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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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0-0<胎動>

王都にある、とある大家の別邸。


その邸宅の最も奥まった所にある、寝室。


厚手の遮光幕が引かれた薄暗い室内には薬香が焚かれ、


慣れないものならばむせ返る程の臭気が充満している。


そこに居る人物は3人。



寝台に横たわり眠る女性。


その女性を診察している医師。


そしてその背後で椅子に座り、見守る男。



「…どうなのですか?」



医師の動きが止まった所で男が口を開いた。



「ここまで進行してしまっていては…残念ながら、手の施しようがありません…」


「そう、ですか…」


「治癒魔法で進行を遅らせて来たようですが…」


「はい、もう4年になります」


「初期治療が施されなかったのですね…」


「…その通りです」



沈痛な会話。だがそれも仕方の無い事。


寝台に横たわり眠る女性は、傍目に見ても深刻なまでにやせ細り、顔色も悪い。


ともすれば死んでいるかのように見える。


…それでも、彼女はまだ死んでは居ない。



「……後、どのぐらい持ちますか?」


「このまま治癒魔法を維持しても1年…いえ、半年と持たないと思われます。」


「そう、ですか…」


「残念ですが…」


「いえ、ありがとうございました。遠いところを遥々御足労いただきまして…」



男が立ち上がり、医師に礼を述べる。



病は、治癒魔法では治らない。


そもそもこの世界の常識として、病とは


「何かしらの原因、元凶となるものが体内にあってそれが体を蝕み続ける」という事なのだが、


それらをなんとか出来ない限り、基本的に蝕まれた体を治癒魔法で癒し続ける程度しか術が無い。


勿論それで治るものも多く、民間にも常識的な治療法なのだが、


当然ながら、モノによってはそれでは完治しないものがある。


運悪くそれを患った場合、癒しても、癒しても、徐々に病による傷は広がり、いずれ限界を迎える。



だからその原因をつきとめ、取り払う為に男は高名な医師を何人も招いた。


病気が如何なるものかは、最初の数名であっさりと判明した。だが、遅すぎた。


進行した病状は、彼らでは既に治療する事ができなくなっていた。


そして今日診てくれている医師は、隣国から呼び寄せた医師。


だが…今回も駄目だった。



「御代は家令に持たせてあります。後ほどお受け取り下さい。」


「お力になれず申し訳ない…」



医師が幾つかの薬を男に手渡し、部屋から出て行く。


受け取った薬を見つめる。


説明は受けた。気休め程度にしかならないだろう。



寝台に眠る女性に近づく。


その寝顔は痛々しい程に病的だが、安らかでもある。



頬に触れる。


暖かい。



彼女がこうなったのは男のせいでもある。


直接の原因だった相手は、報いを受けさせた。


だが、男の考える報いを受けるべき相手は他にも居る。


だから男は振り向きもせず医師と入れ替わりに入ってきたであろう男に語りかける。



「セバス、居るんだろう。例の件の進捗はどうなっている?」


「はい、魔道具、特殊兵共々予定の数に達しています。調整も済み、一次配備は終えました。それから、何度も申しておりますが私の事は『レキ』とお呼びください。」



若い男の声が返ってくる。憤りは無いが、はっきりとした訂正付きで。


また、間違えてしまったようだ。


この男との付き合いももう5年になるのだが、


自分つきの執事がセバスチャン以外で有った事が無いのでついその名を使ってしまう。


この男もその称号が気に入らないという訳ではないのだが、その名で呼ばれるのは嫌う。



…自らの名に誇りと拘りのある種族なのだろう。



この男意外の同種族の人物に会った事が無いので、


その推測が正しいのかは分からないが、それも致し方ない。


彼は、現在の全人類種族で一番の希少種なのだから。



「…すまない、そうだったな。そうか、では後は私が腰を上げるだけ、か」



気を取り直し、返事をする。



「はい、お嬢様も既に出立の準備を終えています。」


「フィオも、か…」



4年間、彼女がこうなった事を知ってから秘密裏に準備を進めていた。


踏み越えてはならない一線など、とっくに踏み越えた。


そして、彼女の命の火が消える前に、全ての準備は整った。


偶然なのか何かはしらないが、王女が失踪した事で全てが、整ってしまっていた。



…では、始めるか



「五大家会談の結果次第で強行する。私の合図で決行だ。指揮は頼むぞ、レキ」


「承りました。」



結果次第、と言いつつ会議の結果など分かっていた。


私は道理の通らぬ事を提案に行くのだ。


通らない道理を通す為にする事など決まっている。



「行って来るよ、イリア。」



そっと頬を撫でていた手を離し、寝台から離れ、踵を返して歩き始める。



「旦那様、マントを。」



レキがそう言い、背後から私にマントをかける。


さっと止め具で衣服に止め、翻す。


紺地のそれに金色の糸で大きく刺繍された家紋が目を引く。


遠目にも分かる、竜の翼を模した紋章。


王下五大家の一角である証の金竜紋。その一つである金色の竜翼が男の背で翻っていた。

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