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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第2章 合流編
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3-1<人型3>

買ったばかりの剣を鞄に仕舞い、こっちの方が近いという事なので行きとは別の道を使い宿に帰る事にした。


石畳で出来た広い道と高い壁、その向こうに見えるやたらと大きな邸宅。


高級住宅街。そんな感じの所を歩く。


人通りは露天だらけの表通りと比べ少なく、閑散としていた。殆ど無いと言って良い。


数件通り過ぎ、一際大きな屋敷囲いの前に差し掛かった所で、


オサが親指で指差して心底嫌そうな声で「ここがここいらの領主の家だぜ…」と、呟く。


へぇ、ここが例の…と、指差された巨大な屋敷囲いの塀へと目を向けた時だった。




轟音と砂煙を上げて屋敷囲いの塀が砕け飛び、目の前の道に大きな人影が躍り出て来た。




人?巨人?いや、良く見ると2人だ。



2m半はある黒い巨体の人影の方は、胴体部分に巨大な馬上槍らしきものが根元まで突き刺さっている。


そしてその槍の柄を抱き抱えた全身赤い人物が見えた。


飛び出した2つの人影は、そのままの勢いで地面にバウンドし、転がった拍子に槍を持っていた方の赤い人物の腕が離れ、落ちる。


勢い余って地面を転がる赤い人物。その転がる様が酷い。


ボロボロ、いや、あれはもう良くて瀕死の重傷じゃないだろうか?



「逃げろ…!!!」



血まみれで手足が明後日の方向を向いた赤毛の人物が顔だけを上げこちらに叫ぶ。


女性、聞き覚えがある声。



メリアだった。



「おい、あれ」



オサが何かを言おうとした時にはもう全身の<強化魔法>を活性化させメリアに向かって駆け出していた。



「マール、メリアさんを頼む。」


『心得た。アレはモンスターのようじゃな。』


「見れば、分かる」



加速し一足で突っ込む。メリアを抱えて攫おうかと思ったが、重傷過ぎる、動かすのは命に関わると判断。


異形の人影を勢いそのまま飛び蹴りでその場から押し飛ばしながらマールを残す。



「馬鹿、逃げろ!」


『そうもいかんのう』



メリアが悪態をつく。


同時にマールが取り付き治癒魔法を使用し始める。



ざっと見ただけで全身血と土にまみれ、手足は全てに貫通創が幾つかと、両足と左腕に酷い骨折が見られる。


顔や腹部には殴打の後、そして先ほどギルドで出会ったときに着ていたハーフプレートの鎧と服の前面部分が剥ぎ取られ、首元から太腿まで大胆に肌が全て丸見えだ。



何が、あった。



痛々しくあられもない姿を隠してあげたいが、今の自分の服は外套が有る訳でもなく、パッとは脱げない作り。


変わりに鞄から<雪毛鹿の毛皮>を取り出し、投げるように手渡す。後はマールがやってくれる。


さらに鞄からさっき買った剣を取り出す。鞘から抜き出し鞘も投げる。この際、邪魔だ。



「ユート?…無茶だ、逃げろ、あれは<人型>、<鎧付き>だ!!一人ではだめだ!!」



メリアが叫ぶ。話しかけた相手が俺だということに気づいたようだ。


蹴りで押し飛ばした<人型>というらしいモンスターがゆらりと起き上がり、肥大化した右腕で柄を掴み腹の槍を引き抜く。


そのまま槍を持って跳躍、こちらに殴りかかって来た。



鈍器を扱うかのように大上段から叩きつけられた槍を相手の横に回りこみつつかわし、もう一度胴体を押すように蹴り、崩れた壁の中へと蹴り飛ばす。


先ほどと違い慎重な蹴りだ。この体格差、助走も無い。本気で蹴ったら足が刺さるか、俺の方が反動で弾かれてしまいかねない。


目論見通りに蹴り飛ばした<人型>を、そのままの勢いで追いかけ、粉砕した屋敷囲いから敷地内に飛び込む。



観察する。


<人型>、森では出会わなかったモンスター。


人と同じで手足が2本一対づつ寸胴な胴体に繋がっている。骨格も直立歩行のものだ。


肌が黒っぽく硬質になっているが、恐らくその呼び方の通り人が変質したモンスター。間違いないだろう。


異様なのは腕、両方とも肥大化しているのだが、特に右腕がシオマネキのように過剰に肥大化している。


さらにその肥大化した両肩の肉に埋もれるように頭が埋もれてしまっている。肩の上はかなりフラットな感じだ。


そして肥大化した右腕に、奇妙な形をした柄を持つ2m半はある馬上槍を握って殴りかかってくる。



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



ブオンブオンと荒々しい風切り音を立てて振り回され、息つく事無く繰り出される槍の猛攻をかわす。


動きは、早い。


そして、若干ではあるが、間合いが伸びる。


威力もかなりあるようだ。だが、槍もそうとうな強度なのだろう、何度か地面に叩きつけられているが壊れる様子が無い。


かわし、弾き、切り付け、観察を続ける。


槍を持たない左腕が、出し抜けに突き出される。遠い、何故?と考えたら腕ごと鋭く尖った指が伸びた。



メリアの貫通創はこれか!



