7-1<追跡者>
『そのまま、一切動じる事無く聞くのじゃ。』
鍛冶屋を後にし、宿までもう少しという所までたどり着いた頃に、マールの真面目な声が届いた。
(…どうした?)
訝しげに返答する。
『おんしら、尾行けられておる』
(…そうか、どうする?)
『妾が無力化する。おんしは一気に確保じゃ。』
(分かった。距離は?)
『およそ200m後方、振り向かず右側、振り向いた後は左じゃ。妾の術で即効で昏倒させる、倒れたヤツを攫えばよい。』
(…魔力は大丈夫か?)
『足りぬ。おんしのを借りる。』
(分かった。)
『では、やるぞ。5』
頭の中で打ち合わせを終える。準備をしないと…
「メリア、ちょっと悪いんだけど手を離してくれないか?」
「何故、だ?」
『3』
「緊急事態。お願い」
「………わかりました。」
『2』
なんでそんな泣きそうなの!?困るんだけど!?
………い、いや今はそれどころじゃない、やるぞ。
『1』
体内で疾走するための<強化魔法>を活性化する。行ける。
『GO』
ドッっと地面を蹴って走る。気配を確認して通行人の位置は大体掴んでいた。すりぬける。
目的の人物らしき人が痙攣し、地面に吸い込まれる用に体を傾ける。倒れ伏すその前に、攫う!
小脇に抱え、一気に掻っ攫い反転、宿にたどり着いたところで減速。この間約5秒。
何が起こったのか分かっておらず、俺が居なくなって戸惑っていたメリアとオサを追い抜き、入り口の中から手招き。
宿の1階を見渡すと食事時のせいか、人が多い。仕方ないのでそのまま宿泊している部屋に運ぶことにした。
「おかえりなさい、ユートさ…ん?」
部屋にはソフィーとマールがいた。
ソフィーが俺が小脇に抱えた人物を見て困惑する。
『首尾よく捕まえたようじゃの。バックアップ要員らしき連中も混乱しておる。おんしを目撃できた者は恐らく皆無じゃろう。』
「そっか、ところでマール、お前何を?この人なんだかすごい泡吹いて痙攣してるんだが…」
あと何かすごい笑ってる。目の焦点も合ってないし…有り体に言って怖い。
『何、ちょいと<バッドトリップ>をしてもらったんじゃよ。』
「…なんだか響きからして後遺症とかが怖い感じなんだが…いいのか?」
『1回や2回やるぶんには効果をきちんと抜いてしまえば問題なかろうて。』
…聞けば聞くほどよろしくない薬を使ったような感じに聞こえる。
本当に大丈夫なのだろうかこれ?
「あの、それで、どういうことなのですか?そちらの方は?…特課兵の方のようですが…」
言われて小脇に抱えた人物をきちんと見る。
男、小柄、薄めの茶色の髪。頭の頂点にウサギみたいな耳。…ご丁寧にズボンからは丸い尾が出ている。
そしてアンディさんと同じ制服。
「…みたいだね。どうする?」
『しれたことよ。 尋 問 じゃ !』
なんでそんなに楽しそうなの…?