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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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1-0<五大家会談>

「何故ですか、アーリントン卿!」


王城の会議室に憤りを隠さない声が響く。


声を荒げたのは30台前半と、ここにいる面子としては最も若い、


くすんだ青髪に知的さを伺わせる眼鏡をかけた男。


バルナム家当主 グレイ=ミラ=バルナム



「理由は述べたはずだ。王女はまだ生きているという確かな情報がある、とな。」



静かに、だがはっきりと答えたのは、白髪交じりの赤髪を持った


見た目には50台そこそこだろう年齢だと言うのに、逞しい体をした初老の男。


アーリントン家当主 デュラール=ミラ=アーリントン



「ギルドから寄せられた妖精のネットワーク、というあの話ですね?しかし、私が調べた限りの妖精では『そのような話は知らない。』と言います。」


「それは聞いた妖精が不味かったのではなかろうか?妖精のネットワークは同種に限られると言うではないか。今回は<褐色の肌に金毛の半獣の姿の妖精>からの情報と聞く。…確かに私の方でもまだそう言った妖精は確認できていないが、フェルブルム卿は確認出来たと言うではないか。それに妖精は嘘は言わぬ筈だ。」


「うむ。我輩の兵が昨日同種の妖精を連れた男に出会い、聴取した。報告書もある。」



アーリントン卿に答えたのは、この会談の面子で最も異彩を放つ男。


猫科を思わせる顔立ちと、肉球まである手のひら。


全身を白と黒の縞模様の毛皮で覆って筋骨隆々、威風堂々とした巨漢の獣人。


フェルブルム家当主 レイモンド=ミラ=フェルブルム



「ですがもう既に20日も行方を晦ませたままなのですよ!?無責任に過ぎます!政務も法務も滞っているのです!そうですよね!?キャメル卿」


「あ、ああ…それにルーシア殿ではそろそろ誤魔化しきれそうに無い。一部貴族連中には既にばれておるし民の噂にもなり始めておる。」



話を振られ、まごつきながらも答えたのは恰幅の良い初老の男。


キャメル家当主 ガブリエル=ミラ=キャメル



「だから今全力を挙げて捜索をして居るのではないか。それに捜索にはメリアも加わっている。故にまだその決断を下すのは早い、と言っておるのだ。」


「嬢ちゃんが加わっているのは特に関係ないのではないか?親馬鹿か?」


「茶化すな、フェルブルム卿」


「ふぅむ、キャメル卿は何故かソフィーリア様の行動を知って動いていたようだしのぅ…それにアルモス卿の事もある。お隠れなされるのもいささかながら致し方も無かろうて。」



