3-4<人型4>
「大丈夫ですか!?」
崩れ行く<人型>を尻目にメリアの安否を心配する。
「わ、たしは…」
『案ずるでない、もう命に別状は無い。』
口をぱくぱくさせ言葉の上手く出ないメリアの代わりにマールが答えた。
『じゃが見た目より体内の傷が深い。処置に時間がかかる。』
「分かった。」
マールとオサにメリアの治療を任せ、さっき這っていた足の千切られた男の下に走る。
相変らず止血をしていない…そして、出血が止まっていた。
遅すぎたのだ。失血死していた。
「くそっ」
なんの手立ても用いず死体となった死者は最早蘇らない。
悪態をつき、他の犠牲者は?と周りを見回した。
『例の執事が馬車に吹っ飛ばされたそうじゃ』
頭の中にマールの声が響く。遠距離会話も可能なのか。
『妾の本体はおんしの中じゃ。意識すればそちらに意思を戻せる。それより急げ、不味いかもしれん。』
マールの声が急かす、慌てて馬車に向かう。
どれか分からなかったが一目瞭然だった。
横っ腹に大穴を開けられた馬車がある。後ろに回って中を覗く。だが、居ない。
貫通して反対側を転がっていた。
慌てて近づき首で脈を確認する。意識は無いが、生きている。
「―Auvies Atd dit Per Weinne Heirons Wndddeh IercifdiG―
<ヒーリング>」
治癒魔法をかける。外傷は細かいものだが、馬車を突き抜けた時の衝撃でだろう、骨と内臓をかなりやられている。危険な状態だ。
(マール、セバスさんを見つけた。かなりの重傷だが生きてる。助かる。)
『了解、じゃ。ところでおんし…また変なフラグを立てたようじゃぞ…』
フラグ?なんだその不安な感じのする響き?また<意乗の言>のせいで変な意訳が?
今は、忘れよう。治癒魔法を続ける。治癒魔法は得意でない、集中しなければ。と、そこでふと思い出す。
(<魔晶石>の回収を忘れていた。オサにでもたのんでくれ。)
『…オサも治療中じゃ、それに<魔晶石>は魔族の<魔導心臓>と違ってそこから再生したりせんぞ?』
(…そうなのか?)
『うむ。安心するがいい』
(…分かった。)
一つ問題が解決した。治療に集中する。
繋ぐまでは行かないが、折れてあちこちに刺さった肋骨の位置だけを戻し、
肺に入った体液と血液を抜きあらかた血管内へと戻し終えた所で、セバスさんがむせた。
「ゴフッゴホッ…ガハッ…………ハ、……ユ、ユート様?…メリア、様は!?」
同時に意識も取り戻す。
「まだ動いちゃダメだ。メリアさんも無事だから。」
「私は…、<人型>は……?」
「瀕死だったんだ。まだ内蔵がかなりやられている。<人型>はもう倒された。」
倒した、とは言わないほうが良いだろう。一人でやれる相手では無い筈だ。
「そう、ですか…マルナス様…は?」
「マルナス…様?小太りの偉そうな服を着ている?」
「そう…です…」
「残念だが、間に合わなかった。失血死だ。」
「そう…ですか………グッ」
確認したい事は終わったのか自分の体を動かし、無事な腕を胸に当て、詠唱を始める
「―Vinezg-le [m] misffeal Ceund ppouron'de Blessth oa Curaiful―」
「おい、よせ」
「<治癒回生>」
治癒魔法が発動する
「私は、大丈夫です。動けるようになれば…戻ります。今は…お嬢様の方を。」
自らに治癒魔法を行使する様を見て首肯する。この人の治癒魔法は我流の俺やマールよりも上等だ。
治癒魔法を止め、メリアの元へ向かうことにした。