3-7<人型6>
メリアがおかしくなってしばらくして、セバスさんがやってきた。
着ていた燕尾服がパリっと直っている…のでは無く着替えたのか。
流石敏腕執事、これ以上隙は見せないというのか?
そんなセバスさんも治療中メリアの様子を見て眉を顰める。
「お嬢様、そのお姿は些か問題が御座います。一度、宿に戻り、着替えを致しましょう。」
「嫌、ユート様の元を離れたくありません。」
即答、だった。空気が凍り、冷や汗が流れる。
「では、せめてその毛皮でなくこちらをお使い下さい。」
そう言って自分の鞄からばさりとマントを取り出す。色は真紅。…派手だ。
「嫌、ユート様がくださった物ですもの。そんな物とは交換したくありません。」
にべも無かった。
セバスさんが、汗を掻く。おお、焦っている。だが、そう思う俺も汗を掻いている。ダラダラと。
「ユート様?これは?」
セバスさんがキリキリキリとこちらを向き質問する。何が、どうなっているのですか?これは誰ですか?
そんな風に顔に書いてあった。
「俺に聞かれても、困ります」
『ユートにホレたんじゃこの娘』
「一発KOで、こうなった。<狂乱の火炎使い>とか言われてたのにな…」
セバスさんが納得半分、困惑半分と言った顔でメリアに再び向き直り、口を開きかけたところで、
『肌は完了じゃ』
マールが言った。
「こっちは血管と内出血と神経辺りは粗方繋いだが、筋肉と筋と骨折とその他諸々がまだ途中だ…」
オサが続く。治療は難航しているようだ。
ちなみに俺も手伝っているのだが、やはり一番下手なのでサポートに徹していた。
「では私が骨を請け負いましょう。」
「そりゃ助かる。」
セバスさんが気を取り直して言う。そして分担して治癒を始める。
『これからどうするんじゃ?』
「とりあえず宿に戻らないと。もう夜だし、心配してるだろうし…」
「そうだなぁ…でも、嬢ちゃんがコレ見たら血の雨が降りそうだぞ…?」
そうなのだ。ソフィーが怖い。
『だが、の。こうなってはどうしようもないじゃろう。ありのまま見せて、おんしが強気で押して説得すればあやつも折れる。頑張るのじゃ』
「そんな無茶な………」
押しに弱い事に定評が付きそうな俺に、あのソフィーを押して説得しろ、という。
無茶にも程がある。そう思った矢先だった。
「押して…いやいっそ押し倒せばなんとかなるんじゃねぇか?」
オサがしれっとえらい事を言う。
何を言い出すんだ、この見た目幼女は!?
「私は何時でも押し倒して頂いて構いません…」
頬を朱に染めて、メリアがもじもじと言う。
何を言い出すんだ、この人格崩壊女は!?
『それはまずいの、今の状態で押し倒せばこやつは相手を殺しかねんぞ?』
「え」
「マジか」
「愛する殿方に抱かれながら死ぬのも本望です…」
「お嬢様…」
だめだ、この人、頭がダメだ。だが、何?俺が抱いたら相手を殺す?
「どいうことだ?」
『おんし事の最中に<強化魔法>の制御が外れて暴走するでは無いか。普通の人間では死ぬぞ。あれは。妾は魔族じゃから平気じゃったが。』
衝撃の事実だった。では、結局俺にはマールしか居ないという事か。
そうだ、最近急にモテたから浮かれてしまったが、俺にそんな上手い話が有る筈が無いのだ、
ごめんよ、ティーナ。俺、やっぱりダメなままだよ。
そこまで思い至って気づく。
「あれ…?でもティーナは平気だったような…?」
『それは<強化魔法>がしっかりかかっておったからじゃろう。ま、これからする為にも早くあの娘らにも<強化魔法>をかけてやるんじゃな。』
「ら」って言うなよ…
「お話の内容は良く分かりませんでしたが、ユート様にはやはりもう何人も良い人が居られるのですね…やはり私は愛人か情婦になりましょう。家も捨てます。」
「お嬢様!落ち着いてください!早まらないで下さい!」
「セバスさんの言うとおりだから!頼むから早まらないで、落ち着いて!?」
あっさりと爆弾発言を投下する。
なんだこれ、口調はほんとにソフィーみたいになってるんだが、もっとタチが悪い!!
「分かりました。ユート様がそうおっしゃられるのでしたら従います。」
超、聞き分けが良いんだけど、でもこれ、全然聞いてないよね、話。
「どうしたらいいんだ」
「頑張れよ」
『大丈夫じゃよ』
「お願いします。」
オサ、マール、セバスさんに三者三様の事を言われ、天を仰いだ。星が綺麗だ、完全に夜になっていた。