口を挟んだのは最後の一人、ここに居る面子の中では最年長であろう


老人、と言って良い年齢の禿頭の男。


フォワール家当主 ジェームス=ミラ=フォワール




部屋にある20名は座れるだろう円卓に座るのは僅かにこの5名のみ。


さらには護衛の者すら居ない。


それだけ機密性が高く、それだけお互いを信頼している。


これはそういう場。



王下五大家会談。



定期的に行われていたそれは、


本来重要役職に就いている5大家の当主達と王・王妃による会談で、


ある程度の事を決めて置き、その後王国議会を通し、国の方針を決める。というもの。


…勿論いざ決を、という所で議員である各所領の代表者が反対する事はある。


だが五大家の権限は強い。この会談で決まった事が国の方針になるのはほぼ、いや実質確実なのだ。



そして今回も粗方の諸問題を検討し、


今回の主題である「王女失踪とそれに伴う国政の問題をどうするか?」


という議題を議論している最中であった。



「うむ。アルモス卿の件は実に問題だ。捜査局の集めた資料には先王暗殺に王女誘拐計画まで企てておった、という報告がある。キャメル卿、本当に関わってはおらんのだな?」



アーリントン卿が、念を押すように確認する。



「誓って関わっておらぬ。それはメリアルーナ殿も認めてくれた。ワシはただアルモス卿に<召喚魔術>決行の話を聞かされて兵を派遣したまでだ。」


「ふん、わざわざ完全包囲で、な。」



キャメル卿が答え、フェルブルム卿が吐き捨てるように補足する。



「それは念を押したに過ぎぬ!過激派が居るやもと聞いてはもしもの時拉致されてしまわぬよう包囲しておく必要があった!」


「だが、そんな中王女は消えた。」


「そうです、そして<召喚魔術>の成否は限りなく失敗だと思われると言うでは有りませんか。」


「然り」


「ですから、限界だと申しているのです。現状の王家の犠牲に頼った体制ではこの国が維持できない、と。」


「それで、『王家の血筋に頼る事の無い<時空の扉>の開放』をすると?」


「試案はあります!理論上は成功するのです!バルナムの技術にかけて成功させて見せます!」


「確かに、今は亡き老王も命じた事じゃが…わざわざ魔力量に優れる王家を抜きにする必要はなかろう?」


「もしも、の為です。そもそも王女が帰還されるのかもわかりません。」


「だから、王家には政から離れてもらう、と?」


「そうです。もう限界なのです。今代のソフィーリア様は歴代の2/3程度しか魔力が御座いません。そして召喚に失敗した、となれば別な男を伴侶にするしか有りません。それでは王家が乗っ取られてしまいます。さらには血が薄まる事でますます魔力が減り<召喚魔術>が使えなくなった王家では、内外に対して抑止力足りえません!」


