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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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1-1<初めての空>

ワイバーン、それは空の足。


飛べる時間は日中に限られるものの、地形を無視出来、


直線距離でも同じ日数で馬の倍程の距離を移動することが出来る。


欠点と言えば、乗れる人数が非武装状態で大人2人程度、というぐらい


…らしい。


当初は街道を行き来する馬車か、馬でも買って行こうと思っていたアーリントンへの道のり。


それがメリア達と合流した事により、このワイバーンで行けることになったのだ。



勿論説明は、受けていた。


メリアは笑って「大丈夫、気持ち良いんだ。」と言った。


セバスさんは、「あまり揺れませんし、すぐに慣れますから。」と言った。


マールは楽しそうに『早く行こう』と言った。


俺もワクワクしていた。なんせ初めての空を飛ぶ体験だったから。



…でもソフィーは、乗る前から憔悴していた。


その時は、「ソフィーはワイバーン、苦手なのかな」と特段疑問に感じていなかった。



それもセバスさんの背後に跨り、固定具でセバスさんの体と自分の体を固定し、ワイバーンが浮上して数分だけだった。


ワイバーンの飛行は独特だった。まず翼を広げ、都合よく風を受け凧のように上昇する。


どうやらワイバーン自身が魔法を使って上昇に必要な風を起こせるようなのだ。


だがそれも途中まで。ある程度舞い上がった後は一切羽ばたく事無く翼の角度を調整し風を受け、


段々と、みるみると、どんどんと、高度を上げていく。



TVで飛行機からの眺めを映したものや航空写真とかを見たことはあった。


だが実際生身で高高度に来ると、違う。


もし落ちたら…と思うと緊張で胸がキュッとなる。


思わないように、思わないようにと考えるのだがそれこそが罠。


頭から、落ちた時のことが離れない。



自分は高所恐怖症ではない。そう思っていた。


しかしよく考えたら俺は飛行機に乗ったことが無い。


高層ビルに登ったことも無い。


東京タワーにも登ったことが無い。


標高数千mとかそういう高い山にすら、登った覚えが無い。



……ごめんなさい、正直、舐めてました。



怖いです。何処まで昇るんですかワイバーン。今高度何mなの。


また下を見る。


…もうアルモスの街が手のひらに収まりそうなぐらいに小さく見える程離れている。



「………何m上昇したんだ」


「およそ、6〜7000mですね。」



思わず零した疑問にセバスさんが答えてくれた。ありがとうございます。


いやいやいやいや、そういう問題じゃない、


富士山の2倍強(正確な数字を知らないから多分)は高いとか!!



「ど、どこまで昇るんですか?」


「そろそろ終わりますよ。」


「そ、そうなんですか…?」



そうこう話していると、ここまで一切羽ばたかなかったワイバーンが、


バサリと翼を羽ばたかせ、そのままややすぼめるようにして畳んだ。


ふーーーっと体重が軽くなる錯覚を覚える。


降下を、始めたのだ。


だが相対して速度を計るものはない。


風も魔法で空気の膜を張っているようで、少し強い程度にしか感じない。


近くにあるのは隣に並んで飛んでいるメリアとソフィーの乗ったワイバーンのみ。



『なかなか賢いの。搭乗者の意図をきちんと汲み取って必要な分の一度の上昇で済ます事で、魔力を無駄に使わないのじゃなこやつらは。』


「そうなんだ…」



マールが俺の懐から話し掛けて来る。


昨日ワイバーンに乗るに当たって、「魔法である程度はカバーするが、それでも上空は寒い。」


と言う説明を受け、外套を購入し、着込んでいた。


その外套の懐へと上昇し始めてすぐ『落ちたらたまらぬ』といつもの頭の特等席から降りたマールが


潜り込み、手と顔を覗かせてこちらに話し掛けて来ている。



――ということはこれからは下降し続け…


と、思った傍から再び翼を広げ上昇し始めるワイバーン。何故ー!?



『加速したらそれを利用して上昇するのは常識じゃろう…』



呆れ声でマールが語る。


そんな常識ないよ!人の心を読むな!!



『ぷっくく…顔に出ておるよ』


「………私も見たい」


「マール、ずるいです…」



色々いっぱいいっぱいになっている最中、普通なら聞こえるはずの無い恨めしい声が届く。


視線を声を出した人物達の方へ向ける。およそ100mは離れたやや斜め前方。


そこにこちらを見つめる赤と青の髪の二人が見える。



おおお、声もちゃんと聞こえる! すごいな魔道具!



感心する。


それなりの距離を開け飛んでいるワイバーン上で声が聞こえるのは、<拡声の首輪>と言う魔道具の効果。


聞かせたい相手を想定し声を発すれば、その相手に声が届く。という便利なシロモノだ。


とは言えその効果が及ぶ距離は2kmそこそこで、遮蔽物が有ると届かないらしい。


だがその程度の欠点は便利さに比べたらあっさりと無視できる程。


ワイバーンに乗るなら欠かせない魔道具なのだ。



それをマール以外の4人は着けている。


当然ながらマールはサイズの合う物が無かったのだが、


首輪を暫く弄った後、『大体分かった。』と言ってそのまま問題なく遠話を始めてしまった。


…便利なものだ。



『…感心するのはよいが、声を出さねばあの2人には届かんぞ?』



そうだった。


だが、何を言えと。


怖いー! とか言うのは男の沽券に関わる。



「ふむ、どうやらユートは言葉も無いらしいな…」


「…わから無いでも有りません」


「どうでしょう? ここは一つ慣れて頂く為に例の飛行を試されては。」


「おお、新兵を慣らす為のアレか。いいな、アレは楽しい。」



セバスさんの提案にメリアが嬉々として賛成する。


なんだろう、アレとか言っているだけなのに恐ろしく嫌な予感がする!



「お、お姉様、ちょっとま…」


「続け! セバス! クルビット!」



言うが早いか、メリアの乗ったワイバーンがその場で後回りに縦回転して背後へと吹っ飛んだ。



「いやぁーーーーーーぁーーーーーーーー」



何故かドップラー効果を効かせながらソフィーの悲鳴が遠ざかってい…


どん、と衝撃を感じると同時に世界が回転した。


セバスさんも同じく縦回転したのだ。訳が分からない! 落ちる!? 死ぬ!!



「ぎゃぁああああああーーーーーーーーー」


『おおっ』


「口を閉じられる事をお勧めします。舌を噛みますよ?」



冷静なセバスさんの声が聞こえる。


この敏腕執事、何を考えている。いきなり何て事をするんだ!?



「バレルロール」



さらにメリアの声が聞こえる。もうどっちが上なんだ状態だが、声のした方を見る。


空をワイバーンが横回転して転がっていた。



「いーーーーーにゃーーーーーーぁーーーーー」



ソフィーの叫び声が続く。ああそうか、そういうことね。


ハードな飛行をしてそれに慣れれば大丈夫と、とそういうことですね。分かります。


分かりますが…



「無茶だろおおおおおーーーーーーーーー」


『わはははははははーーーーーーーーーー』



同じように横回転しだしたワイバーンの上で、聞き入れられる事の無い抗議の叫び声を上げた。

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