5-2<事情聴取2>
アンディさんに案内されて着いた先は、アルモス卿の邸宅前だった。
…取調室とかでないの?
勝手なイメージではあるが、なんだかテーブルが1個だけ置かれた狭い目の個室でライトを当てられて
「さぁ吐け!お前がやったのはわかっているんだ!!」のイメージだったのだが。事情聴取。
どうやらそうでもないらしい。
こちらでお待ちください。と言い残しアンディさんが既に待っていた同じ制服を着た人物の元へ向かう。
とりあえず待つか。と思い周りを見回したところで聞き覚えのある声が聞こえた。
「おお、ユート。やはり貴方も呼ばれたか。」
「おはようございます。ユート様、オサ様」
声の聞こえた方に視線を巡らせる。
メリアとセバスさんも先に来ていたようだ。
「よぉ、あんたらも早いな。」
「おはようございます。メリアさん、セバスさん」
挨拶を交わす。昨日の夜も思ったが、メリアの物腰が最初に出会った頃の感じに戻っている。
若干の寂しさを覚えながらも安堵する、良かった。
「おはよう。それと私の事はメリア、でよい。他人行儀な「さん」ずけはしないでくれ。」
「そ、そうですか…わかりました。メリア…」
「うむ。」
「…」
そう思ったのもつかの間、いきなり訂正を求められ、答えると満面の笑みを浮かべそのままじっ……と見つめてくる。
…何故だろう。なんとなくおあずけを言われて待っている犬のように見える気がする。
やはり変わったのは口調だけで変わってない?
俺の背中を冷たい汗が流れる。大丈夫なのか?この取調べ?
「で、どーすんだよこれ?どう説明する気なんだ?」
「お、っと、そうだな。とりあえずはありのままを、だな。だが全てをここではだめだ。この事件は色々とまずい事が多い、もっと機密性のある場所でないと…」
「あ?マジかよ…オレそんなのに巻き込まれたくねぇぞ…」
「大丈夫だ。オサ殿はそういう類のものは何も見ていない。見たままを話してくれれば構わない。」
「本当かよ…それなら良いか?…面倒な事にならなけりゃ良いが」
「俺の事は?」
「そちらもあった事やった事はありのままで、素性や異常な事はごまかしてくれ。それと、念のためその頭の事も秘密だ。」
「分かった。」
素性に頭、つまり<召喚されし者>という事もまだ秘密にするようだ。
「では、もういいな。セバス、<防音>解いてくれ。」
「はい。」
パリンと、周囲で見えない何かが割れた感じがした。
どうやらいつの間にか結界系の魔法を使用していたらしい。
「もうよろしいので?」
先ほどまで同じ制服を着た人達と話をして、書類を受け取っていたアンディさんがこちらにやってきて話しかける。
「あぁ、打ち合わせは終わった。それと、ここでは全部はだめだ。事は確実に国家機密に関わる」
「…穏やかでは無いですね。では、その件の詳しい事は詰め所の部屋を借りて話しましょう。ここでも<封鎖>と<防音>と<防諜>の結界を張っていますので大丈夫ではありますが。」
「ああ、分かった。重要な所は触りだけにしておこう。念を押しておくのは悪い事ではない。」
「ありがとうございます。では、まずは何が有ったか、なのですが…」
「最初から話した方が良いか。そうだな、実は私は王女失踪事件を知っていてもたってもおられずお父様に直談判をしてな…」
「お嬢様、私が説明いたします。流石にそこからでは長すぎます。」
「…………任せる。」
メリアが本当に最初っぽい事を言いかけた所で、セバスさんが止める。ナイスフォロー。
…だけどなんだか微妙な空気になってしまった。アンディさんも苦笑いしている。
「昨日の夕方ごろ、我々はアルモス卿の帰参を知ってこちらに出向いたのです。そしてその時アルモス卿はおらず、息子のマルナス様が、そこの馬車の前におりまして…」
セバスさんの説明が始まる。長い話になりそうだ。
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「なぁ、おい、おまえメリアの嬢ちゃんトコに行け。」
「なんで?」
「わかんねぇのか?来てからずっとチラチラチラチラ見てんぞ?」
「…そうだね」
むしろたまに余所見するだけで基本的にはじーーーーー、と凝視されている感なんだが。
「ついでに慰めてやれ。あんなぶすくれられてたらいつ火事になるかわかんねぇ」
「わかったよ。」
「大丈夫だ。心配すんな、お前の言う事には逆らわないって。」
「…」
…そういう問題じゃないんだがなぁ。
とりあえず、メリアの隣に行く事にした。