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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第2章 合流編
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3-5<人型3裏>

私のほぼ全てをかけて発動した<魔槍ヴェルスパイン>を受けても、<人型>に致命傷を与える事は出来なかった。



屋敷囲いを砕き、突きぬけた所で限界を迎えた私の体はボロ雑巾のごとく投げ出された。


転がる私の視界に2人の通行人が写る。



「逃げろ…!!!」



逃げて、ギルドでも軍でもいい、この街ならば<人型>ぐらい倒せる人間は居るはずなんだ。


その人達を見つけて来てくれ。被害が広がらない内に早く!


そう思って悲鳴を上げる全身を酷使し、必死に叫んだ。



だが、視界に映った人物は何を思ったのかこちらに向かってくる。


馬鹿野郎、私を助けようとでもいうのか?状況が分かっていない。


だが、私の元へと向かっていたと思われた人物は途中で方向を変える。


その向かう先は、槍の刺さった、<人型>


相手が分かってない、何を考えている、死ぬぞ、逃げて人を集めるんだ。必死に叫ぶ、逃げろと。



「馬鹿、逃げろ!」


『そうもいかんのう』



<人型>に向かった人物とは別の方向から声が聞こえた。


まさか、もう一人もこちらに?視線を戻す。だが、白髪の小柄な人物は動いていない。



と、視線を放した隙に何か大きなものが地面を転がる音がした。


方向は、<人型>とそれに向かった男がぶつかったであろう場所あたり。


再び視線を巡らせる。男が立ってこちらを見ている。<人型>は?



そう思っていると男が自分の鞄から何かの毛皮らしきものを出して投げつけてきた。


動けない私は避ける事も、受け取る事も出来ない。


だが、何かがそれを受け止め、鎧と衣服を千切り取られ柔肌を晒していた私の体を覆い隠す。


目の焦点が合う。この、金髪褐色肌の半獣妖精は…確か。


そこまで思考をめぐらせ、先ほどの男に慌てて焦点を合わせる。まさか、まさか、


男は栗色の髪、中肉中背、そして刃渡り75センチ程度の両刃の剣を両手で握り何かを睨みすえている。


…間違いなく、昼間ギルドで出会った青年、ユートだった。



「ユート?…無茶だ、逃げろ、あれは<人型>、<鎧付き>だ!!一人ではだめだ!!」



叫んだ直後、ユートが居た場所に私の槍が叩きつけられた。と、同時に<人型>が私の空けた穴に飛び込んでいく。


先ほどの一撃をかわしたらしいユートもその後を追っていく。


いつ、かわした?見えなかった。だが、戦ってはダメなんだ。頼む逃げてくれ。頼む、死なないで。



『やれやれ、重傷だのう』



ユートに憑いていた妖精の声が聞こえる。何を、のんきなことを。お前の主人が死にそうなんだぞ。



「お、まえ……」


『少し黙れ。内臓は深刻で無いが手足の損傷が激しい。動かれると上手く治せん。急がねば失血性ショックで死ぬぞ』



そういう妖精を見る。暖かい光を放ち、治癒魔法を行使している。


こんな小柄な妖精なのに治癒魔法を行使できるのか。だが、私やセバスに比べるとかなり拙い。これでは動くな、と言うのも仕方ない。



「おいおいおい今の<人型>じゃねぇのか!?なんでこんなとこにいんだよ!…………てか…酷いな、大丈夫か?」



見た目10歳程度の白髪の少女がこちらに向かってくる。そうだ、アレは<人型>早く、人を呼んでくれ。



「そうだ、<人型>…だ。それも<鎧付き>……頼む急いで人を…一人では、一人では……」



懇願する。誰でもいい。早く、誰かを呼んで来てくれ。彼が、ユートが殺される前に。



「マジかよ、クソ、あのエロオヤジとうとうモンスターまで持ち込みやがったのかよ…」


「頼む、早く、ユートが殺される前に…」


『動くでないと言っとろう!血を上手く戻せん!!』



私はどうでもいいんだ、だから、早く…



「あぁ、マズそうだな。オレも手伝うわ。というかお前さん治癒魔法苦手だったのか?」


『妾はどちらかと言うと病とかが専門じゃ!大怪我を治すのは専門外じゃ!』


「そいつは…早く言えってんだ。」



「―Vinezg-le [m] misffeal Ceund ppouron'de ―」



白髪の少女も私に手を向け詠唱を始める。だから、私にかまってないで人を。



「―Blessth oa Curaiful―<治癒回生>」


「私はいい!早く…誰かを呼んでくれ!!」


「あー、心配すんな。いらねぇよ。」


「何を言って!!彼が殺されてもいいのか!!!」



治癒が少しは進んだのか、声が大分楽に出せるようになっていた。それに合わせて叫ぶ。



「うっわ、体の中出血だらけじゃねぇか。手足の骨もバッキバキだし。」


『おんしの方が上手いの。そちらは任せる。妾はこの綺麗な肌の傷を塞ぎ完璧に治すのに集中する。』


「おっけー任しとけ。」



「だから!!」



苛立つ、なんでこんなに暢気なんだこいつらは、馬鹿か!!



