1-3<女風呂>
「そろそろ魔力が戻った感があるのです」
ユート達が上がり、入れ替わりに入ったお風呂の湯船にへたりこみ、
顎先までどっぷりとお湯に沈めたソフィーがぽつり、と呟いた。
「?」
『んぉ?』
髪を解き湯船の外で手入れしていたメリアと、湯船に魔法で浮き輪を作り、それに寝転びぷかぷかと浮かんでくつろいでいたマールがその声に反応して揃ってソフィーの方を見、? と疑問符を浮かべる。
途端に軽く目が合い、ソフィーの思考がずれる。
…どうしてこの二人はこうもケロっとしていられるのでしょう?
前もって「ユートは初めてらしいしとりあえず試しにやる。」と聞いていたとは言え、あの飛行は私には荷が勝ち過ぎました。
早々に失神し、後々聞いた話では、およそ1時間近くも続けた、という話。
…だというのに、どうしてこの二人には全く疲労感が無いのでしょう? 私は目が覚めた後の普通の飛行ですら疲れてしまったのに……
どこかこう、理不尽さを覚えます。
…いえ、今はそういう話ではありませんでしたね……
軽く頭を振って、思考を最初の話題へ戻す。
「いえ、以前かけていただいた<魔力強化>から5日ほど経ちますので、減少した魔力が回復した感が…」
「<魔力強化>?」
『おお? おお! 言われてみればそうじゃの。おんし魔力の回復が速いのう』
「そうなのですか?」
『妾はまだ1割も戻らんぞい…』
…マールはお姉様の治療やら尋問の時などこの姿のまま結構魔力を使用していました。
ロクに回復できていないのも仕方ないのかもしれません。
「それは…すみません…」
自慢してしまったような気分になってしまい、思わず謝罪をしてしまいました。
『謝らんでも良い。そうじゃの、風呂から上がったらユートに次をかけて貰うとよかろ。メリアもな。』
「私も? 何をだ?」
「<強化魔法>ですよ。」
『存外鈍いのうおんし…』
くすり、と笑いをこぼす。
久方ぶりにお姉様が呆けました。
叔母様達が心配するのはこういう所。戦闘以外になるとよくよく抜けてしまう人なのです。
「おお! <強化魔法>か! そういえば言っておったな。ユートと閨を共にするには必要だと。」
「…そうなのですよね。ですから私もまだユートさんとは唇ぐらいしか」
そっと自分の唇に指で触れ、なぞる。
あの初めての夜から、もう幾度となく交わした感覚を指先で再現しようと、押さえ、つぶさに思い出す…
「…ほう、唇は済ませてある、と。フフフ、良い事を聞いた。後で私もユートの唇をいただくとしよう」
と、私の言葉と仕草を見て、お姉様が不敵な笑いを浮かべました。
お姉様は「まずはソフィーが。ソフィーが済ましたら私は遠慮せず同じ事を行わせて貰う!」
と妙に真面目に拘ったような事を言って、実際にユートさんには抱きつく程度しかしていませんでした。
お姉様らしい、と言えばそうなのですが…
…なんだかもやもやします。
先ほど感じた理不尽さに対する物とは明らかに違う、それでいた以前にも度々感じていた感覚。
何か胸元がもやもやしてすっきりしないような……
『ふむ。しかし考えてみればそろそろ問題じゃの』
「問題ですか?」
「問題? なにがだ?」
もやもやしているとマールが深刻そうな声を出しました。
『うむ。問題も問題、重大な問題じゃ。』
「そんな…」
「一体何が問題なのだ?」
重大。さらにマールの声が低くなり、緊張が走ります。
『妾らがここに召喚されて既に17日が過ぎておるのじゃが…』
「そうですね」
「もうそんなになるんだな」
『その間ユートは一度もヌいておらぬ!!』
「「………」」
「「あの……」」
ざばん! と音を立てわざわざ水面に立ち上がり、マールがはっきりとした大声で言いました。
…正直、どう反応したら良いのか分かりません。
『中身はともあれユートの体は健全過ぎるほどの17歳男子! パトスが迸って仕方が無い筈じゃ!!』
「そ、そういうものなのですか?」
「情熱が迸る?」
『つまりピーにピーがピーしてるのでピーをピーしてピーーーーさせてやらねば暴走してしまうお年頃なのじゃ!!』
「「・・・・・」」
余りにも直接的な表現にお姉様と二人揃って耳まで真っ赤に茹で上がりました。
いずれは、そういう関係にならなくてはいけないのですが…、人に言われると恥ずかしいのです。
『これ、何故そこで押し黙り赤くなっておるか』
「いえ、流石にちょっと…そうはっきり言われますと…」
「あぁ、これで私も生娘なのだ…恥ずかしい。」
『このおぼこ娘らめ…! やるのはおんしらなのじゃぞ!?』
「おぼっ…」
「………」
『そうじゃの、折角の機会じゃ。策を練ろうぞ。おんしらも否とは言うまい?』
「それは、確かに…そうなのですが、その、私もそういう経験は御座いませんし…知識も殆ど…どうしたらよいのか…」
「私もだ…皆目見当も…」
『フ、フ、フ、案ずる無かれ。ことに及ぶに至っては妾も参戦する。じゃがこの体じゃ。主に指導に回ろうて。おんしら二人がユートに奉仕するのじゃ』
「ユートさんに私達の体でご奉仕…」
「お前が言うと後で痛い目にあう類の甘美な誘惑の罠に聞こえがちなのが不安なのだが…」
『大体合っておる。気にするでない。よーし、そうと決まれば作戦会議じゃ。』
「よろしくお願いします…!」
「悪魔の囁きに聞こえてきた………」
『二人とも良い返事じゃ。ではまず…』
会議の決が出、その場で出来る下準備と軽い練習を済ませたころには、
私とお姉様は完全にのぼせてしまっていました。