊の隊長達で無くメリアが行く。確実に勝つ為に。



…ちなみに俺が行けないのは色々分からないので交渉出来ないのと、セバスさんとの相乗りだからだ。


…情けない。もう一度思う。いつか一人で乗れるように成らなければ。



そう考えながら俺も鞄から袋を取り出す。ずしり、と重い袋がジャラジャラと音を立てる。


中身はつい数時間前に手に入れた<世界の欠片>。


まさか早くも使用する事になろうとは。


着いた早々迎撃に向かう事になった事といい、なんというタイミングの良さか。つい苦笑してしまう。



今回の戦闘での作戦は至って単純。交渉決裂後俺が範囲魔法を撃って敵を減らし降伏を迫る。全隊は突入せず迎撃に徹する。それだけだ。



「なるべくは殺したく無いので、突入してくる部隊を一撃で落とし、尚且つ継続して使用できるような魔法を使う。巻き込まれないよう敵と出来るだけ距離を取ってくれ。」



と説明してある。


なるべく殺さない、と言うのは俺の意思でもあるが、ソフィーたってのお願いでもあった。


だから、なるべく守ろうと思う。


二人の隊長達はメリアに説明を受け作戦内容を聞いたとき「空で範囲魔法を? 何を言っている?」と渋ったが、俺の髪と目を見て納得してくれた。



「少し前に出ます。後は作戦通りに。よろしくお願いします。」



背後の2、3番隊隊長、それにカーニスさんに話しかけ、セバスさんにワイバーンを前に出してもらう。


<攻撃魔法>の発動時にあまり近くに居ると巻き込み兼ねない。


相手も何騎かがやや前に出て来ている。構わないだろう。



そうこうしている内に両軍の中央で合流した二騎のワイバーンが円を描くように飛び始める。


交渉が始まったのだ。



内戦の火蓋が切って落されようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