2-7<昼食・雑談>
メリアさんとセバスさんが出て行き、程なくしてオサが奥から戻ってきた。
「あ゛〜めんどっかった。」
「お疲れオサ」
『またえらく時間がかかったのう?』
ぽすん。と正面の席につく。
「おー、なんせモノがモノなせいでよぉ…根堀葉堀説明を求められちまってよぉ…」
そう言いながら俺とマールも見ていたメニューを開く。
「まぁ大概は誤魔化したが。俺が倒した訳じゃねーから。ってな。へへへ」
「お前らメシは?もう食ったのか?」
「いや、まだだよ。」
『おんしを待っておったんじゃぞ。わざわざ、な。』
「そりゃ悪い事をしたな、もう決まってるのか?」
「ああ。」
『うむ。』
頷く。
「おっけ、お〜〜い姉ちゃ〜〜ん。」
「はいは〜い」
受付のお姉さんを呼び、料理を頼む。
注文を受け取ったお姉さんはパタパタと裏の厨房に入って行った。
「あん?そういえばお前ら、文字も読めんの?」
「そういえば…読めたな。」
言われてみて始めて気づいた。そういえば読める。
『便利じゃろ?』
「言葉じゃないのに大丈夫なんだな…」
思い当たる節はいつかかけてもらった<意乗の言>しかない。だが、そこまでの汎用性が…?
『何で視覚情報と聴覚情報をおんしらは分けたがるのじゃ?受ける器官は違えど結局はどちらも同じ波でしかないぞ?』
「すまん。何言ってんのか分かんねぇ。」
「言ってることは分かるが、それとこれとは違うような…。光波と、音波…?納得し難いな…」
「…お前分かるのかよ?意外と学あったんだな…」
『意外と、とはまた、ククク、確かに意外じゃな、ハハハ』
「…心外だ。」
確かに習った事ではない。たまたま見た程度の、それもうろ覚えの知識だ。
だが、そのたまたま見る知識は現代日本では膨大だったのだ。
少し興味が湧けばインターネットで検索すればそれなりに詳しい情報が得られる。
最も、無駄知識、と言われればそれまでだが。
「それで、どうだったんだ?オークションはいつに?」
話題を変える。
「あぁ、オレの分は来月だ。大物が出るときは各所に通知して買い手を募るからな。
お前の分はオークションに出すまでも無いってんで換金してもらったぜ。まぁちょっと割安になったろうが、オークションにかけても手数料で大差ないしな。」
路銀にするんだろ?手持ちで有った方が良いと思ってな。そう言ってオサが俺に鞄から取り出した重そうな袋を寄越す。
覗いてみると、金、銀、銅ぽい3色の大小様々な硬貨が入っていた。
「占めて176万1840G。手数料の5%は88092だが細かいトコは切り捨てて88000でいいや。で、それを引いた167万3840Gだ。」
「この辺の並みの家が3件は買えるぜ。路銀としては十分以上だな。」
「さすがに暗算できないんだが…せめて紙とエンピツが欲しい…」
『妾もそういうのは苦手じゃ…』
「ま、そうだろうな。だが安心しろ。これだけ儲けさせて貰ってるのに不義理はしねぇさ。祖先にかけて、な。」
確かに、そういうならそうなのだろう。決め台詞も出たし信頼しよう。
「わかった、でもこれ混ぜてていいのか?金貨、銀貨って柔らかそうなんだが…」
「あん?貨幣がなんで柔らかなんだ?」
『案ずるでない。こういうものは純金・純銀でなく混ぜ物がして有っての、硬くなっておるんじゃ。ようするに合金というやつじゃな。平気じゃよ。』
「なるほど…そういう理由も有ったんだな混ぜ物をするのに」
てっきり純度を下げて水増しする為だと思ってた。
「オレには何を言ってるのかさっぱり分からねぇ…」
オサは言ってる言葉すら理解できないと言いたげな顔で俺たちを見る。
「あんたたちな〜んか難しい話してるね〜?意外。あんた学あったんだね〜」
そう言いながらお姉さんが料理を運んできた。
パエリアっぽいもの。豪快な肉の塊。サラダっぽいもの。他にも色々、どれもボリューム満点でうまそうだ。匂いだけで唾液が溢れ出す。