かわし際に剣で伸びて来た指を横から切りつける。さっきから感じていたが全身が、硬い。


切りつけると言うよりも殴りつけたような感触。<鎧付き>とはそういうことか。


それでも比較的細い指は何本か千切れ、へし折れる。


指を折られた為か絶え間の無かった猛攻に隙が出来たので、大きく一歩下がり周囲を確認する。



屋敷の壁沿い、遠巻きに10人ほどの人の壁。 


そしてそこから少し近づいた所に数台の馬車と、馬車らしき残骸と下半身むき出しの男。


しかし両足を膝の上から失い這っている。



服ごと足を引き千切られた?そして見たところ止血をしてない。


あのままでは、不味い。間違いなく死ぬ。


助ける、べきか?だが<人型>の猛攻をいなしていては対応できない。


セバスさんは、居ない?


少なくとも、見当たらない。



「止血を!!」



叫ぶ、それしか出来ない。


だが、誰も男には近寄らない。自分で止血もしようともしない。


遠巻きの人もモンスターに近寄るのは怖いのだろう。仕方ない。


マールはメリアの所だ。



<人型>は硬い、と言うより弾力がある。剣の鋭さが足りない。


数センチ程薄く切れるが、これでは剣だが効果は鈍器に近い。



もっと力を込める?いやだめだ、恐らく剣が持たないだろう。



そして高い弾力性のせいで、ダメージはそれほど通っていない。


こうも矢継ぎ早に攻撃されては鞄からナイフを取り出すヒマも無い。



ではこの剣を全力で投げつけて見るか?



…それもだめだ。ナイフや槍でもあるまいし、俺では中途半端な長モノは上手く投げられない。


致命傷にならないだろう。



すぐさま倒して、止血をする事ができない。



どうする?攻撃魔法?そのヒマは無い。ならば、



新しく<強化魔法>を選択、活性化する。


ソフィーに説明した基礎になる常時発動型の1段目、


待機状態から活性化させることで身体能力を爆発的に上げる2段目、


そのさらに上の段階、3段目。


己の肉体だけでなく、身につけた装備を肉体の一部として認識させて強化する。俗に言う<外部強化>



剣に魔力を流し、俺の体と循環させる。


聞くのを忘れて居た為伝導率と耐久力は分からない、砕けないでくれ。祈りながら慎重に流す。


ヴゥンと剣が低い唸りをあげ淡く発光する。マールの使った<付与>の魔法に似た光。


どうやら<甲盾熊>戦で<硬固>をかけた鉄剣に試した程度の魔力は平気のようだ。



なら、これで、切る!



横から薙ぎ払うような槍の一撃を飛び越えてかわし、頭上から縦に切りつける。


<人型>も槍を持たない左腕でガードをして来る。



その腕ごと、切る!



腕が肘から先で切り離され、肩口に剣がめり込む。だがまだ切れ味が足りない、速度が落とされてしまった。


20センチそこそこ切り込んだ所で剣が止まる。



まだ致命傷ではない。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」



片腕を切り落とされた<人型>が一際大きな雄たけびを上げ、振り切られた槍が再び戻ってくる。


剣が刺さったままで足も浮いた状態、かわせそうに無い。


来るであろう衝撃に、備える。


ブオン。と風を切った槍が俺の胴を捕らえ、振りぬかれる。



吹き飛ぶ。だが横薙ぎに振るわれた槍の直撃した衝撃で剣は抜けた。


先ほど開いた屋敷囲いの横まで吹き飛ばされ、轟音を上げて激突し、壁がさらに崩れ、降ってくる。


不味い、埋まる。



「ユート!」



すぐ近くで治療を受けていたメリアが悲鳴を上げる。


その声に反応した<人型>がメリアに向かってジャンプをし、飛び込みながら槍を大上段から振り下ろす。



崩れて来る瓦礫が直撃するのを無視し、飛び出す、落ちてくる破片を体で弾き飛ばしながらメリア達と飛び込んでくる<人型>の間に割って入る。


上から叩き付ける軌道で槍が迫る。



弾く?いなす?無理だ。このまま受け止めるしかない。



右手の剣を盾に刃の陰に左腕を沿えて槍の一撃を止める。


<強化魔法>の効果で横っ腹で受けても剣は折れはしない、だろう。問題は



ガアアアアンと金属がぶつかり潰れるような、甲高くて重い音が鳴り響く。



衝撃を受けきった両足が、脛まで地面に沈む。



「ヒッ」



メリアが引きつった悲鳴を漏らす。


渾身の一撃を受け止められた衝撃で槍の柄が曲がり、折れる。


俺が耐え切ったのが意外だったのだろう。体勢を崩した<人型>が、たたらを踏み半歩、下がる。


さらに持ち難かったのか、曲がった槍を投げ捨て、肥大化した腕を開き、掴みかかろうとしてくる。


そこに、見えた。



…そこが、口だったのか。



肥大化した右腕、その手のひら全面が口だったのだ。


話で聞いたモンスターの行動の基本は食欲。なのに頭が埋まり口が無いのは何故かと思ったらこんな所にあったとは。


だが、長物を失いただ真っ直ぐ来るだけの腕をかわすのは容易い。


いくら早いと言っても、魔族程でも無い。


再び両手で剣を握る。突き出された腕を剣でいなし、上半身だけでかわし、その腕に這い上がるように体を沿わせ、割り込ませ、剣を振り上げる。


巨大な右腕は二の腕の半ば程で切り離され、落ちた。



剣を振り上げる勢いで足を片方引き抜く。さらに返す刀で<人型>の胴を薙ぐ。


風穴の開いた胴はろくな抵抗も無く切り裂かれ、上半身と下半身が分かれた。そこまでだった。

今回迷いに迷ったのですが、勢いで書いたままのこの3を先にもって来ました。時系列を守るよりも自然かな?と思いましたので。

とりあえず1、2は12時間更新で追って投稿しようと思います。

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