「いらねぇって。アイツ<甲盾熊>とタイマン張って勝つんだぜ?」


「は?」


『事実じゃ。』



何を言った?<甲盾熊>?神殿の北の森最悪のモンスターじゃないか?勝つ?何を言ってる?



思考が混乱しかけたところで轟音が聞こえる。


私がブチ抜いた屋敷囲いの横に何かが叩き付けられた。そしてその奥で私の槍を振り切った<人型>が見える。


つまり叩き付けられたのはユート?不味い、今の音からして相当な速度だ。直撃を、受けたと考える。


崩れる壁の下に栗色の髪をした人影が見えた。



「ユート!」



思わず大声を出す。あれでは無事の筈が無い。まさか、死んだ?嫌な予感が脳裏を掠める。


追い討ちをかけるように<人型>が飛ぶ。だが、違う、狙いはこっちだ。


飛び上がった<人型>が大上段から槍を叩き付けようとしている、よけ、られない。



「――――ッ!!」



声にならない悲鳴が漏れた。と、同時に私の目の前に誰かが割り込む。


さっき叩きつけられた筈のユートだ。あそこからここまで一瞬で来たのか?そんな、馬鹿な?


そして足を肩幅に開き剣を盾にするように構える、受け止める気なのか!?無茶だ!!!



ガアアアアンと金属をぶつけ合う甲高い音が鳴り響く。



「ヒッ」



潰された、死んだ、と思った。皆纏めて一撃で潰されたと、思った。


だが、受け止めていた。<人型>の、<鎧付き>の、私の槍を折曲げる程の渾身の一撃を。


両足が地面にめり込んでいる。だが、受けきった。私の拳を止めるのとは桁が違う一撃を、止めた。


常識が悲鳴を上げる。理解が、追いつかない。



<人型>がくの字に曲がった槍を捨て、足が地面に刺さり動けないユートに口腕で追い討ちをかける。


だがそれを剣でいなし、体を捻じっただけでかわした勢いそのままに、剣で切り落とした。


さらに返す刀で胴を真っ二つに切り払う。


<鎧付き>のはずの体が、あっさりと分断され、地面に落ち、動きを止めた。



倒…………し……た……?



目の前の状況が理解できない、何が起こっているんだ。この男は、何だ?誰だ?



「大丈夫ですか!?」



振り返り話しかけてくる。昼間会った青年。ユートだ。うん、見た目は私の好みど真ん中。


…何を考えているんだ私は?



「わ、たしは…」



上手く、声が出ない。心が、現実に戻ってこない。



『案ずるでない、もう命に別状は無い。じゃが見た目より体内の傷が深い。処置に時間がかかる。』


「分かった。」



話が私を置き去りにして進んでいく。


何かを納得したユートが脇目も振らず再び屋敷囲いの中に走って行った。



「わ、たしは…」


「あー気持ちはわかる。混乱するよな。だが、受け入れろ。アレはそういう存在なんだ。規格外。考えるだけ、無駄。」



白髪の少女が受け入れろ、と言う。


この少女もどう見ても10歳程度の少女なのに治癒魔法を使用して、飄々としている。


現実離れした光景の連続に、さらに混乱が進む。



「これは、夢?私は、死んだ?」


『夢では無い。おんしは生き延びた。運がよかったの。』


「運が?」


「まーな。通りかかったのがオレらで無かったら間違いなく死んでたな。」


「運…」



運が、良かった?そうなのか?混乱した思考がおかしな回路を形作る。


運、そうだ、運命。私は今日彼に出会い、運命的なものを感じた。


そして、死ぬ筈の所を彼に救われた。私は彼に救ってもらう運命だったのか。


ならば、彼こそが私の求めた理想の、運命の相手………!



「運命だ、これは、運命だったんだ…」


「?」


『ところでおんし、執事は?』



意識が桃色になっていた所に冷や水をかけられる。そうだ、セバスは、



「<人型>の一撃をモロに食らって馬車に突っ込んだ…まずい、あれでは、死んでいるかもしれない…」


「そいつはやべーぞ…」


『ユートに伝える。あちらに任せようぞ。』


「流石、憑いてるだけあるな。遠距離会話も出来るんだな。」


『うらやましいじゃろ?』


「便利そうだとは思うがな…」



「セバス、ごめん、私はお前を忘れた。理想の男を目の前に色に狂ってしまった。許してくれ…」



無事な右腕で顔を覆い隠し、懺悔する。



『・・・』


「何を言ってるんだコイツ?」


「あぁ、だがセバス、止まらないんだ。もうダメなんだ。許して、許して…」


『あー、連絡が来たの。どうやら執事は生きておるようじゃぞ?』


「本当か!良かった、セバス、生きていてくれたか…ならばこれでもう私を苛む物は無い…私は、愛に生きる」



「オイ、なんか、ヤバい気配がする。」


『…間違いなく、フラグが立っておるの』


「なんだよフラグって」


『気にするでない。』


「子供は、沢山欲しいな…女の子しか生まれないだろうけど…」



「あぁ…、でも何となく見当が付くのが嫌だ。」


『血の雨が降らねばよいが…』



二人が何かを話しているが私の心は未来の家族計画について思考していた。

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