「ほんとなぁ?意外だったわ。ユートもマールもなんでそんな学あんだ?って気分だ。長寿族のオレの面目丸つぶれ。」
「うーん、ちょっと説明しかねるね。」
『妾は大抵の場合知っておるのでなく知れるだけじゃしな。全部とは言わんが。』
「知れる?」
『そうじゃ、質問に答えるのは得意じゃと言ったろ?答えを知れるからじゃよ。』
「はー、それは便利そうだな…いまいち分からんが」
「なんだかすごいですね〜それじゃ試しに聞いてみたいんですが、王女様は今何処にいますか〜? 」
お姉さんが出し抜けに質問をしてきた。そしてその内容に内心ドキリとする。
『残念ながら答えられぬ。』
「え〜でもなんだかその言い方だと生きているのは確かっぽいですね〜?」
『あぁ、生きて、この世界に居る。命に別状も無く、自由を侵害されてもおらぬ。そこまでじゃな。答えは分かってもそれを聞けるかは聞く本人の資質次第じゃ。諦めよ』
「本当なんですね〜?十分です〜ありがとうございます〜」
「王女様に何か?」
動揺を隠し、質問する。ソフィーが失踪している事は機密扱いされているはず。と言っていた。
カマをかけられているとしたら、俺の事も見当が付いているのかもしれない。
「あ、しまった。秘密だった…」
「おいおい、どういう事だよ?」
「ごめんなさい。忘れてくれないかしら?」
『今更、じゃの。何、この国の姫は知られる限りで12日前に神殿で<召喚魔術>を使用してから行方不明で生死不明なだけじゃ。ついでに<召喚魔術>も成否不明という事になっておるようじゃの。』
オサとマールも合わせる。上手い。
そして次々とマールが語る事実の欠片にお姉さんが驚愕する。
「貴女本当に何でも分かるのね…ギルドの情報網で掴んでいる事にそれ以上の事まであっさりだなんて…」
『何でもという訳では無いのじゃがの』
「妖精さん情報網…?いえ、それでも十分凄いわ…スカウトしたいぐらい。」
『妾は主の下を離れぬし、主に害を成すモノには容赦せぬ。後、魔族じゃ。』
「肝に命じて置くわ。それから、情報ありがとう。助かったわ。すごく、すごくね。」
『何よりじゃ』
そう言ってお姉さんが踵を返しまた奥へと、かなり急いで引っ込んで行った。
とりあえずおかしな空気になってしまったが箸を進めることにした。と言っても箸は無いが。
「けど、なんだってあんな感謝されてたんだろう?」
『情報が一切無いんじゃよ。失踪したか死んだかも分からん状態じゃったのじゃ』
「………お前のせいだな。この規格外男…」
オサが半眼で俺をねめつける。…ジト目だ。
「言い訳できないね…」
『ともあれ、これでギルドは王女の生存を知った。動きも変わるじゃろ』
「どういうことだ?」
『みなまでは言えぬよ。だが、妾は平和な国の方が好きじゃ』
「は、なるほど王家が途絶えてたら内乱の可能性があったのか。」
『流石に聡いの、概ね、正解と言っておこうかの。』
「そうかい。」
「俺も平和な国が良いな、これから住む事になるんだし。」
「勿論オレだってその方がいいさ。」
会話を切り上げ3人で料理に舌鼓を打つ。スペシャルとかデリシャスとか付いていない料理は予想よりも相当に美味しかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「なぁ、後で良いんだが、実はオレも一つ聞きたい事があるんだ。」
食事もあらかた済ませたころで、オサが深刻な声色でぽつり、と呟いた
『答えよう。じゃが、その質問に答えるためにはおんしに一つ答えて貰わねば成らぬ事がある。』
「お前が質問するのか?分かるんじゃないのか?」
『妾の分からぬ領分、という事じゃよ。』
「……………今は、まだ良い」
『そうじゃろう、な。』
…何か分からないが、その深刻な雰囲気に俺は口を挟む事ができなかった。