「一理はある。」


「まぁその通りじゃの。じゃが、早急すぎるんじゃ。まだ行方も分からず成否も不明なんじゃぞ?流石にそんな状態でそれを決定する訳にはいかぬ。」


「ですがもう既に20日も経っているのですよ!?」


「…議論が堂々巡りしだしたの。そろそろ、一度決をとるかの?」



ため息を吐き、最年長のフォワール卿がそう提案する。


細部は違うが、ほぼ同じ応対が既に何度も繰り返されていた。


普段の会談ではここまで紛糾したりはしないのだ。


やはり王か王妃が居ない状態ではどうも上手く纏まらない。




「異論は無い」


「構わない」


「そうだな」


「…」



「バルナム卿?」


「これでは、通らないのが分かりきっているではないか。」


「何故、そう思うんじゃ?」


「貴方達は私の話を聞いてくれない!若造が言うことだ、と言わんばかりに頭ごなしに否定するだけではないか!」


「そうは言っておらぬ。時期尚早だと言っているだけだ。」


「うむ。我輩は正直どちらでも良い。どう決まろうと全力で混乱を避けるために尽くすのみだ。」


「ワシは限界だ、と考える。これ以上の政務の滞りは看過しかねる。せめて一時的にでも権限の移譲の許可を頂きたい。」


「十分考慮に値する提案じゃの。」


「それには賛成できる。」


「必要だろうな。」



「まるで話しにならない!!私の話だけ聞く気が無いのではありませんか!!」



再びバルナム卿が紛糾する。



「だからそうではない、と」


「少し落ち着いて考えるんじゃ…皆きちんと聞いておる。だが貴公の案は性急過ぎるのじゃよ。」


「今、決めないと間に合いません!既に情報は国外に漏れていておかしくないのですよ!?」


「だから一時的にだな…」


「何故分かってくれないんだ!資料もお渡しした筈だ。『<時空の扉>の開放』は可能だと。」


「それは貴公が独自に進めてもよいのではないだろうか?保険は有った方が良いだろう。」


「…まぁ、それに関してはワシの方でも予算を何とか捻出できる様動くのもやぶさかではない。」


「では!」


「じゃが、王家をわざわざ政務や法務より外す必要は見当たらぬの」


「…確かに。」


「然り。」


「その件は一時的に許可しようではないか。王女がお戻りになられたら返せばよかろう。」


「それがいい」


「異存は無い」


「助かる」


「…分かりました。話し合っても無駄のようですね。否決するのは見えています。私の提案は取り下げさせて頂くので、残りの採決と決行をお願いします。」


「では、まずは王家の政務と法務を一時移すと言う話じゃ、政務はワシが一時引き受けよう。元々ワシの補佐する領分じゃしよいじゃろ。」


「…うん?ああ、いや、構わない。」


「異存は無い」


「お願いしよう」


「賛成します」



「ついで法務じゃが…」


「我輩は避けるべきだな。警務と法務が重なってはまずかろう。」


「そうだな。ならば陸、海軍を受け持つ私と空軍を受け持つバルナム卿もまずかろう。ここはキャメル卿、貴公に頼めぬか?」


「承ろう」


「爺も賛成じゃ」


「賛成します」


「異存は無い」



「他に案件はあるかの?」


「私には無い」


「ワシも無い」


「我輩も無い」


「爺もこれといって無いぞい」


「……」


「バルナム卿?」


「時間です」


「何の…」



そうアーリントン卿が問いただそうとしたのと同時に、


ドンッと会議室の扉が外側から粉砕され鎧を着た兵士がなだれ込んだ。



「これは!?」


「なんじゃ?」


「何事か!?」


「ひぃっ」



「打ち合わせ通りですね、セバス。」



驚き身構える4人と対照的に、バルナム卿が一人だけ冷静になだれ込んだ兵士達の中央に立つ糸目の執事に話しかける。



「当然でございます。それから旦那様?前々から言っておりますが、私の事はレキ、とおよび下さい。」


「…そうでしたね、レキ。」



「バルナム卿!これは何だ、どういう事だ!?」


「貴方方の身柄を確保させて頂きます。」


「何を、言っている?」


「バ…バルナム卿?」


「よもや、クーデターとでも?」


「我輩をたかだか歩兵程度で抑えられるとでも思ったのか?」


「ただの歩兵ではありません。新しい特殊兵です。」



そう言うバルナム卿が両手に着けた腕輪に手をかざすと、腕輪が淡い光を放つ。



「魔道具か?」


「貴様、それは、まさか」


「フェルブルム卿?何か心当たりでも?」


「?」


「ご紹介しましょう。我がバルナム家の技術の結晶、<人工人型>です。」



なだれ込んだ40程の兵の大半が次々とヘルムを取る。そこに頭が、無い。



「<人工人型>だと?」


「まさかモンスターを?」


「そんなバカな…操っているのか?」


「やはりアルモス卿の使った魔道具の出所は貴公の所だったか…」


「抵抗は無駄です。分かっているでしょう?」


「<人型>としては最も小さいサイズですが、それでもモンスターです。さらに旦那様を殺めたり、昏倒させてしまえば<人工人型>は自由になり、あたり構わず食い荒らします。はい。」



バルナム卿が諭し、レキが補足する。



「くっ」


「チェック、メイトですよ。」



4人とも理解している。室内は兎も角室外は厳重な警備体制だったこの部屋になだれ込んだと言うこと。


そしてクーデター、と言うことならば同時に王都、王城の各所も制圧している筈。


例え目の前の30体程の<人口人型>を倒せたとしても、どうにもならない。


…そもそも、倒しきれるものではない。



「ここで無為に死ぬ訳にはいかんの…安全は保障してくれるのかいの?」


「保障しましょう。暫く監禁させて頂きますが。」


「ぐぬぬぬぬぬぬ」


「フェルブルム卿、短気は起こされるな…あの数ではどうにも出来ぬ。」


「分かって…おるさ…」


「では彼らを捕縛してください。それから客室を用意して軟禁するように。ああ、武装解除は不要です。」


「了解致しました。」



そう言ってレキが合図をすると、ヘルムを取らなかった兵士達が前に出て手際良く4人を拘束する。



「これから、どうするつもりなんじゃ…」


「知れたことです。ソフィーリア様が帰ってこなければ私の提案通り、王家無しでの国家体制を作ります。帰ってくるなら交渉し、王家には退いて頂きます」


「何故執拗に王家を失墜させたがる…貴公は王家が憎いのか?」


「先ほど散々説明しました。今更答える必要を感じません」


「な、内乱を知られれば諸国がこぞって攻めて来るぞ!どうする気なんだ!」


「フフフ、それこそ愚問、と言う物ですよ。ただの人の軍隊が<人工人型>の軍に適うとでも?」


「そこまで見越しての強行か…」


「貴方方には是非考えを改め賛同してもらいたい物です。私一人では国政はまま成りませんしね」


「「「「………」」」」


「連行しろ」



兵に連れられ4人が部屋を後にする。


頭は抑えた。<人工人型>と言う脅しもある。他の制圧部隊もさしたる抵抗も無く成し遂げられるだろう。


ここまでは全て計画通り。


さぁここからだ。この醜く歪んだ王国は私が正しく作り直してやるぞ、イリア。


ばさり、と金色の竜翼が刺繍されたマントを翻しバルナム卿も部屋を後にする。


やるべき事は山積みなのだ。

おっさんが5人もかしこまって喋ると、区別がつかなくなって大変です…


本編では説明の機会がございませんのでここで補足を。

この世界の王国、諸国の政治体系はおおよそ戦国大名の時代のそれに近いです。(将軍家は有りませんが。)

ですので、これまでも貴族、貴族と言っても爵位等の階級的な話は一切出ませんでした。

そして王家の少子化もあいまって、一族衆からなる「一家中」構成から、譜代の家臣である五大家を登用した「家中」による家臣団が国政を担う、という政治体制に移行した…という所が現在のこのベルム王国の政治形態になります。

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