3-2<人型1>
アルモス卿が戻った。
ギルドを後にし、セバスと共にこの街に居留している草と合流し、
ギルドで得た情報と比べても特に目新しい情報も無い報告を受けていた時に、その一報が届いた。
目新しい情報も無いのにこれ以上聞くことも無い。
と早急に切り上げ、急ぎアルモス卿の邸宅へと向かう事にした。
そこで私を待ち受けていたのは、邸宅の敷地へと入る馬車と人の列だった。
「アルモス卿はおられますか?」
セバスが門番らしき兵に話しかけている。
私は馬車を睨みつけて考え事をしていた。
この時期に神殿に向かった、という話だ。何故向かった?そして何をして帰って来た?何かを確認してきたのか?
――やはりアルモス卿は怪しい。
「お嬢様、アルモス卿は中に居られるそうで、話を聞かれるそうです。」
セバスが語りかけてきたので思考を中断する。
後は、本人に聞けばいい。
門をくぐり、敷地内へと進むことにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
妙に高く厚い屋敷囲いの裏は、庭園ではなくだだっ広くならされた地面だった。まるで軍の訓練用地かワイバーンの発着用地だ。
そんな広場の奥に数台の馬車が並べられ、その前で偉そうな格好をした小太りの男が激を飛ばしていた。
あれがアルモス卿だろうか?
とりあえず近づき、話を聞いてみることにする。
大分近くに寄って顔が見えた時に思った。身なりは良いが若い。ふむ。どうやら息子か何かのようだ。
「失礼、私はメリアルーナ=ルグス=アーリントンだ。アルモス卿は何処におられるのだろうか?話があって来たのだが。」
失礼の無いよう話しかけた。つもりなのだが、ねめつけるような視線を返される。
値踏みするようないやらしい視線。…ちっコイツも同類か、虫唾が走る。
「ようこそメリアルーナ殿。今は俺がアルモス卿だ」
いやらしい視線をした小太りの男がいやらしい笑顔でそう答える。
だが、どういうことだ?
「失礼ですが、アルモス卿は現在40台後半であられた筈なのですが、貴方は若すぎるように見受けられます。ご子息のマルナス様ではございませんか?」
セバスも口を挟む。確かに若すぎる。この男はどう見ても20台半ばといった所だ
「ああ、その通りだ。だが親父は先日崩御した。今は俺がこの家の家長だ、故に問題ない。」
「崩御、ですか?何があられたのですか?神殿に向かわれたと聞き及んで居たのですが?」
「あぁ、王女を襲ったと思われる<人型>が発見されてな。それを確認に向かい、殺された。無様なものだろう?」
王女を襲ったらしい<人型>だと?
確かに<人型>なら兵士が持った剣を拾って使う場合もあるだろう、膂力も説明が付く。
そして、魔力の高いソフィーを丸呑みにした…
一度は推測し、それはない。と断定した最悪の想像が脳裏を掠める。
「そ、それは本当の事なのか?王女は?ソフィーは本当に<人型>に!?」
「それは不明だ。それを調べるためにこれから解剖をしようと思っている。」
何を、言っている。
倒したモンスターは一部を残して消失する。解剖など出来るはずが無い。
なによりモンスターを捕獲してきた、とでもいうのか?
「何を言っている!?モンスターを捕獲して来たとでも言うのか?」
「あぁ、その通りだ。」
「どうやって!?」
「一々叫ぶな…五月蝿いヤツだな、それを言う必要があるのか?」
そう言われれば、無い。
黙り込む。何か良い言い分は無いか、何か
「それが本当としまして、解剖すれば判明するのですか?王女様が、食べられてしまったのか否かを」
黙り込んだ私の代わりにセバスが語る。
「わからん。」
「そんな!」
「我々は王女様失踪の痕跡を追ってここまでやってきました。マルナス様、貴方のお父様には王女誘拐、もしくは殺害の嫌疑がかかっています」
セバスが一気に本題を切り込む。当人が居ないとなれば確認した方が早いと踏んだのか?
「はっ!親父のやつはまだ諦めてなかったのかよ!」
「まだ、諦めてない、とは?」
「親父が死んだから教えてやるよ。先代の王を殺したのはな、親父だ。」
「なんだと…?」
コイツは何を言っている?
「親父はな、先代の王妃にホレてたんだよ。だから<意言の首輪>に2つ細工した。
召喚された王は<意言の首輪>をつけている限り不能になり、
最後は首輪に仕込んであった<傀儡子>の魔法をかけられて裏切って死んだんだよ!
親父もいい年したオッサンの癖によ!その当時にはもう俺も生まれてたってのにだぜ?
だが親父はその後失敗した。傷心の王妃に取り入ろうと企んだが悉く拒絶された。
当たり前だよな、バカじゃねぇの?って思ったぜ。
だから今度はその娘にでも手を出そうとしてたんじゃないのか?
流石だぜ親父、最低、最悪だ。ハハハハハハハハハ」
なんて、ことだ。それが事実だとすればあの時の悲劇の全ての辻褄が合ってしまう。
では、この男の父親のせいで?
叔母は悲しみ、絶望し、病の果てに王家の為、と祖父に抱かれる道を選び。
祖父はこの国を支え、貴族連中からソフィーを守る為に命を削る事になったというのか?
この男の父親のせいで!!
私の周りに炎が燃え上がる。怒りに、魔法が暴発している。
愛用の片刃の肉厚な剣を抜き、つきつける。
「今の話は、事実か?」
「今更嘘を言ってどうする?後当時俺は3歳だ。関係ないぞ?」
「だが、アルモス家を断絶するには十分な理由だ。」
「何言ってやがる?当人はもう居ない。俺には関係ないだろ?」
「お前はバカか?それでも十分だ。先代は崩御したらしいが王家による家督の認可は済んで居ない!今はまだ死んだアルモス卿が家長だ!」
「ふざけんな!今の家長は俺だ!勝手に俺の家を潰そうとしてんじゃねぇ!」
豚が喚く。うるさい馬鹿が、分からないのか、黙れ。
「もう一つ、確認したい事があります。」
「あぁ!?」
セバスが口を挟む。その冷静さも今はカンに触る。だが、反応したのはこの豚だ。
…セバスに当る意味は無い。黙って先を促す。
「アルモス卿には王女の護衛を3人拉致し、すりかえた嫌疑がかかっています。それもお父上が?」
「それはっ…」
豚が、どもり、目を泳がせる
一気に炎が燃え上がった。剣を持った手で顔面を殴りつけ、胸倉を掴み、吊り上げる。
「貴様が、貴様がやったのか!ラミレスとディンとマーベリックはどうした!!」
「てっめ…放しやがれ……!」
「答えろ!!」
「うるせぇ、農民上がりの…兵士の3人なんか…知るか。ってんだよ。野犬のエサにでもなったんじゃねぇか。」
「貴様!!!!」
私の怒りが頂点に達し、豚を殺そうと動きかけたその時
背後で荷馬車が爆発した。